あーそーぼ! って言うのがお約束なんだぞー?
誤字直しました。ありがとうございました。
さて、なにから教えようか・・・
剣の基本は、素振りと打ち合い。そして、体力作りが主となる。
これさえ確りやっていれば、特別なことはしなくてもいいとわたしは思っている。
あとは、剣に馴染むことくらいかな? 剣は地味に重い。それに帯剣するのに慣れないと、歩いているときに剣をあちこちに引っ掛けてちゃうんだよねぇ。帯剣しているときの自分の幅を身体で覚えないといけない。
家の中、特にテーブル周りなどを歩いて悲惨なことになるのは帯剣初心者あるあるだ。陶器やガラス製品、花瓶など、壊れ物や貴重品は避難させておいた方がいい。
それに、最初は帯剣しながら走るのは結構大変だし。かと言って、有事の際に悠長に歩いて移動なんてしてられないだろう。やっぱり、剣に慣れる方が先かなぁ?
ベルトが緩いと、剣ごとズボンが落ちたりもするし・・・あれはガチで恥ずかしい。
なんて考えながら、まずは木剣に布を巻くことから始めてみた。
自分の身を守る武器は自分で手入れをする。これを習慣付けておくのは、いいことだ。剣に愛着も湧く。
「では、この剣がリヒャルト君に合っていると思うので、握りのところに布を巻きましょうか」
「? ぬの? どうしてですか?」
「グリップと手の保護の為です。木の剣とは言え、握りの部分はそれなりに堅いですから。手の形や大きさは、人それぞれです。どうせなら自分の手の形に合わせて、握り易いようにしましょう。まずは自分でやってみてください」
木剣と晒をリヒャルト君へ渡す。
お手本として、自分の分の木剣の握りの晒を解いてから巻き付けて見せる。
「くるくるってして、ぎゅっ、ですね!」
「ええ。上手です。できたら、両手で確り握ってみましょう」
「はい!」
と、素振りをして見せる。
「ビュって音がしました! ネイトにいさまかっこいいです!」
「ふふっ、ありがとうございます。では、リヒャルト君もやってみましょう」
「はい!」
ぴょこぴょこと剣を振り、空を切る音がしないことに不満げな顔をしながらも、一生懸命な顔で剣を握るリヒャルト君。
素振りをするときの力の入れ方、抜き方、怪我をし難いような身体の使い方をアドバイス。
そうやって数十回も素振りをすれば、
「ネイトにいさま、うでがぷるぷるします……」
へにょんと眉を下げて訴えられた。
「疲れましたか。では、今日はここまでにしましょう」
と、ストレッチを教えて腕や肩を解す。
「運動の後に疲れたからとそのままにしておくより、身体を解しておく方が明日以降のつらさが違いますからね」
「あした、つらいんですか?」
「そうですねぇ。筋肉痛は……強くなる為の試練です。耐えましょう」
「つよくなるためのしれん……ぼく、がんばります!」
きらきらした瞳がわたしを見上げる。なんて素直なんだろう。
「明日は、身体がつらいと思ったら剣はお休みしてもいいですよ。でも、動けるなら素振りをちょっとだけやってみましょうか」
「はい!」
と、間に休みを入れながらリヒャルト君へ剣を教えること数日。
「ネイト、ネイトにお客さんが来てるよ」
クスクス笑いながらセディーが庭にやって来た。
「わたしにお客さんって?」
「ふふっ、行けばわかるよ」
なにやら、嫌な既視感が・・・
「ネイトにいさまにおきゃくさま……えっと、どうしましょうか? ネイトにいさま、ぼく、かえったほうがいいですか?」
「そうですねぇ。多分、大丈夫だと思いますよ」
クスクス笑いながら答えるセディー。
そして、門の方へ歩いて行くと・・・
なにやら、騒いでいる連中がいた。
「ハウウェル君、あーそーぼっ!!」
と、大きな声がした。
「またかっ!?」
と、思ったら……
「ハウウェル先輩~! 遊んでくださ~い!」
というアルトの声までしやがる。
「あのな、フィールズ。こういうときはハウウェル君、あーそーぼ! って言うのがお約束なんだぞー? 知らねーの?」
「ふぇ? そうなんですかっ?」
「……そんなお約束があるワケないだろう。というか、こんなところで騒がないで、普通に家に入れてもらえばいいと思うんだが? レザンもフィールズもいるんだから、こんなことする必要は無いだろうに」
「ふっ、そんなの、俺が楽しいからやってるに決まってるだろ! それに見ろっ、門番さんもお屋敷の皆さんもすっげえ笑い堪えて面白がっている! その証拠に、これだけ騒いでも誰も止めねーしさ?」
開いている門の前でケラケラと笑うテッド。
「なにしに来たっ!?」
「よう、ハウウェル。元気そうだな!」
「ハウウェル先輩!」
「……なんか、すまん」
「お邪魔しています、セディック様」
「ふふっ、いらっしゃい。中に入る?」
「セディーっ!?」
「お邪魔しまーす」
と、中へ入って来るアホ共。
「うん? リヒャルトではないか」
「あ、ホントだ。リヒャルト君、お久し振りです。元気でしたか?」
「レザンにいさま、エルにいさま、おひさしぶりです!」
「おおっ!? 噂の弟君! すっげー、なんかこう、ミニ部長って感じ! 将来きっと美人さんになるなっ♪」
「失礼だぞテッドっ」
慌ててテッドを窘めるリール。
「? ぶちょうさん?」
「えっと、ケイト様のことです。僕達が通う学校で、ケイト様はこの前卒業しちゃいましたけど、乗馬クラブで部長さんをしていたんです。僕達はその乗馬クラブの部員で、ケイト様にはお世話になりました」
「ケイトねえさまのおともだちですかっ?」
「友人というのとは少し違うな。セルビア部長は先輩であり、上官のようなものだ」
「じょーかん?」
「やー、ちみっ子に上官っつって通じるかよ? えっと、部長は他の生徒達のリーダーみたいな?」
「リーダー、ですか?」
「そうそう、乗馬が上手くてめっちゃかっこいい美人さんなリーダー」
「はい! ねえさまはとってもかっこいいです!」
「そっかそっかー、これはあれだなー。順調にシスコンに育ってる感じかー」
「? シスコンって、なんですか?」
「それはなー、ねーちゃんとか妹が大好きっ♡って感じの人のことだな」
「それなら、ぼくはシスコンですねっ♪」
嬉しそうに、というかどこか誇らしげにふふんと胸を張るリヒャルト君。
「テッド! 変なこと教えない!」
読んでくださり、ありがとうございました。
間違ってはいないけど、テッドに変なことを教えられて誇らしげにシスコン宣言しちゃったリヒャルト君。(笑)




