卒業試験は大丈夫なの?
「ふぅん……ケイトさんにダンスを申し込もうと、ね?」
ん? セディーの声が若干低くなったような……
「あ、あれっすよ? 申し込もうとしただけで、踊ってないですからね? ほら、俺はフィールズと踊ったんだよな? フィールズ」
なんとなく不穏な気配を察したのか、慌てて言い募るテッド。
「はいっ」
「ふふっ……それで、どうして今年はネイトがフロアクイーンに輝いたのかしら?」
セディーをチラッと見て微笑むペリドット。おばあ様がワクワクしていますね。
「それはですね……」
と、エリオットが説明。
テッドが女子生徒にダンスを申し込みに行く前に、ステップが不安だとエリオットと練習をしようと思ったが、その前に料理を食べ捲っていて踊っている途中で気持ち悪くなってしまい、代役にわたしを指名して――――
「最初はハウウェル先輩がどうして僕と踊るのを渋ってるのかわからなかったんですけどね。レザン先輩が、女の子避けとして上手に踊るなら、僕との身長差じゃちょっと厳しいってことに気付いて。それで、僕じゃなくてレザン先輩と踊ることになったんですよっ! さすがレザン先輩ですよね!」
「ククッ……そうですそうです。いや~、レザンとハウウェルのダンスは、ホントすごかったですよ。なんつーかこう、他のカップルとは気迫が桁違いって言うか、見てた人が決闘のようなワルツだって、みんなが大絶賛でしたねー」
興奮しながら話すエリオットと、ニヤニヤと笑うテッド。楽しんでやがるな、この野郎っ……
「けっとうみたいなワルツ、かっこいいですね!」
「そうそう、めっちゃかっこよかったぜ。ハウウェルとレザンが笑う度に『ハウウェル様ー!』『クロフト様ー!』って、すっげーキャーキャー言われててさ」
「なんだか、その光景が簡単に想像できてしまいますね」
「ふふっ」
クスクス笑うケイトさんとおばあ様。
「え、笑顔っ……ね、ネイト、レザン君と踊るの、そんなに楽しかったのっ? 僕と踊るよりっ?」
なぜかショックを受けたような顔のセディー。
「え? いや、別に楽しかったワケじゃなくて、あれは……」
「あ、あれはなにっ?」
「えっと、その、無理矢理フロアに引っ張られたから、その腹いせにレザンの足を絶対に踏んでやるっていう攻防かな? 結局、足踏むのは尽く失敗だったけど……」
もうちょっとだったのに。惜しかったな。
「ああ、そうなんだ……」
「うむ。なかなかいい筋だったぞ、ハウウェル」
「全部躱した奴がなに言ってんだか? 全く……」
「……ある意味、本当に決闘だったというワケか」
「なるほどなー。足の踏み合いかー」
「ハッ、けんかですか?」
「いや、足を踏もうとしていたのはハウウェルで、俺は避けていただけだが」
「道理で、ハウウェルが好戦的な笑みを見せてレザンと笑い合ってたワケなー。知ってっか? 『キャー、ハウウェル様の氷の微笑みよー!』『寡黙でミステリアスなクロフト様の貴重な笑顔よー!』っつって、女の子達に大好評だったの」
キャーと、高い声で女子生徒の真似? をするテッド。相変わらず芸が細かい。けど・・・
「は? なにそれ?」
「うん?」
「笑えるよなー。ハウウェルのは、今からやってやる! っつー好戦的な笑みだったワケだし、レザンがミステリアスとか! アホの脳筋なのになー」
「あらあら、ネイトもレザン君も人気なのねぇ」
「系統は違いますが、お二人共魅力的ですものね」
と、色々と暴露されて辱めを受け・・・
わいわい話をして、ケイトさんとリヒャルト君は日暮れ前に帰って行った。
夕食の席では、『フロアクイーン』賞をお祝いされてしまいましたよ。
おばあ様は爆笑。お祖父様は困惑しながら。セディーはにこにこと本気でお祝い。
後でアホ共をぶん殴ってやろう、とわたしは固く決意した。
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アホ共が、うちにいる。なぜか、エリオットまで帰らないでうちにいる。
昨夜は大部屋でわちゃわちゃと過ごしたらしい。
わたしとセディーは、普通に自室で過ごした。
そして、朝食を済ませた後。
「今日はなにして遊ぶ?」
と、遊びに来たとの宣言通りの言葉。けど、
「遊ぶ前に勉強しようか? 君達、エリオット君以外は今年で卒業でしょ。卒業試験は大丈夫なの?」
セディーがにこやかに水を差した。
「ぐはっ!?」
「・・・むぅ」
胸を押さえてダメージを食らうテッドと、低く呻るレザン。
「一応、ネイトとリール君は大丈夫そうだけど」
「まぁ、わたしはうちに帰って来たときにセディーが見てくれてるし」
「……俺は特待生なので。成績を落とすワケには行きませんから」
「うん。二人は……卒業試験とは別の勉強をしようね。ネイトは、休みの間にうちの分領地の仕事ができるようになろうね? そして、リール君は司法試験の勉強かな」
分領地……多分、父が管理していたハウウェル子爵領のことだ。まぁ、あの人の籍をハウウェル侯爵家から抜いたんだから、その分の仕事が他へ回されるということ。
「うん、がんばる・・・」
長期休暇中に子爵領の仕事ができるようになる、というのは・・・なんだかちょっぴりスパルタな予感がするかも。
「いいんですか? 俺のことまで」
「うん。どうせネイトも法律の勉強しなきゃだし。そのついでに、ね。お友達と一緒に勉強すると、一人で黙々とするより捗ると思うから」
「ありがとうございます。セディック様」
「エリオット君はどうする? ネイトと一緒に領地経営や法律関係の勉強をするか、テッド君とレザン君と一緒に卒業試験の方をするか。そうじゃなかったら、遊んでいてもいいよ?」
「あ、えっと、僕は……」
「フィールズぅ……まさか、俺達が一生懸命勉強している横で、一人で遊ぶだなんて外道なことはしないよなぁ?」
低く唸るような声でエリオットを睨め付けるテッド。
「ひゃっ! め、め、メルン先輩、か、顔が怖いですよっ!」
飛び上がったエリオットがわたしの後ろに隠れた。まぁ、アウトな顔だ。
「フィールズぅ……」
「もう、年下の子をあんまりいじめないの。君達の勉強はライアンが見てくれるから」
「はーい」
「よろしくお願いします、セディック様」
と、勉強会をすることになった。
ちなみに、エリオットはわたし達の方で勉強することに決めたらしい。
「僕だって、すっごく頑張ってるルリアちゃんのためにできることはなんでもします!」
と、張り切っている。
まぁ、あの様子(エリオットを逃がさないようにとの囲い込み)じゃ無いとは思うけど・・・万が一、ルリア嬢が公爵位を継がないとなると、エリオットに公爵位が回って来ることは確実。領地経営や法律関係の勉強をするのは、将来のルリア嬢の補佐や、当主補佐、両候補としても間違っていない。
そして、卒業試験組と将来の勉強組とに分かれて勉強を開始、したのはいいんだけど・・・
領地経営や法律関係の勉強はさぞかし難しいのだろう、と覚悟をしていた。だと言うのに、
「はい、僕が選んだ本。どれも面白いから、好きな本を読んでね」
セディーはにこやかに沢山の本をお勧めして来た。
分厚い、難しそうな本もあれば薄い本、そして娯楽本も多い。
「へ? いいの?」
「うん。ミステリー系やサスペンス、クライム系とかは結構お勧めだよ」
「……えっと、セディック様? 勉強……なんですよね? これから……?」
真面目なリールの困惑顔。
「ふふっ、そうだよ」
読んでくださり、ありがとうございました。
セディー式のお勉強開始。(*´∀`*)尸"
ちなみに、ミステリーとサスペンスの違いは、犯人がわからないで、登場人物達が推理しながら謎や真相、犯人などを解き明かして行くのがミステリー。(´・ω・`)?
最初や途中から犯人がわかっていて、その犯人を追い詰めて行く、または登場人物達が犯人に追い詰められて行く緊張感や不安感を楽しむのがサスペンスなのだとか。ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァ
クライム系の話は、犯罪を取り扱った、または主人公側が犯罪を犯すような話のことっぽいですね。大枠で言えば、義賊もクライム小説に入るのかな?( ̄~ ̄;)




