ターシャおば様がめちゃくちゃ喜びそうではありますが・・・
「ぼ、暴君って、レイラ様がですかっ? こんなに可愛らしいのに?」
まぁ、レイラ嬢はちょっと吊り目気味で小柄。どこかツンとした感じの、猫を思わせるような可愛らしい容姿をしている。見た目は、なんだけどね?
「ふふっ、ありがとうございます。実はわたくし、学生時代は乗馬クラブに所属しておりまして。三年生のときに副部長をしていたのです」
「えっと、部長さんじゃなくて、副部長さんなのに暴君なんですか?」
「ええ、わたくしのお友達が部長をしておりまして、わたくしはその補佐役でしたの。ちなみにですが、わたくしの前の副部長をしていたのはネイサン様ですわ」
「え? マジ?」
「うん」
「その頃からですの。わたくし、『暴君』として有名になってしまいまして」
「え? なにそれ? ネイサンが副部長だったときから? ってことは、平の部員の頃から暴君? なにがどうしてそうなってんだ?」
「端的に説明すると、わたくしが二年生のときに少々生意気な新入生が入って来まして。わたくしや女子部員に乗馬を教えてやる、という風なことを言われたので、是非とも乗馬を教えて頂くことに致しましたの。ええ、『淑女の乗馬』を。無論、『淑女の乗馬』に必須のドレス姿で」
「プフっ!? ま、マジですかっ!?」
想像したのか、堪え切れずに思いっ切り吹き出すロイ。
「ええ。丁度、乗馬クラブの更衣室には、貸しドレスもありましたので。当時の部長とエリオットに手伝って頂いて、ドレスに着替えた彼に『淑女の乗馬』を見せて頂きましたの」
クスクスと笑いながら続けるレイラ嬢。
「ハハっ、ハハハハハハハハハっ!?」
「ネイサン様や部長、他の部員の皆様が見守る中、確りと『淑女の乗馬』を教えて頂こうと思ったのですが、残念ながら彼は、美しく乗馬をすることが全くできていなくて……まず鞍に上がるときから。ドレス姿なのに思い切り足を上げて、乗ろうとしましたのよ? そんなことをしたら、中が見えてしまうでしょう? しかも、『淑女の乗馬』だと言っているのに、横座りではなく跨がろうとしましたのよ? 全く、信じられませんわ。それで思わず、女子部員一同で熱の入った指導をしてしまい、それ以来なぜかわたくし、『乗馬クラブの暴君』と称されるようになってしまいましたの」
熱の入った指導というか……女子部員のほぼ全員で、件の男子生徒を囲んで、やれ足を閉じろ、下手くそ、優雅に、つらくても笑え……などなど。まぁ、うん。熱は物凄かった。女子部員一同から罵倒気味の指導を受けた翌日から、その男子生徒が来なくなるくらいには。
多分、トラウマとかになってるんだろうなぁ。自業自得ではあるから、あんまり同情はしないけど。
見た目は兎も角、レイラ嬢は偶に斜め上にぶっ飛んだ言動で周囲を困惑させる。一応、基本的には悪い子じゃないんですけどね。
その偶に出る斜め上にぶっ飛んだ言動は、天然なターシャおば様の血だなぁ……と、明確に感じさせてくれますが。
「そ、それはなかなかっ……思い切ったこと、を……しましたね」
「ふふっ、ええ。わたくしのことを止めず、彼に『淑女の乗馬』を実演させてくださったネイサン様と、当時の部長さんには感謝しておりますわ」
「そ、そうですか……ククッ……」
「れ、レイラ様ってすごいですねっ!!」
「ありがとうございます。まあ、そういうワケでして。エリオットとの婚約解消に加え、学園で『暴君』としても有名になってしまったので、国内での縁談が少々難しくなってしまいましたの」
レイラ嬢は『乗馬クラブの暴君』として、学園内では某見守る会会員以外の男子生徒からは恐れられていましたからね……
おそらくは、そういう彼らからの縁談はあったと思うのですが・・・きっと、ターシャおば様が却下したのかもしれませんね。
ターシャおば様はいつからロイのことを狙っていたのやら・・・?
「……失礼しました。宜しいんですか? フィールズ公爵令嬢。そのようなことを話してしまって。俺があなたとの見合いを断るとは考えなかったのですか?」
コホンと咳払いをして笑いを収め、キリッとした顔でレイラ嬢を見下ろすロイ。
「ふふっ、幾らおばあ様が押し進めている縁談とは言え、この程度のことで断るような方なら、願い下げですわ。素のままでいて苦痛になる方との関係は、長くは続かないと相場が決まっておりますもの。これがわたくしですわ。どうぞ、クロシェン様のお好きになさってくださいませ」
レイラ嬢は胸を張り、挑むようにツンと勝気に笑って見せる。
「では、もう少し俺と話してみませんか? 無論、断ってくれても構いませんが」
イタズラっぽい顔で差し出された手に、
「宜しくってよ」
ふふんと応じて手を乗せ、
「それじゃあ、行きましょうか」
二人は話しながら歩いて行く。
意気投合……とはまた少し違う感じだけど、ロイも縁談には前向きになったということかな?
「行っちゃいましたね~」
にこにこと見送るエリオット。
「行っちゃいましたね……もし、レイラ様が兄様と結婚したら、レイラ様がわたしのお義姉様になるんですよね」
と、二人の背中を見ながら呟くスピカ。
「ハッ! ってことは、ハウウェル先輩とセディック様が僕のお兄様で、ケイト様がお姉様ですかっ!! わ~、それいいですね~♪」
「? フィールズ様が、ねえ様の弟さん?」
「えっと、僕がレイラちゃんの妹のルリアちゃんの婚約者ですからね~」
「フィールズ様がルリア様の旦那様で、レイラ様がルリア様の実のお姉様で、兄様と結婚したら、わたしのお義姉様で……?」
「ハウウェル先輩とスピカ様が結婚したら、セディック様とケイト様がお兄様とお姉様で、僕達は義理の兄弟姉妹になっちゃいますね!」
「ね、ねえ様と結婚っ……」
パッと真っ赤になった顔を押さえるスピカは、相変わらず可愛い♪
心揺れるのか、エリオット。
エリオットが心揺れるというのがわかったら、ルリア嬢がロイとレイラ嬢の仲を猛プッシュしそうな気がするなぁ。
でも、う~ん……わたしがスピカと結婚するのはスピカ次第で決定ではあるけど、エリオットとレイラ嬢が義理の親戚になるって、どうなんだろ?
とりあえず、ターシャおば様がめちゃくちゃ喜びそうではありますが・・・
と、なんかびっくりなロイとレイラ嬢の縁談話というサプライズを受け、スピカの誕生日兼、わたしとの婚約披露パーティーが終了した。
♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫
読んでくださり、ありがとうございました。




