読む本なんて、なんでもよかった。
セディー視点です。
僕がネイトに会いたいと、ネイトの話をすると、母は笑顔で「セディーは気にしなくていいの」と言う。
そのクセ、雰囲気はピリつく。
母はお祖父様とおばあ様がお見舞いに来ると、僕の側にいないことが多くなった。
お祖父様とおばあ様は溜息を吐いて、母のことには触れない。
多分・・・僕の前で、母と揉める姿を見せたくなかったのだと思う。
母は、お祖父様やおばあ様がなにか話そうとすると、すぐに「セディーが可哀想」と言って泣くから。
僕は・・・
お祖父様とおばあ様が来ると、嬉しかった。
ネイトの様子を教えてくれるし、お土産だと言って、ネイトが好きな食べ物を持って来てくれるから。
まぁ、赤ちゃんが食べられる物だから、ちょっと僕には物足りないと感じることもあったけど。
さすがに味の薄いお菓子はねぇ・・・美味しそうなゼリーだと思って食べて、薄いリンゴ風味のあんまり甘くないゼリーだったり、あまり甘くないプリンだったりしたときの微妙な顔をした僕を面白がるのは、どうかと思うな? その後ちゃんと、美味しいお土産をもらったけど。
偶にそんなイタズラをされたけど、それも楽しくて、お祖父様とおばあ様は僕に優しかった。
お祖父様とおばあ様が帰った後、母に「なにか酷いことを言われなかった?」と心配そうに聞かれたけど、そんなことはない。
むしろ――――母が側にいないと、『可哀想』という僕を憐れむ声が聞こえないと、なんだか気が楽になる。
それから、僕の体調が良いときを見計らっておばあ様がネイトを連れて来てくれた。
久し振りにネイトに会えて、顔を見られて、とても嬉しかった。
前に見たときよりも少し大きくなっていて、肌が白くなっていて、眠そうだった薄茶色の瞳がぱっちりと開いていて、ものすっっご~~く可愛くなっていて、でも……僕を見てきょとんとした顔をされたのが、ちょっと悲しくなった。
「ふふっ、ネイト。ネイトのお兄さんのセディーよ。セディーはね、ネイトにずっと会いたいって言っていたのよ」
「う~?」
おばあ様がそう言ってくれて、ぷにぷにしたネイトの手を掴んで僕の方へ差し出したときだった。
バタンと部屋のドアが開いて、
「なんでネイトがここにいるんですかっ!?」
母が入って来た。
怒った母が怖かったのか大きな声にびっくりしたのか、ネイトはわーわーと泣き出してしまった。
泣いたネイトを見て増々怒った顔をした母は、
「こんなに煩くしたらセディーが休めないじゃないですか! セディーが可哀想です!」
と、いつものようにセディーが『可哀想』だと言った。それを聞いたおばあ様は、一瞬だけすっと無表情になって、
「そう。それじゃあ、今日は帰ります。では、セディー。また来るわね」
と、僕に笑顔を向けて帰ってしまった。無表情のおばあ様はちょっと怖かった。多分、物凄く怒っていたような気がする。
それからは、お祖父様もおばあ様もネイトを連れて来てくれなくなってしまった。
寂しい、ネイトに会いたい、そう思いながら日々が過ぎて行って――――
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なにかある度、セディーが可哀想、セディーは可哀想、可哀想、可哀想・・・
母のその言葉に、なんだか疲れを覚えるようになった僕は、母の話をあまり聞かなくていいようにと、本を読むことにした。
本を読んで集中しているときには、雑音は耳に入らなくなる。母が近くにいても、気にならなくなる。
家にあった絵本はすぐに読み尽くした。絵本のような薄い本じゃあ、全然足りない。
もっと厚い本を、と本を求めた。勉強をしたいからと言えば、どんどん本を与えてもらえた。
「無理はしないでね」
と言われたけど、僕の読める本のレベルが上がって行くと、母は嬉しそうな顔をした。
読み書きはすぐに覚えた。
読んだ本の内容も、諳んじることができた。
「セディーは賢いのね。凄いわ」
凄い、ね。そんな風に誉められても、嬉しくない。
本当は……読む本なんて、なんでもよかった。
集中していられるなら。
『可哀想』という雑音を消してくれるなら――――
そうやって本を読んで、勉強して、疲れたら眠って、なるべく母の相手をしないように過ごした。
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読んでくださり、ありがとうございました。
セディーが読書好きになった理由。




