ネイトがそんな顔しなくていいんだよ?
ちょい手直し。ほぼ変わってません。
そして翌日。
「もう大丈夫よ、ネイト。メラリアさんとエドガーの二人とはちゃんと約束して来ましたからね。二度と、あんな勝手な真似はしないそうよ」
うふふと目を細めて微笑んだおばあ様が言いました。メラリアさん(母)とエドガー(父)へ「約束して来た」という言葉が、「約束させて来た」に聞こえたような気がするのはなぜでしょうか?
「そうそう、メラリアさんの親族の方ともお話させて頂いたら、快く理解してもらえたから。その辺りも心配要らないわよ」
さすがおばあ様。頼もしいですね。
確か、母の実家は子爵だった筈だから、侯爵夫人であるおばあ様へ文句は付けられないだろう。
まぁ、もし見合い相手だというあの人の姪が、子爵以上の爵位の娘だとしても、ネイサンにはスピカという歴とした婚約者がいる。大人しく引き下がるしかない。
これでもう、あの人は余計なことはしなくなるだろう。ずっと社交を疎かにして来たあの人には、どうせ実家以外の人脈は無いのだから。
「ありがとうございます。おばあ様」
ちなみに、件の姪に別の縁談を紹介してあげたりはしないそうだ。あの人の姪なので、ハウウェル侯爵家から別の貴族へ紹介はしたくないとのこと。
まぁ、当然だよね。あの人を出した家の親族なんだから、ハウウェル侯爵家の……お祖父様とおばあ様からの信用が無いのは。
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それから数日後、セディーの卒業式を見に行った。
母はセディーの卒業式に参加すると言っていたそうだが、お祖父様に却下されて騒いでいたようだ。相変わらずというか・・・なんとも言えない。使用人達は大変だっただろう。
それにしても、あの騎士学校とは雰囲気が大分違う。共学だからだろうか?
式は厳かではあるが、騎士学校のあの張り詰めるようなピリッとした緊張感は漂っていない。帯剣していないから、かな? いや、周囲の大人達の雰囲気が張り詰めていないからなのかもしれない。
ざっと見た限り、教師達の顔には疵痕などは見当たらないし、屈強な体格や強面な人物も数えられるくらいにしかいない。
生徒がなにかやらかさないかと、警棒片手に目を光らせて監視しているような人も見当たらず、歴戦の猛者や強者という雰囲気も全く感じられない。
更には、私語が聴こえても鋭い眼光を向けられることはなく、咎めるような咳払いは聞こえない。威圧的な大声で名指しされて立たされるようなこともない。
教師達は一様に穏やかで優し気だ。
これが……この穏やかな雰囲気が、普通の学校の空気というやつなのかもしれない。
本来わたしが通っていた筈の、普通の――――
あと数週間後には、ここにわたしが通う。
と、なんだかちょっとした感動? を味わっているうちに卒業式が終了した。
「卒業おめでとう、セディー」
わたしが一人で来たのを見て、
「来てくれてありがとう、ネイト」
そう言って微笑んだセディーは、母が来なくてどこかほっとしているようにも見えた。
そして、卒業パーティーではセディーの後輩や友達に、今度入学する弟だと紹介されて挨拶をしたりした。
にこやかな微笑みで卒なく社交をこなすセディーは、少しおばあ様に似ている気がした。わたしが騎士学校に通っている間に仕込まれたのかもしれない。
そんな風にして和やかにパーティーが終わって、祖父母の家に向かう馬車の中。
二人きりになったので、口を開く。
「・・・ごめんね、セディー」
「? どうしたの? なにが僕にごめんなの? ネイト?」
謝ったわたしを不思議そうに覗き込むブラウンの瞳を見詰め返し、
「・・・父を、追い落としてほしい」
お願いをする。
「ああ、そのこと。うん、いいよ。任せて」
セディーはあっさりと頷いた。穏やかな笑顔で。
「え? いい、の? セディー」
セディーは、父と家族として暮らして来ただろうから、もう少し躊躇うかと思ったのに。
「ネイト。ネイトがそんな顔しなくていいんだよ? ・・・それとも、あの人を追い落とすことに対して、罪悪感でもある?」
母のと似た色味の、けれどあの人とは全く違うブラウンの瞳が、少し困ったように優しくわたしを見詰める。穏やかに話すセディーがあの人と似ているのは本当に、色味だけなのだと思う。
セディーの言うそんな顔、がどんな顔なのかはわからない。でも、ううんと首を振る。
それは、違うから。
「あの人のことは、どうでもいい」
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