アホをどうにかして来ても宜しいでしょうか?
フィールズ公爵令嬢がネイサン・ハウウェルのパートナーを決めるのだと張り切っている、なんて噂が囁かれるようになってから、わたしへ突撃して来る女子生徒の数が減りました。
まぁ、貴族令嬢の怖さを知らない平民の富裕層のお嬢さんの突撃は、まだ偶にあるけど。下位貴族の令嬢の突撃は激減。
ありがたいとは思うんだけど・・・公爵令嬢という立場で好き勝手している、とレイラ嬢に対して眉を顰める人もいなくはない。
「わたしのことを考えてくれているのは助かりますが、レイラ嬢は大丈夫なのかと少し心配になります。あまり無理はしないでくださいね?」
そう伝えたら、
「全然平気ですわ! パートナーは只今吟味中なので、もう少しお待ちくださいませ」
と笑顔で返された。
そして、パートナーが決まったという報せが無いまま、交流会当日になりました。
「ハウウェル様、こちらの令嬢がハウウェル様のパートナーになっても大丈夫な方です!」
と、やり切った顔のレイラ嬢に紹介されたのは、乗馬クラブの女子生徒でした。
「よろしくお願い致します。ハウウェル様」
「えっと、いいんですか?」
「はい。わたくしの婚約者からも、ハウウェル様がお困りでしたら是非ともお助けするようにと言い含められておりますので。それで、婚約者からハウウェル様へお手紙を預かって来ました」
そっと差し出された封筒を開けると・・・
なんかこう、思わず手紙を破って、パートナーをお断りしたい衝動に駆られました。
いえ、最初はわたしも、彼女の婚約者へお礼をするつもりだったんですよ? でも・・・
時候の挨拶から始まる礼儀正しい手紙は、自分は少し遅れて会場入りをするので、その間の婚約者のエスコートをお願いしたいこと、偶々わたしが困っていることを聞いて、自分にも都合がいいので、そのことでなんら恩義を感じる必要は無く、自分の自己満足なので気にしないでほしい旨が綴られていて、感じのいい人だと、最初はそう思ったのに・・・
『婚約したばかりにもかかわらず、パートナーが別の方へエスコートされて先に会場入りをしていて、憐れな奴だという視線を他人から浴びせ掛けられるのが、今から楽しみでなりません。婚約者とハウウェル様、両方からの蔑みの視線や、もし宜しければ罵倒などして頂ければ、光栄の極み……』
とか、意味不明な文面になって来たところで、このお嬢さんの婚約者は『ケイト様を見守る会』の関係者かっ!? と、気付きましたよ。
そう来たかっ!? と、騙し討ちや不意討ちを食らったような気分だよ。
「どうされましたか? ハウウェル様。もしや、なにか失礼なことでも書かれていましたか?」
ぐしゃりと、手紙を握ってしまったところで心配そうに声を掛けられました。
「いえ、なんでもありません。すみません、少々文面が長いので、手紙は後で読むことにしますね」
手紙、ポケットに入れたくないなぁ・・・
「? そうですか」
そして、非常~に迷ったけど・・・彼女と会場入りすることに決めました。
だって、彼女の婚約者がアレなのは仕方ないにしても、厚意でわたしのパートナーになってもいいと言ってくれている相手に、パーティー直前でエスコートを断るなんて恥を掻かせるワケには行かないし。
彼女は、某婚約者の贈ってくれたドレス姿。わたしは、制服。
まぁ、正式なパートナーじゃないから、彼女の方も別に気にしてないらしい。よかった。
「では、会場までのエスコートをお願いします。婚約者が遅れて入って来ると思うので、それまではハウウェル様の近くにいてよろしいでしょうか?」
「ええ。こちらこそ、宜しくお願いします」
と、会場へ向かおうとしたら・・・
「この、裏切者めっ!?」
また騒いでいるのかと、呆れながら目を向けると・・・
「ハウウェルに続いて、なんて酷い裏切りだっ!? お前は三年間一切女っ気ゼロでっ、交流会には俺達とずっと一緒にいるものだと思っていたのにっ!!」
と、なんかアホらしいことを・・・っ!?
「れっ、レザン先輩がアンダーソン嬢をエスコートしてるっ!?」
制服姿でアンダーソン嬢をエスコートするレザンに向かい、絶望したと声高に噛み付くテッド。至極迷惑そうな顔で、それでもなんとかテッドを宥めようとしているリール。
まぁ、レザンが女性をエスコートしている姿にはわたしもかなり驚いたけど・・・レザン。エスコート、できたんだ。
でも、そんなに怒ることかなぁ? この並びって、普通に乗馬クラブの部長と副部長だし。
「あら、ミシェイラはちゃんとクロフト様をお誘いできたようですわね。でも、メルン先輩は一体なにをあれ程怒っていらっしゃるのかしら?」
「う~ん……仲間外れの気分になったとか?」
「それなら、ご自分も誰かをお誘いすれば宜しいのに。どうしてお誘いしないのかしら?」
「そうだよねー」
うんうんと頷き合う天然な二人。きっと、テッドが聞いていたら噴飯物だろう。いや、エリオットは兎も角、レイラ嬢にはなにも言い返せないか。
「お、お前、まさか、乗馬クラブ部長の権限で副部長ちゃんを無理矢理誘ったのかっ!?」
「いや、普通にアンダーソン嬢にエスコートを頼まれたのだが」
「はあっ!? 女の子に誘われたって言うモテ自慢か貴様ぁっ!?」
なんかもう、既にめんどくさい絡み方してるなぁ。こんなとこで騒ぐから、人目に付いてるし。
「えっと、その、メルン先輩? どうしちゃったんですか?」
アンダーソン嬢が困っている。仕方ない。
「すみませんが、アホをどうにかして来ても宜しいでしょうか?」
「え? ええ、どうぞ」
パートナーに一言断って、
「ウルサい!」
ゴスっとテッドの頭をど突いた。
「うぎゃっ!? っ……なにすんだハウウェルっ!?」
頭を押さえて涙目で振り返るテッドに、
「このアホが。入口前で騒いで、アンダーソン嬢に恥掻かせるな」
低く吐き捨てる。
「ハっ!? いや、その、俺は副部長ちゃんに恥を掻かせるつもりは全くなくて! えっと、すんませんっしたっ!!」
と、潔くアンダーソン嬢へ頭を下げるテッド。
「すみません、アンダーソン嬢。この時期になると、変な言動や奇行が増えるみたいで」
「いえ、先輩方はとっても仲が宜しいんですね」
にこりと大人の対応を見せるアンダーソン嬢。年下の子に気を使わせて……全く。
「それじゃあ、さっさと会場入りしちゃいなよ。後ろつかえてるんだからさ」
「うむ。では、行くぞ。アンダーソン嬢」
「はい」
と、差し出したレザンの腕へそっと手を乗せるアンダーソン嬢。
「くっ……なんて酷い裏切りだっ!!」
読んでくださり、ありがとうございました。
「アイツ、婚約したばっかなのに、婚約者が別のいい男にエスコートされてたぜ、かわいそ~」www
という、蔑みや憐れみの視線を浴びたい上級者な某会員とネイサンの利害? が一致しちゃいました。(笑)




