二刀流は、かっこいい。ある意味男の浪漫だと言える。
「こんな感じというか……まぁ、見てて」
と、今度は当てるつもりで鋭く投げる。けれど、さっきよりも素早い反応で躱される。
「なぜか、狙って投げる方が早く反応されるんだよねぇ」
なんだろうか? キャッチボールとかで、狙って投げたボールよりも、意識しない方向からの流れ弾の方が受け損なったり、避け難い感じに近いのかもしれない。
だから、気配やら害意、敵意に敏感な人には、確りとその本人へ当てるつもりで狙って投げるよりも、適当に投げた方が当たり易かったりする。
「なら、俺も投げてみるかな」
と、テッドが遠慮がちに小枝を放る。そして、その小枝を避けた先を計算して小枝を投げると、さすがに躱せなかったのか、木剣と短槍がそれぞれにバシッ! と振り払った。
「おおっ!? なんかかっこいいっ!」
最低限の動作だけで小枝を振り払い、また互いに向かって行くレザンとキアンの姿に安心したのか、遠慮がちだったテッドが次々に小枝を放る。合間に、わたしが鋭く投げた小枝が叩き落とされる。
そんなことを繰り返していると、
「では、そろそろ武器を変えるとしよう」
ニヤリとキアンが笑った。
「いいだろう」
レザンが頷くと、槍、棍、杖、剣と武器を変えながら組み合う二人。
「やはり、剣が一番扱い易いな」
「そうか。では、俺も剣にしよう」
と、今度は木剣を二振り手に取るキアン。
「に、二刀流っ!?」
テッドが興奮したように声を上げる。
まぁ、わからなくはない。二刀流は、かっこいい。ある意味男の浪漫だと言える。
でも、剣を二振り持ったからと言って、強くなるワケじゃないんだよねぇ。
ぶっちゃけ、二刀流は難しい。その上、疲れる。剣は一振りで、最低数キロの重さがある。それを二つも手に持っていなければいけない。一本の剣を同じ姿勢……両手で握って構え続けるのだって、それなりに筋肉と体力が必要となる。それを、片手に一本ずつとなると疲労するのは当然。更には、剣を握り続ける為の握力も必要不可欠だ。相手と剣を交わして、一合目で剣がすっぽ抜けるようじゃあ話にならない。
二本の剣を同時に、攻撃を受けても離さずに掴み続けられる握力、それを振り回せる体力、そして両手で扱える器用さ。これらの要素が揃って初めて、漸く二刀流の剣士になれる。
剣を二本持てば、それで二刀流の剣士を名乗れるワケじゃない。だからこそ、真に実力のある二刀流の剣士は希少だと言える。
流れるような動きで、まるで踊るかのようにレザンと剣を交わすキアン。
なんでも、キアンを育ててくれたじいやさんが元々は将軍で、将軍職を引退した後は王女であったキアンの母君の護衛を務めていたのだとか。キアンは、その元将軍の護衛対象であり、弟子だとも言えるそうだ。ちなみに、ばあやさんは母君の侍女だったとか。
「すっげーっ! イケメンにーちゃんかっこいいっ!」
きらきらした瞳でキアンを見詰めるテッド。
と、日が傾くまで二人の打ち合いが続いた。
「ねえ、そろそろ終わりにしない?」
「ふむ……そうだな。燻製の方も気になるからな。今日のところはこれくらいにしておこう」
「そうか。わかった」
武器を片付けて、エリオットとリールにも声を掛けてテラスへ戻ることに。
「……」
すると、にこにことやり切った顔のエリオットと、どこか困惑したようなリールがいた。
「首尾はどうだ?」
「バッチリですっ」
「リールの顔はバッチリって感じじゃないんだけどね? ちなみに、なにをしていたの?」
「そうですね~……逃げるときの心構えをお話していましたっ」
「へ~、どんな心構えよ?」
「まずは、自分の味方になってくれそうな人を探します!」
「おお、いきなりの他力本願!」
「間違ってはいないな」
「うむ」
「どんな人探すん?」
「レザン先輩みたいな人とか、ハウウェル先輩みたいな感じの人です!」
「やー、レザンとかハウウェルみたいな奴って、探すのムズくね?」
「ふむ……騎士を探せということだろうか?」
「あ~、そりゃ確かになー」
「騎士というよりは、自分のことを助けてくれそうな人ですねっ。レザン先輩もハウウェル先輩も、僕が困ってたり助けを求めていたら助けてくれますからっ」
胸を張って断言するエリオット。
「おおっ、出た! フィールズの、なんか無駄に厚いレザンとハウウェルへの信頼感! つか、イケメンにーちゃんみたいな人には助け求めないん?」
「外国の方に助けを求めると、場合によっては国際問題になっちゃいますからね。あ、キアン先輩みたいな性格の方ならOKですよ?」
「キアンみたいな性格って、そうそういないでしょ」
「……それは否定しないが、街中で自分を助けてくれそうな他人を探すのは難しいと思うのだが?」
「? そうですか? 助けてください! って、お願いすれば結構皆さん助けてくれますよ? 親切な人は多いです」
「……それは、フィールズだからだろう」
「?」
「ま、フィールズみたいな美少女な顔に助けてください! って言われて、それを無下にはできねーよなー」
「顔、関係あるんですか?」
「大いにある! そして、助けた後でこんな可愛いのに女の子じゃないとわかって、きっとめっちゃがっかりする! 俺なら心底がっかりする!」
「な、なんだかとってもヒドいことを言われてるような気がしますよっ?」
「まぁ、実際問題、街中で他人に助けを求めるのは少し難しいよね。騎士や警邏、自警団なんかの見回りをしている人達に助けを求めるのは間違っていないと思うよ」
「うむ」
「しかし、都合良く治安維持部隊がいるワケでもなかろう」
「はいっ。そういうときは、走って逃げます! 逃げるときの注意点は、袋小路に逃げ込まないことですね。行き止まりで追い詰められちゃいますから」
「え~、なんかふつーじゃね?」
「いざというとき、身体を動かすのは案外難しいんですよ? 怖いと身体が強張ったり、震えたり、緊張して思うように動けなかったり、酷いと腰が抜けちゃったりしますし。逃げる前に動悸と息切れがして、くらくらしたら大変なんですよっ」
「なんか、めっちゃ実感がこもってんだけど?」
「伊達に長いこと、姉様達から逃げてませんからね……」
「ぁ~、なんかすまん」
「そう言えば・・・お前の女難は薄れたようだな? 小動物よ」
ふっと遠くを見詰めるエリオットを、琥珀の瞳が見据える。
「ほ、本当ですかキアン先輩っ!?」
「なにかあったのであれば、小動物自身がよくわかっているであろう」
「実はですね、姉様達に謝ってもらったんです。『酷いことしてごめんなさい』って」
「ほう、そうか。よかったな。家族仲が良いのはよきことだ」
うんうんと頷いて、ぽんぽんとエリオットの頭を撫でる褐色の手。
「はいっ♪」
「まあ、薄れたとは言え、お前の女難はまだ残っているからな。気を付けるがいい」
「ええっ!?」
「お前の選択次第によっては……」
「ハッ! る、ルリアちゃんがグレちゃうんですよねっ!?」
「……そういうことだな。確りと、その娘のことを見ていろ」
「はいっ!!」
話が見えないけど、どうやらエリオットもキアンからなにかしらのアドバイスをもらったということだろうか? ルリア嬢がグレるという姿はいまいち想像できないけど。
「では、護身術はまだ教えていないということか」
「あ、はい」
「そうか。では、それは明日だな」
と、わちゃわちゃ話しながらテラスへ戻って燻製作り。
そして、燻製作りの延長で夕食を食べた。
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