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虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い  作者: 月白ヤトヒコ


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まるで決闘のようなキレのある攻めのステップ!


「ふっ……受けて立とう」


 ニヤリと楽しげに笑うレザン。


「……絶対踏んでやる」


 と、意気込むも、(かわ)され続け――――


 ダン! と、最後のステップも空振りに終わった。シンと静まり返る会場。次いで、


「キャー! 素敵ーっ!!」「ブラボー!」「ハウウェル様ー!」「クロフト様ー!」「さすが女帝!」「決闘みたいだったぜ!」


 黄色い歓声と大きな拍手の音が響いた。


 誰だ、今『女帝』って言った奴……


 まぁ、決闘というのは(あなが)ち間違っていないだろう。残念なことに、結局最後までレザンの足を踏み損ねた。至極残念だ。


 曲が終わったので、ぺいっとレザンの腕を振り解いて歩き出す。と、


「ふっ、今回は負けましたわ。あの、大胆()つ素晴らしく鋭い、まるで決闘(デュエル)のようなキレのある攻めのステップ! さぞかし研鑽(けんさん)をお積みになられたのでしょうね。ですが、宜しいこと、ハウウェル様! 次の交流会では、このわたくしがクイーンになりますわ! それまでは、フロアクイーンの座を預けておきます」


 ツカツカとヒールを鳴らし、近付いて来た女子生徒が不敵な笑みを浮かべながらわたしに握手を求め、よくわからない宣言をして去って行った。


 ちなみに、『フロアクイーン』賞というのは、フロアで最も輝いていた女性に贈られる賞のことだ。他にも、一番息の合ったカップルへ贈られる『ベストカップル』賞なんかもある。


 まぁ、わたしには縁遠い賞なんだけど。


「えっと……その、あれは……?」


 あの人がなに言ってたのか、マジわからん。まぁ、攻めのステップというのは間違ってはいない。一回も踏めなかったけどね!


「あの方はダンス講師を目指している三年生の方で、毎回交流会のフロアクイーンに選ばれている方ですわ! 王室のダンス講師になるのが目標だと公言しているあの方がライバル宣言をするだなんて、ネイサン様は凄いですわね!」

「ぇ~……」

「さすがハウウェル先輩ですね!」

「これでもう、並みの女性ではネイサン様へダンスを申し込むことはないでしょう!」


 きらきらと瞳を輝かせる天然な二人。


「や、そんなまさか……」


 そして――――


 今回の交流会で、マジで『フロアクイーン』賞のトロフィーが贈与されてしまった。


 なんでも、男子生徒が『フロアクイーン』に選ばれるのは初だそうで、生徒会長に微妙な顔で授与された。


 いや、普通の男子生徒は普通に男性パート(リーダー)だから、当たり前のことなんだけどね!


 要らないと断ったのに、押し付けられた・・・


 そして、何度も冗談じゃないかとしつこく確認したけど……本当に冗談ではなかったらしい。


 最もダンスが輝いていたパートナー(女性パート)へ贈る賞なので、選ばれたと言われてしまった。


 あれ、輝いていた、のか……? 単に、レザンの足を踏むことに腐心していただけなのに……?


 本当に本当に、微妙だ。


 ちなみに、足を踏んでやるという嫌がらせと気迫のせいか、わたしとレザンの雰囲気が殺伐とし過ぎていたのと、最後に嫌そうに腕を振り解いた為、『ベストカップル』には選ばれなかったのだと言われた。


 男同士で踊って『ベストカップル』なんて、普通に嫌だし。うん。腕振り解いて正解だった。


 ライバル? 宣言をされた手前、口には出せなかったけど・・・要らないなぁ、トロフィー(これ)


 なんて思い、なんか凄くしょっぱい顔になった。


 ちなみに、わたし達が踊っている間に回復したどこぞのアホには、指差されてめっちゃ爆笑されたし。かなりムカついたので、


「手前ぇのせいだろ、このアホがっ」


 低く言いながら、何発か殴ってやった。


「なかなかの快挙だな、ハウウェル」


 なぜか満足そうに頷く脳筋にもムカついたけど、殴り掛かると余計に面倒なので我慢した。


「んなワケあるかっ」


 と、代わりに追加でアホを殴ってやった。


 アホは結局、アンダーソン嬢とは踊れなかったらしい。次の交流会では、やけ食いはしないと決めたそうだ。


 交流会が終了。明日から、長期休暇に入る。


 『フロアクイーン』のトロフィー、どうしよ……?


 悩んでいるうちに交流会もお開き。


 男子寮へ戻る途中。


「プッ……よっ、フロアクイーン!」

「あ゛?」

「いやん、怒っちゃイ・ヤ♡」

「・・・殴るよ?」

「だから、そう怒んなってばー」

「なら、そのニヤニヤ顔やめろ」

「え~? 俺、元からこんな顔なんですけどー?」

「うむ。テッドは大抵笑っているな」

「……まあ、そのニヤケ面がデフォルトではあるな」

「ぐっ、なっ、なんだと! 俺だって真面目な顔することくらいあるわ!」

「なら、ニヤニヤ顔やめろ」

「え~? ほら、それとこれとは別って言うか~? 男子初のフロアクイーン賞を祝ってんだってー。な、フィールズだって去年取れなかった賞だぜ?」

「はいっ、ハウウェル先輩は凄いです!」

「・・・」


 ニヤニヤと悪い顔で笑うテッド。きらきらした瞳で見上げるエリオット。


「これ、あげようか?」

「ええっ!! そ、そんな大事な物、僕なんかが頂けませんよっ!?」

「・・・ふ~ん、それ要らないのか? ハウウェル」

「まぁ、持ってても困るし」

「そっか。なら、俺が持ってってやろうか?」

「え? 持ってってくれるの?」

「ええっ!? メルン先輩にあげちゃうんですかっ?」

「ふっ、任せとけ! ちゃんと持ってって(・・・・・)やる!」


 と、ニヤニヤ楽しそうに笑うテッドに、『フロアクイーン』賞のトロフィーを渡した。


 そして翌日。迎えに来た馬車でハウウェル侯爵邸へ向かった。


✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰


 読んでくださり、ありがとうございました。


 ネイサン「わたしはただ、全力で脳筋の足を踏みに行っただけなのに……解せない」(-""-;)

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