ありがとうお兄様、じゃない?
誤字直しました。ありがとうございました。
「あの人のことは、どうでもいい」
本当に、心から。
家族としての意識どころか、父としての印象、まともに話をしたという記憶すらも薄い。
花畑に置き去りにされて家に帰った後、怒鳴られて殴られたことは覚えているが……その後にまともな会話をした覚えがとんと無い。
理不尽なことを言っていきなり殴るとは、『なんて迷惑なおじさんなんだ』と思ったものだ。いや、まぁ……父なんだけど。
花畑に置き去り以前にも、父はセディーのことで泣き喚く母を慰めてはいたが、話し掛けられた覚えは無い。話し掛けても、取り合ってもらえなかったり、無視された覚えはあるが。
幾ら肉親とは言え、そんな人に親しみを感じられる筈がない。わたしは、そこまで優しくない。
父親というのなら、お祖父様やトルナードさんの方が余程父親らしいことをしてくれた。
あぁ・・・もしかしたら、怒りを通り越した呆れ混じりの感情と、その頭の悪さに若干の憐れみさすら抱いてしまった母よりも、わたしにとって父はどうでもいい存在なのかもしれない。
邪魔だから退けたい、程度にしか思っていない。
そして、セディーも父のことを『あの人』だと言った。その口調には、親しみが感じられなかった。もしかしたら父は、わたしが思うより……セディーにも、あまり興味が無かったのかもしれない。
だから――――
「けど、でも、セディーには・・・申し訳ないと、思う。から、ごめん」
罪悪感を持つというなら、セディーに対してだ。
「お祖父様が現役の間はいい。けど、セディーが侯爵になったらきっと、『セディック・ハウウェルは父親を追い落として侯爵の座に就いた息子』だと、一生言われ続けることになる」
「あ~、そっか・・・僕は別に構わないんだけど、ネイトは優しいね。心配してくれてありがとう」
セディーは穏やかな微笑みでわたしを見詰める。
「でもね、僕だってネイトのお兄様なんだよ? 折角、可愛い弟が頼ってくれたんだから。そのお願いを聞いてあげなきゃ。偶には、僕にも兄らしいことをさせてよ?」
「ごめん、セディー」
ぽんぽんと頭が撫でられる。
「そこは、ありがとうお兄様、じゃない? ネイト」
イタズラっぽくパチンとウインクするブラウン。
「……ありがとう、セディー」
「うん、お兄様に任せなさい」
それから――――
気まずいお願いをしたというのに、快く了承してくれたセディーとたくさん話をした。
こんなにセディーと二人だけで長いこと話をしたのは、わたしがクロシェン家に預けられる前以来だ。
セディーとは向こうにいたときからずっと手紙でやり取りや、騎士学校に通っている間(この期間の手紙は検閲されるので当たり障りの無い簡素な内容)は外泊のときにお互い忙しい時間をやり繰りして会ってはいた。でも、それはいつも極短時間だけだったから。話したいことがあっても、時間が足りなかった。
何時間も二人だけで一緒に過ごすのは、それこそ幼少期にこっそりと母の目を盗んで夜にセディーの部屋に通ってお喋りをしていたとき以来かもしれない。
わたしは、ベッドの上の友人を兄だと認識していない頃から、穏やかで優しいセディーのことが好きで――――
セディーも、わたしと過ごすことを喜んでくれた。
夜中にセディーの部屋へ行って、セディーの体調次第ではベッドに潜り込んでひそひそと話をしたり、ランプの灯りを頼りに絵本を読んでもらったり、にらめっこをしたり、チェスをしたり、カードゲームをしたり、ボードゲームをしたりして遊んで……多分、両親達に隠れてこっそりと遊ぶということ自体が楽しかったというのもあるんだろうけど。
セディーの体調が悪くて遊べなかったりもしたけど、そういうときはセディーの手を握ったり、背中を擦ってあげたり、着替えを手伝ったり、水を飲ませたりした覚えがあるなぁ。
多分、幼少期にそんな風にして夜を過ごしたせいでセディーもわたしも、少し朝が苦手になったのかもしれないけど……
わたしがうとうとし出してもセディーは、「僕はまだ眠くないんだけどなぁ」と遊び足りなそうに言って、「でも、ネイトが眠いなら仕方ないか。ほら、寝るなら自分の部屋に戻らなきゃ」と、少し寂しそうにわたしの手を引いて部屋まで連れて行ってくれたっけ。
わたしがセディーのベッドで寝てしまったときは、困って乳母を呼んで運んでもらったらしいけど。
実は、小さい頃はわたしよりもセディーの方が寂しがり屋だったのかもしれない。……まぁ、わたしもあまり人には言えないが。
セディーは母以外の人との接触に餓えていただとか、わたし以外の子供とは会う機会が極端に少なかったからだという可能性もあるけどね。
今思えば、夜にセディーのところへ行くのは乳母や使用人達に見逃されていたのだと思う。夜更かししても、強く怒られたことはあまりなかったし。
まぁ、セディーは体調を崩すことが多かった上、べったりと張り付いていた母に隠れてセディーに近付くのは、夜しかなかったからなんだろうけど。兄弟の短いふれあいの時間という感じで。
乳母も、セディーのことを気にしていたし。母に嫌われていたから、セディーに近寄ることはできなかったみたいだけど。
昔のことを思い出しつつ、あんなことがあった、こんなことがあったとセディーと言い合ったり、セディーの学校生活のことを聞いたりして、馬車に揺られながら二人でたくさん話して、祖父母の家に着いた。
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読んでくださり、ありがとうございました。




