僕は、メラリアと一緒にいると癒される。
おとん視点。2
男尊女卑発言があります。
誤字直しました。ありがとうございました。
ある日の図書館で。
「困ったわ」
と、やる気のなさそうな態度でプリントを広げていた……例の馬鹿な後輩女子がいた。いるなと思って目を向けたら、パチリと目が合った。その瞬間、にこりとした笑顔。
「先輩、ですよね? 宜しければわたくしに教えてくださいませんか? 問題が難しくって」
物怖じしない態度でそう言われた。
「なぜ僕に? こういうのは、女子生徒ならフィオレの方へ行けばいい」
顔を顰めた僕に返るのは、きょとんとした表情。
「フィオレ様、というのはどなたのことでしょうか?」
「え? 君は・・・フィオレを、フィオレ・ハウウェルを知らない、のか?」
「えっと、フィオレ様というのは有名な方……なのでしょうか?」
思わず絶句した。
僕に近付くのは、姉や母目当てか、または二人にやり込められたと文句を付けて来る輩ばかりだったから。
まさか、この学園にフィオレ・ハウウェルのことを知らない生徒がいるとは思わなかった。
「……ああ、いや……」
「? 先輩?」
「……その、なんで僕なんだ?」
「頭が良さそうだと思ったからですわ。先輩は上位クラスの方でしょう?」
「あ、ああ、そうだが……でも、こういうのは普通、男子ではなく、女子生徒に頼むのでは?」
「そうかもしれませんが、近くにはいませんもの。上位クラスの女子生徒が。それに、わたくしにはお兄様がいて、いつもお勉強はお兄様達に教わっていますの。なので、わたくしに教えてくださいな」
にこりと、断られるとは微塵も思っていなさそうな、手伝ってくれるのが当然という笑顔。
結局、押し切られる形で彼女に勉強を教えることになってしまったが・・・
ハッキリ言って、彼女は馬鹿だった。
普通クラスの問題が難しいと言って、ペンを握ってはいるが自分から解いて書こうとしない。教えてほしいと言って僕を見詰め、僕が答えを言うのをにこにこと待っている。
確かに、このやる気の無い姿勢では教師も苦言を呈したくもなるだろう。そう思った。
「助かりました。先輩は頭がいいですね。ありがとうございました」
と、名乗りもしないで彼女は帰って行った。
それが、僕とメラリアとの出逢い。
二つ上……僕からすると一つだが……の、有名な女子生徒を知らず、普通クラスの簡単な問題も解けない、馬鹿で少し足りない後輩の女子生徒。
それからメラリアは折りに触れ、自分は助けられて当然という態度で、僕を見付けると話し掛けて来るようになった。
僕が、エドガー・ハウウェルだと知っても、態度はなにも変わらない。『自分を助けてくれそうな男子の先輩』という態度のまま。
フィオレ・ハウウェルのことも、ネヴィラ・ハウウェルのことも僕に一切言わない、聞こうともしない馬鹿で頭の悪い……けれど、不快じゃない女。
一度。いつもの如く、答え待ちのメラリアに、なぜ真面目に勉強をしないのかと聞いてみた。
「お勉強ですか? だって、お父様が女の子は可愛ければそれでいいって言うんですもの。女の子が幾らお勉強したって、どうせ男の子みたいに後継ぎにはなれないのだから、って。女の子は、お嫁に行って、旦那様に愛されていれば幸せになれるのですって」
にこにこと話すその言葉を聞いて、僕は衝撃を受けて・・・確かに。と、至極納得した。
父は、僕よりも優秀な姉のフィオレに、跡取りとしての教育をしていない。
姉の方が跡取りに向いている。なんで女に生まれたんだ、勿体ない。そんな風に言われるくらい優秀でも、跡取りとしては最初から除外している。やはり、所詮は女が貴族当主になることなどできはしない。
一応、この国では女が爵位を継ぐことは認められている。しかしそれは、短い期間の中継ぎであったり、男児が継ぐまでのお飾りとしての当主。実権は伴侶が握っていたり、親族の男が握っていることの方が多い。
実質的に、女が爵位を継いで当主になることなどあり得ない。女は、男に従うべきなんだ。
それに、学園を卒業して数年以内には姉はどこかの家へ嫁ぐことになる。今のように、近くにいることもなくなる。
そうだ、なんで気付かなかったんだ!
遅くともあと数年! それでフィオレは僕の前からいなくなる!
そうだ! ハウウェル侯爵家を、侯爵位を継ぐのはこの僕だ!
「エドガー様みたいに優しくて優秀な方と結婚したら、幸せになれそうですね」
と、メラリアが微笑む。
この女は、間違いなく馬鹿だ。
けれど……そうだ! 女は、馬鹿な方がいい。
賢しい女、気の強い女は目障りだ!
母のような、姉のような女なんか嫌いだ!
さも、自分が正しいというような顔で男の上に立とうとする女なんか嫌だ!
女は、少し馬鹿なくらいで丁度いい。男より上に立とうとするだなんて間違っている!
母に、姉に憧れて近寄って来る女達。あの二人みたいになれるという勘違いをしている女達。難しい話を賢しらにする女達。男を馬鹿にする女達。そう言った女と結婚させられるのは、絶対に嫌だ。
女は、男に従って後ろに控えて守られていればいい。メラリアの父や兄が言うことは正しい。
鈍感で、自分は可愛がられて当然。他者が自分を助けるのが当然。自分ができないことはしない。頭の悪い……けれど、可愛い女。
ああ、メラリアは本当にいい女だ。母や姉とは、比べるべくも無い。
「メラリアは、婚約者はいるのか?」
「いいえ、学園でいい方を見付けられなければ、お父様かお兄様の選んだ方と婚約すると思いますわ」
にこりと微笑むメラリア。
「それじゃあ、僕と結婚してくれないか?」
「え?」
「僕は、メラリアと一緒にいると癒される」
僕よりも馬鹿で、なにもできないから。
「安心できるんだ」
頭が悪く、やる気も向上心も無い。間違っても、僕より優秀になりそうにないから。
「そのままの君でいい。僕と結婚してくれ」
変わらず、馬鹿のままでいてくれ。
「エドガー様……」
読んでくださり、ありがとうございました。
コンプレックスでめっちゃ拗らせたエドガー(おとん)がメラリア(おかん)を選んだ理由がこれです。
普通に、滅茶苦茶失礼な理由……(´-ω-`)




