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虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い  作者: 月白ヤトヒコ


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姉よりもできの悪い弟。女に劣る男。

 エドガー(おとん)視点開始。


 僕の人生は、ネヴィラ・ハウウェルの息子、そして一つ年上の姉フィオレ・ハウウェルの弟として生まれた時点で、不幸の始まりだった。


 母は父と婚約中だったネヴィラ・クロシェン伯爵令嬢の頃から、他国出身なのを鼻に掛け、男を敬うどころか、むしろ馬鹿にして、得意げな顔で論破し、口だけでなく手すらも挙げるような隣国の暴力じゃじゃ馬娘。そんな悪評があったという。


 ヒューイ・ハウウェル侯爵令息は、そんなネヴィラ・クロシェン伯爵令嬢の手綱を握るどころか、じゃじゃ馬娘の尻に敷かれて言いなりになっている軟弱者。と、父も悪く言われ、大層同情されていたそうだ。


 ネヴィラ・クロシェン伯爵令嬢からネヴィラ・ハウウェル侯爵夫人になっても、男を立てるどころか、馬鹿にするのは変わらず。扱き下ろされた。暴力を振るわれた。ハウウェル夫人のせいで、女達が調子付いている。口答えするようになった。


 社交界での評判は酷いもの。


 娘が生まれても相変わらず。


 それどころか、フィオレ・ハウウェルも、さすがはネヴィラ・クロシェン(隣国のじゃじゃ馬)の娘。


 母親そっくりのじゃじゃ馬。貞淑な令嬢とは程遠い。嫁の貰い手があるのか? 自分なら、幾ら侯爵令嬢だろうとあんな女はごめんだ。


 幼い頃からそんな風に、周囲の大人達が言っているのをずっと聞かされて来た。


 母は他家の貴族男性が言うような、理不尽に暴力を振るうような女性ではなかったが・・・「女性に優しくしなさい。紳士になりなさい」とはよく言われた。


 女性に貞淑さを求めるお国柄では、母のようにハッキリと男へ意見を言い、自己主張をし、ときには暴力に訴えるような女性は、男達から強く反感を買って煙たがられていたのだろう。


 それとは逆に、今まで男達に抑え付けられていた貴族女性達からは、支持されていたようだが。


 そんな両極端な評判を持つ母と、そんな母を娶った父。


 その娘フィオレ・ハウウェルは、母の教育方針でやりたいことをやりたいように。というのと、「クロシェンの家系は偶に美人が出るから、男女関係無く護身術を習わせることにしているのよ」とのことで、この国の貴族令嬢にしては、かなり奔放に育った。


 女だてらに馬は乗るし、家の中だけではあるけれど、剣を振り回す。


 性格も気が強く、貴族子女の間でよくあるような虐めなどを見掛けると、すぐに口出しをし、口で負かし、話が通じない相手には剣を扇子に持ち替え、ときには横暴な子息を打ち据え、令嬢達を守っていた。


 母のようだと貴族夫人達に称賛される姉。


 僕はそんな姉の影に隠れて、大人しくしているような子供だった。


 姉にやり込められた貴族子息が、よく僕の方へと文句を言いに来るのには閉口した。さすがに、侯爵令息である僕に手出しをするような馬鹿はあまりいなかったけど。嫌なことをよく言われた。


「男のクセに、姉と母親の影に隠れて一人ではなにもできない坊ちゃん」


 何度、そんな風に馬鹿にされたことか。


 父には、なにを言っても無駄だった。


 父は、あの苛烈な母の尻に敷かれて喜んでいるような軟弱者。母に似た姉を可愛がって、令嬢として失格な姉に、なにも言わず好きにさせる。


 そんな家に、僕は育った。


 姉の活発な性格は、学園に通うようになっても変わらず。成績だって、男を負かして上位を取る。


 女子生徒を庇って、男子生徒に嫌われる。


 そんな姉に一年遅れて入学してからが――――


 僕の苦行の始まりだった。


 姉よりもできの悪い弟。女に劣る男。


 僕には姉のような社交性はなく、成績だって姉が一年の頃よりも落ちる。


「お母様がネヴィラ様のご子息だから仲良くしなさいって言ってたのに。これじゃあ……」「姉が優秀だからと期待していたのに」「フィオレ様の弟君がこれでがっかり」「期待外れ」「顔だって似ていない」「平凡」「残念な弟」「残念な息子」


 ネヴィラ様の息子。フィオレ様の弟。ネヴィラ様、ネヴィラ様、フィオレ様、フィオレ様・・・


 いつだって、そんな評価が僕に付いて回る。


 上位クラス内でも上位の席次を保ち、乗馬クラブに入って馬を乗り回す姉。


 姉の入学当初、乗馬クラブに女子生徒が入ることは難色を示されたという。しかし、侯爵令嬢という肩書と勝気で社交的な性格とで、乗馬をしたいという高位貴族令嬢を募り、学園側と交渉して女子生徒の入部を認めさせたそうだ。


 女子乗馬クラブを作ってはどうかという話も出たそうだが、馬場をもう一つ作る余裕は学園側にもないとのことで、その話は見送られたのだとか。


 その件以降、姉は学園内で益々女子生徒達に憧れられるようになったそうだ。


 僕は努力しても、上位クラスの真ん中より下くらいで高位貴族としてはギリギリの成績。運動も並み。


 顔は父似で、自分ではそんなに悪くないとは思っているが・・・際立った美貌(の見た目を裏切るじゃじゃ馬さ)だと称えられる母と、母よりは多少劣るにしろ、美しい容姿と評価される彼女達と並ぶと、凡庸以下に見えるらしい。父と僕は、母や姉の添え物と言われている。


 姉に憧れ、擦り寄る為に僕に近付こうとする女。


 母に憧れ、僕に娘を宛がおうとする貴族夫人達。それ故、僕に媚びを売る女達。


 実際の僕を見て、落胆した顔。馬鹿にする顔。嘲笑う顔。そんな顔を一瞬見せた後の……または、そんな顔が透けて見える薄っぺらい媚びの数々。


 母に、姉に扱き下ろされ、不満顔で僕へ文句を言いに来る男達。


 僕は、そんな人間関係に心底うんざりしていた。


 そうやって鬱屈していた僕に――――


 僕をエドガー・ハウウェルだと知らない……いや、フィオレ・ハウウェル、そしてネヴィラ・ハウウェルの名前すら知らないで話し掛けて来た、馬鹿な女子生徒が現れた。


 僕が二年のとき、新入生として入学して来たその女は、子爵の娘だった。


 余程頭が悪いのか、中間テストの後に職員室の近くで教師に苦言を呈されていた。


 なんでも、宿題は完璧なのに授業で当てられたりテストで答えられないのはどういうことか? という風なことを聞かれていた。


「宿題はおうちで、お兄様やお姉様がわからないところを教えてくれてるんです」


 と、にこにこと答えていた。


 ああ、宿題を兄弟にさせているのか、とそう思って通り過ぎようとした。


 すると、教師の苦言は終わったようで、


「女の子はあまり賢くなくていいって、可愛ければそれでいいって。お父様もお兄様達も言っていたんだもの」


 不満げな小さな呟きがいやに耳に残った。


 それから、なんとなくその馬鹿な女子生徒を目で追うようになった。


 読んでくださり、ありがとうございました。


 おとんは、有名人の似てない方の子供という感じのやつです。


 頭がいいのはヒューイ(お祖父様)の方で、運動や身体を動かすのが得意なのがネヴィラ(おばあ様)の方。フィオレ(お姉さん)は両方の良いとこ取りな感じ。


 それで余計に拗らせました。(´-ω-`)

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