で、あんな感じで逃げられそう?
翌日は、エリオットの教える護身術講座に暴漢役として付き合うことになった。
「なんつーか、ハウウェルが暴漢役っての、めっちゃ違和感あるんだけど?」
「違和感……ありますねっ」
テッドの言葉にうんうんと頷くエリオット。
「……むしろ、襲われる方だろう。顔的に」
「相変わらず失礼なこと言うよね、君は」
ぼそりと失礼なことを言うリールへツッコミ。
「まぁ、わたしも別に暴漢役をしたくてするワケじゃないんだけどね? でも、ほら? エリオット、もしもレザンやキアンみたいなのにいきなり襲われたとして、どうにかできそう?」
「備えていないと無理ですね」
キッパリと即答。
「レザン先輩やキアン先輩みたいな実力のある人にいきなり襲われたら、逃げられるかも怪しいですし。それに、グレイ先輩とメルン先輩は、武器を持ったレザン先輩やキアン先輩にダッシュで追い掛けられたいですか?」
「え? ヤだっ、なんかめっちゃ怖そう!」
「……考えたくもない」
「というワケで、お二人には今日の参加は見送ってもらいました」
えっへんと胸を張るエリオット。
「だよねぇ。いきなり、如何にも玄人っぽいあの二人に追い掛けられるのは、ハードルが高いよね」
下手をしたら、トラウマになりそうだ。
ということで、参加を見送られたレザンとキアンは、もっと肉が食べたいと言って狩りに出ている。一応、猟師も一緒に行ったから、さすがにあの二人も無茶はしないだろう。
「というか、この中で一番普通の暴漢役ができそうなのは、テッドなんじゃない?」
顔や体格がどうのというなら、普通の成人男子の体格に近いのはテッドだ。
一番身長が高くてゴツいのがレザン。次に身長が高いのがキアン。そして、テッド、リール、わたし、エリオットと続く。
ちなみに、リールも身長は成人男子の平均に近いけど、今回は教わる方なので除外。それに、身長はわたしよりちょっと高くても、リールはひょろいし。
「断る! 俺は痛い思いをするのは嫌だ! それにさー、フィールズの美少女な顔を襲うってのは、演技でも気ぃ引けんじゃん」
「ああ、そう。それじゃあ、やろうか」
「はいっ! しっかりと見ててくださいね、グレイ先輩っ」
なんだっけ? キアンの演技指導によると、「殺してやる!」だか「死ね!」と叫んで、殺気を漲らせながらナイフを振り翳して襲い掛かる……だったかな?
さすがに抜き身のナイフは危険なので、鞘から抜かないけど。無言で襲い掛からない辺りが、素人臭いと思う。リールは……誰かに恨まれたりでもするのだろうか?
息を大きく吸い込んで、
「……殺してやるっ!」
殺気を籠めて叫びながらナイフを振り上げ、エリオットに襲い掛かる。
「ぴゃっ!」
と、変な声を上げたエリオットが脱兎の勢いで走って逃げた。
「おおっ、フィールズ足速いのなー? しかも、ぴゃっつった。ぴゃって! あはははっ」
ケラケラと笑うテッド。
「……どこまで逃げる気なんだ?」
「あれ、追い掛けた方がいいのかな?」
なんだか、余計に逃げられそうな気がする。
「ハウウェルがめっちゃ怖かったんじゃね? つか、護身術どこ行ったよ?」
「まぁ、護身術って、ある意味では逃げる時間を稼ぐ為のものだし。逃げられるなら、脱兎の如く逃げるっていうのは全然間違ってないんだよね」
「そうなん? なんかこう、バーンっ! ってかっこよく敵倒さねーの?」
「護身術は、護身の名の通り。自分を守る為であって、敵を倒す為のものじゃないからね」
「へー」
「で、あんな感じで逃げられそう?」
「……いや、無理だな」
首を振るリール。なら、呼び戻そう。
「エリオット! いつまで逃げてるっ、早く戻って来い!」
「ふぁいっ!!」
そして、びくびくしながら戻って来たエリオットとまた向かい合う。
ナイフの避け方や、逃げ方のレクチャーをして……途中で気付いた。リールに教えるのは、エリオットの筈じゃなかったっけ? まぁ、動きを実践してわかり易いようリールに見せているのは、エリオットなんだけど。
解説が暴漢役のわたしって、どうなの?
それから、数時間後。
帰って来たレザンとキアンの二人とあれこれ話し、わちゃわちゃと過ごした。
翌日から、晴れた日には「体力を付けるぞ!」と外を走ったり、狩りや採集に出たりした。
最初は不満そうにもの言いたげだったリールも、
「眼鏡よ。例えばだが、お前はナイフを持った仕立て屋に追い掛けられたとして、逃げ切れる自信があるのか? 誰ぞがナイフを振り回して、それに呆気無く殺されてやるのか? 人間とは、存外簡単に死ぬものだぞ?」
そう聞かれた後には、体力作りの為に真剣に走ると決めたようだった。
護身術のレクチャー、体力作り、合間に狩りや採集、保存食作り。暇なときにはゲームなどをして過ごし――――
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読んでくださり、ありがとうございました。
エリオット「だ、だって殺気が出てたんですよっ!? ハウウェル先輩、怒らせるとすっごく怖いじゃないですかっ!?」(。>д<)




