俺の代わりをしてくれて、助かった。
ロイがレイラさんと向こうに行って、約一月が経ったある日。
「・・・疲れた」
と、なんだか少々窶れた顔をしたロイが帰って来た。
「あら、お帰りなさい。そんなに疲れた顔をしてどうしたの?」
「そんなに疲れる旅路だったのか?」
怪訝な顔のミモザさんとトルナードさん。
「いや、セディックさんの八つ当たりがちょっとな・・・お前の兄貴、愛が重い」
「え~っと?」
ちょっと、ロイがよくわからないことを言っている。
「セディーが八つ当たりなんて、そんな子供っぽいことするワケないでしょ? なに言ってるの? そもそも、なにに対する八つ当たりなの?」
「セディックさんの愛が重いことは否定しないんだなっ!?」
「まぁ、一応? セディーがかなりのブラコンなのは自覚してる」
「お前も大概だからなっ!?」
自分だって、割と無自覚なシスコンのクセに・・・まぁ、言うとウルサそうだから言わないけどね!
「セディック君になにをされたの?」
「なにをっつーか……ネイサンの代わり? に、仕事手伝えって、めっちゃ計算させられた」
「ロイ、ネイサンがこっちでお前の代わりをしていたんだから。あちらでお前がネイサンの代わりを求められるのは、なにも不思議なことじゃないだろう」
「そうね~」
やれやれという呆れ顔でロイを見やるトルナードさんとミモザさん。
「いや、『ネイトの代わりに鍛えてあげるね?』とか薄ら寒くなるような圧のある笑顔で計算表を山積みにされて、人が一生懸命計算してたら、チラッと覗き込んで、『遅くない?』とか『ここ間違ってるからやり直しね?』とか、『字が汚いから書き直してね?』ってチクチク言って来るんだぜ! しかも笑顔で! つか、チラッと見ただけですぐ答え判るなら自分でやった方が早いだろ!」
「計算は慣れだからね。って言うか、ロイを鍛えてあげるって話なんだから、セディーが自分で計算しちゃ駄目でしょ? それに、二重チェックは基本だし」
「そうだな。セディック君はなにも間違っていないし、悪くないと思うぞ? 字の書き損じや計算間違い、読み間違えられる程の汚い字は書類の不備だ。それに、ハッキリ言ってロイよりもネイサンの方が書類の処理が早いからな。セディック君がネイサンと同等の手伝いをロイに求めていたのだとしたら、むしろ期待外れだったのではないか?」
「そうね。むしろ、足を引っ張っていたであろうロイを、文字通りに鍛えてくれたんだから。文句を言わないで感謝しなきゃ」
「うぐっ!?」
「きっと、ミスばかりするロイに、セディック君もイラ付いていたでしょうし」
「まぁ、ロイは知らないと思うけど。セディーって、興味無い人や嫌いな人はそもそも近寄らせないタイプだし。若干イラ付いてても相手するなら、ロイは嫌われてないってことだよ?」
「あの当たりのキツさで、嫌われてないとか嘘だろ……」
「それじゃあ、さっさとお風呂入っちゃいなさい」
と、ロイが帰って来たので・・・
わたしもそろそろ向こうに帰らなきゃなぁ。
それから、出産に立ち会いたいというロイの要望でトルナードさんと相談して、レイラさんの出産予定の半月程前にはロイが向こうに行くことになった。
無論、その期間のロイの代わりはわたしが務める。
「はぁ・・・向こうでの滞在中は、またお前の兄貴のイヤミ攻撃を食らうのか」
自分で言い出したクセに、今から憂鬱そうな溜め息を吐くロイ。
「なら、フィールズ公爵家に滞在すればいいんじゃない?」
「あっちはあっちで、ルリアの当たりがキツい。なんか知らんが、圧が掛けられる」
「ああ、ルリア嬢……」
結婚式のとき、レイラさんのことでロイにガツンとかましてたからなぁ。
レイラさんはよく、「ルリアってば、レイラ姉様のことが大好きなのね♪」って喜んでいるけど。あれ、実は結構本当のことっぽいんだよねぇ。
ルリア嬢的には、幼少期からエリオットを庇う為にレイラさんの気を引いて自分に構わせていた、というつもりなのかもしないけど。でもそれが、エリオットとレイラさんが和解した現在まで続いているワケじゃないし。
ルリア嬢もまた、無自覚なシスコンなのかも。ロイに当たりがキツいというのも、実はレイラさんをロイに取られたという嫉妬だったりして・・・?
それに、最近はめっきりセディーに似た笑顔をするようになっちゃって。セディーに若干の苦手意識? を持っているらしいロイからしたら、ルリア嬢のこともちょっと苦手になって来ているのかも。
「それじゃあ、行くのやめる?」
「いや、絶対に行く!」
「まぁ、どうせあと数ヶ月は先のことなんだから今から心配? してもね」
「お前、なんかこうめっちゃ図太くなったよな」
「ふふっ、よく言われるねぇ」
「けど・・・俺の代わりをしてくれて、助かった。礼を言う」
「どう致しまして。ま、こういうのはお互い様だからね。全然気にしなくていいよ?」
「・・・つまり、お前になにかあったときには手を貸せ、と?」
「御互い様って、そういうことでしょ?」
「別にいいけどなっ」
そんなことを話して――――
うちに、帰ることにした。
離れ難い……とは思うけど、そもそもスピカは普段は学校だし。平日のクロシェン家にはいない。
週末にまた会いに来るから、と伝言を残して。
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読んでくださり、ありがとうございました。




