ネイトと遊んでいいわよ?
セディー視点です。
夜に、とてとてと軽い足音がしたらネイトが僕のところに来てくれる。
ネイトはまだ小さいからドアノブに手が届かない。なのに、ドアが開いてぽてぽてとネイトが部屋に入って来るのだから、誰かがネイトを連れて来てくれているのだろう。
それは多分、ネイトの乳母なんだろうなぁ。
ちゃんと話したことはないけど、彼女はいい人だと思う。だって、彼女に育てられているネイトが、すっごくいい子なんだもん。
だから僕は、母が部屋を出て行った後にそっとドアを小さく開けておくことにした。
ネイトが来てくれるのを期待して。
ネイトは小さいので、多分寝てしまっていることも多いのだろう。
僕の体調も兼ねて、大体三、四日に一度くらいのペースで会いに来てくれた。
最初はちょっと話したら帰ってしまっていたけど、段々と部屋にいてくれる時間が増えていった。
まぁ、ネイトがおねむになるまでの間だけど。
もしかしたら、ネイトの乳母が僕の様子を窺っていたのかもしれない。
僕はネイトに意地悪なことなんてしないけど、仲の良くない兄弟というのもいるらしい。前に、意地悪なお兄さんが弟をいじめるという話の本を読んだことがある。
なんだっけ? 兄弟や家族同士でけーしょーけんやらお金での争いがどうのこうので、仲の良くない家族というのは、貴族の家ではあまり珍しくないそうだ。
僕には、よくわからないけど……
でも、ネイトが可愛いのは事実だ。
あんな可愛い弟を僕が嫌うだなんて、絶っっ対にありえないっ!!
僕はネイトのお兄様で、すっごく可愛いネイトのことがとってもとっても大好きなんだから。
きっと、ネイトの乳母も僕がネイトを可愛がっていることをわかってくれたのだと思う。
ネイトが、数日ごとにでも僕の部屋に来てくれるのが、その証拠だと思う。
そんな風にして、夜にネイトと過ごして――――
**********
それは、おばあ様がお見舞いに来ていると報せがあったときだった。
おばあ様がこっちに来る前に、母はそそくさと部屋を出て行った。その後におばあ様が来て、
「ネイトがこっちで暮らすことになったのだけど、セディーはネイトと仲良くしているかしら?」
と聞かれた。
だから、僕は……
「母上がネイトに会わせてくれなくて・・・夜にこっそり会っています」
そう言うとおばあ様はにっこりと微笑んで、
「・・・そう。それなら、今からネイトを連れて来るからちょっと待ってなさい」
と、部屋を出て行き、少ししてからぽてぽてと歩くネイトの手を引いて、連れて来てくれた。
「しぇでぃー?」
「ほら、セディー。ネイトと遊んでいいわよ?」
「ありがとうございます、おばあ様っ!」
「ふふっ、気にしなくていいのよ。兄弟が一緒に遊ぶのは当たり前のことなんだから」
それから、おばあ様が帰るまでネイトと一緒にベッドの上で遊んだ。
「ばぁば、どこいくの?」
「わたしはお家に帰るけど、また会いに来るわ。いい子で待っているのよ? セディーに優しくしてあげてね。ネイト」
「・・・うん」
不安そうに頷くネイト。
「セディーも、ネイトと仲良くしてね?」
「はい、おばあ様」
「さて、と。帰る前に少し、メラリアさんにお話をさせてもらおうかしら……」
と呟いて、おばあ様は部屋を出て行った。
その日から、昼間でもネイトと遊べるようになった。勿論、僕の調子がいい日に限り、だけど。
おばあ様が母になにかを言ったんだろうなぁ。
それから、家の中をぽてぽてと歩く軽い足音と可愛らしい声があちこちで聴こえるようになったり、窓から庭を散歩する金茶の頭が見えたりして微笑ましく思った。
でもそれも・・・あんまり長くは続かなかったけど。
**********
お祖父様とおばあ様がお見舞いに来てくれたときに、母が近くにいるようになった。
前は、お祖父様とおばあ様を避けていたのに。と、思っていたら――――
「メラリアさん。そろそろあなたも、お茶会に復帰してみないかしら?」
おばあ様が、母にそう切り出した。
「セディーが心配なんです」
嫌そうな顔で答えた母に、
「セディーの体調がいいときでいいし。ほんのちょっと、顔を出すだけでいいのよ」
おばあ様が言い募る。しかし母は……
「そんな、セディーを置いてお茶会に出ろだなんて、お義母様はセディーのことが心配じゃないのですか? わたくしは、セディーの側を離れたくありません。そんな可哀想なこと、できません」
と、頑なにおばあ様のお誘いを拒否。更には、
「丈夫な身体に生んであげられなくてごめんなさい、セディー」
そう言って泣き出す母に、僕とネイトはびっくりしておろおろ。おばあ様は冷ややかなペリドットの視線を母に向けて、呆れたような溜め息を吐いて引き下がる。
そんなことが幾度かあって、僕もやがては、溜め息を吐くようになった。ネイトは、変わらず母を心配しているようだったけど・・・
これに父が加わると、更に収拾が付かなくなり、なんとも後味の悪い気分になる。
父が休みのときにお祖父様、おばあ様がお見舞いに来ると、いつものように泣き出した母を慰めると言った体で僕の部屋へやって来て、
「子供の前ですよ! そんなことを言うのはやめてください!」
「お茶会なんてどうでもいいじゃないですか!」
「母上はなんて冷たい人なんだ」
「もう大丈夫だ、メラリア。セディーも」
父はそう言って、お祖父様とおばあ様を非難する。
普段は、滅多に僕の部屋に来ないクセに。
多分、父はお祖父様とおばあ様のことがあんまり好きじゃない。もしかしたら、嫌っているのかもしれないとも思う。
お祖父様と……特に、おばあ様を非難するときに、父はどこか楽しそうだ。僕には、そう見える。
僕とネイトを盾に取られたお祖父様とおばあ様は、溜め息を吐いて引き下がる。
そうして帰って行くお祖父様とおばあ様を、ネイトと二人で「また来てくださいね」と言いつつ、もう来てくれなくなったらどうしようと、縋るような寂しい気持ちで見送って……
その後、どことなく嬉しそうな父と母を見て、なんだか嫌な気分になる。
そんなことを、もう何度繰り返したか――――
読んでくださり、ありがとうございました。
久々のおとん登場。性格悪いです。




