あぁ、会いたかったよ。スピカ。
スピカの誕生日の数日前に、うちを出発。
馬車を数台連れ立てて、のんびりと走らせる。
おばあ様とケイトさんの乗る女性組の馬車と、わたしとセディー、ライアンさんの三人が乗る男組の馬車。リヒャルト君は、そのときの気分で馬車を行ったり来たり。
昔。クロシェン家に行くときには、わたしは要らない子だから一人遠くの家に預けられるんだと思って不貞腐れて。窓の外の知らない景色を見ても、いつもと違うごはんを食べても、一人で・・・楽しいとは感じなかった。
クロシェン家から実家に帰るときには、スピカとロイ、ミモザさん、トルナードさん達と離れるのが寂しくて、何年もみんなと一緒に騒がしく過ごしていたから、久々に一人で過ごす静かな時間に慣れなくて、楽しくなかった。
でも、今は――――
わたしは、要らない子だからクロシェン家に預けられたワケじゃないとわかっている。
・・・まぁ、両親からしたら、わたしは要らない子だったのかもしれないけど。でもそれは、両親の手許には置いておけないという判断で。わたしはちゃんと、お祖父様とおばあ様、セディーに愛されていた……愛されているからなのだと、わかっている。
みんながいて、ちょっと騒がしく構われて、けどその分楽しいと思える旅路。
そしてなにより、これからスピカに会いに行く。
やっと、やっと会える!
両親はもう、ハウウェル家の籍から抜かれていて、実質的な幽閉状態にいるので、余計なことはできない。
本当に、これで誰にも邪魔されることなく、なんの懸念も無くスピカに会える!
きっと、スピカはとっても可愛くなっているだろうなぁ。ふわふわの亜麻色の髪、目の覚めるようなコバルトブルーの瞳で――――
ああ・・・すっごく楽しみだ♪
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スピカの誕生日前日にはクロシェン領に入って、宿に泊まった。
街に入ったのは夕方だった為、挨拶は明日にすることに。
翌日。パーティーは午後から始まるというのに、朝早くに目が覚めてそわそわと落ち着かない。
身支度を済ませて、早く時間にならないかと時計とにらめっこをしていたら、
「ふふっ、落ち着かないみたいだね。ネイト」
「えっと……うん」
「それじゃあ、先に行く?」
「え?」
「僕は初対面だからいきなり押し掛けるのはちょっとまずいだろうけど、ネイトは……クロシェン家に住んでいたことだし。それになにより、スピカちゃんの婚約者でしょ? 婚約者が時間より少しくらい早く行っても、大丈夫だと思うよ。打ち合わせとかしてもいいんじゃない?」
「いい、の?」
「まぁ、ネイトがのんびりしてたいなら、話は別だけどね? おばあ様もケイトさんも支度があるだろうし。あと数時間、待てる?」
「っ、行って来ます!」
「うん、行ってらっしゃい。おばあ様には言っておくから、また後でね」
「うん、ありがとセディー!」
と、セディーに送り出され、クロシェン家に向かうことにした。
懐かしい街並み。見覚えのある道を通って――――
変わっていない、クロシェン家の門。
約束よりも早い時間だというのに、ハウウェル家の紋章が付いているからか、すぐに中へ通してくれた。
「ネイサン・ハウウェル様ですね。お嬢様をお呼びして来ます」
と、暫くしてやって来たのは、目の覚めるようなコバルトブルーの瞳。ふわふわの亜麻色の髪は、今日は結い上げられていて、昔とあまり変わらない面差し。けれど、小さい頃には丸っかった顎や頬のラインは少しシャープになっていて・・・
わたしの贈ったライムグリーンのドレスを着たスピカは、とっても可愛い女の子になっていた。
目が合うと、驚いたように見開かれるコバルトブルー。けれど、にこりと笑顔を見せてくれた。
両腕を広げて、いつもみたいに飛び込んで来るスピカを受け止めようと思ったんだけど・・・スピカは、わたしの腕に飛び込んで来なかった。ちょっと寂しい気もするけど、スピカも年頃の女の子だし。今日はドレス姿だ。さすがに、走ったりはしないのだろう。
「あぁ、会いたかったよ。スピカ」
代わりに、わたしの方から近付いてスピカをぎゅっと抱き締める。昔よりも大きくなった、けれど、わたしよりも小さくて柔らかい身体。ふわりと香る甘い匂い。胸元に揺れるのは、わたしの瞳の色のペリドットのペンダント。我ながら、ちょっと独占欲が強いかも? とは思うけど・・・
「へ?」
昔みたいにちゅっと額にキスを落とすと、
「なっ、いきなりなにをっ!?」
パッと頬が赤く染まって固まった。
「? どうしたの? スピカ」
久々だから照れてるのかな? そう思っていたら、
「は、放してください!」
放せと言われてしまった。しかも、なぜか敬語で・・・
「……スピカ?」
やっぱり、昔なにも言わないでいきなり実家に帰ったことを、まだ怒っているのだろうか? それを謝らず、いきなりハグとキスをして、慣れ慣れしくし過ぎただろうか?
そ、それとも……も、もしかして長いこと会ってなさ過ぎて嫌われたっ!?
「どうしたの?」
怒っているの? と、謝ろうと思ってスピカの頬に手を添えて顔を覗き込むと、みるみるうちに顔が耳まで真っ赤に染まる。
「? スピカ? 顔が赤い……もしかして具合悪い?」
今日は、誕生日とわたしとの婚約披露パーティーだからと、無理しているのだろうか?
「無理してるの? 休む?」
スピカの具合が悪いなら、婚約披露は別に今日じゃなくてもいい。誕生日パーティーの主役だから、少しだけ顔を出して後に休んでいてもいい。そう思って聞くと、ふるふると首が横に振られる。
一応、触っているほっぺたと首筋はそんなに熱くないから、熱は高くなさそうだけど・・・
「そっか。よかった」
ちょっと安心して、溜め息を吐いて・・・
「あ、ごめんね」
気付いた。
「スピカに会えたのが嬉しくて忘れてた」
女の子が綺麗にドレスアップしているというのに、わたしは全く・・・久々にスピカと会えて、少し浮かれ過ぎているのかもしれない。ドレスアップした女性は、誉めるのがマナーだ。
「とてもよく似合っているよ。わたしの贈ったドレスとペンダント、身に着けてくれて嬉しいよ。ありがとう、スピカ」
そう言うと、スピカの顔がまたもや真っ赤に染まった。
えっと、これは照れてる……のかな? 可愛い。
「ふふっ、赤くなった。照れてるのかな? スピカは本当に可愛いね」
読んでくださり、ありがとうございました。
皆様、本当に大変長らくお待たせ致しましたが・・・ようやっとネイサンとスピカが再会しました。(≧∇≦)ノ∠※。.:*:・'°☆
そして浮かれるネイサン。(*`艸´)
ちなみに、あまり顔を気にしなかったり、耐性がある、または耐性が付いて来た人達ばっかりと接していたから忘れがちですが、ネイサンは傾城な美女系の美貌の持ち主です。ꉂ(ˊᗜˋ*)




