わぁっ!? いっぱい採れましたね!
誤字直しました。ありがとうございました。
別荘の中へは入らず、そのまま洗い場へ行って採って来た物を並べる。
「ふっ、俺が一番だな」
と、戦利品を自慢するキアン。
当然ながら、野生で採集するのに慣れているキアンが採った物が多い。次いでわたし、リール。一番残念な籠は、テッドと言ったところ。
それはいいとして。
「ねえ、キアン。なんで君の籠からキノコが出て来るかな? わたし言ったよね? 君はキノコ採るの禁止だって」
籠の中から、野草で隠すようにして幾種類かのキノコが出て来た。
「ふっ、そこにキノコが生えていたからだ! 同志が目を離した隙に籠へ入れるなど、俺には容易きこと!」
「や、そういうことじゃないからね! 全くもうっ。君はもっと、懲りるということを覚えるべきだと思う」
と、キアンの採ったキノコを念の為避けておく。
「……ハウウェル、これとこれは食えるぞ?」
「ほれ見ろ、ちゃんと食える物だ!」
ぼそりと数種類のキノコを指すリールに、ふふんと胸を張るキアン。
「え? んじゃあこっちは?」
「それは知らん。見たことがない」
「ふーん。でも、なんか美味そうじゃね? 食えねーの? これ」
「見分けに自信の無い物は、絶対口に入れないこと。これ、キノコ狩りの鉄則。下手したら死ぬからね」
「・・・マジ?」
「まあ、致死量が一グラムにも満たないキノコはあるな。舐めるだけで死ねるぞ」
「マジかっ!? つか、そんなん触って大丈夫なのかよっ!?」
「一応、見える範囲には触れて皮膚が爛れるようなものは生えていなかったな。そして今日は、食えるであろう物を選んで採ったつもりだが?」
「え? なに? 触るとなんかヤバい系のキノコもあんの?」
「うむ。色々あるぞ? 外部からの刺激を受けると灼熱の胞子を放つキノコや、皮膚を爛れさせる毒を持つキノコ。胞子に麻痺症状を引き起こすキノコなどは、近付くだけでも危険だな。下手をすれば、麻痺して動けぬまま餓死することもある。そして、死した後はキノコの苗床となるのだ」
「ヤだっ!? キノコってマジ怖いんだけどっ!?」
「まあ、そういう危険なキノコもあるけど、この辺りには生えてないみたいだから、そんなに怖がらなくてもいいよ。もう採って来ちゃったものは仕方ないとして。その辺りの見分けは、料理人に任せるんでしょ?」
「おお、そう言えば自分で調理せずともよかったのだったな」
「……やはり、料理もするのか」
「無論だ。安全面を考慮すれば調達から調理までを自分でした方が面倒が少ない」
なんというか、キアンもエリオットとはまた違った感じにかなりハイスペックなんだよねぇ。そうなった理由が、本当になんとも言えないけど・・・
「まぁ、調理は兎も角、調達までするような人は結構少ないと思うけどね」
「さすがに調味料は作れぬがな!」
「そこまでできたら、自給自足が完璧だね。普通に考えて無理だけど」
「岩塩などは産地で掘ればいいだけだが、スパイスなどは栽培から始めると、年単位で掛かるだろうな」
「栽培って……」
わちゃわちゃ話していると、料理人がやって来て食べられるものとそうじゃないものに仕分けて行った。偶に、料理人にも用途不明な植物があるようで、それをキアンに聞いている。
どうやら、この国では一般的には食べないものも混じっているようだ。
キアンの国の方では食べられているものなのか、それとも食べているのはキアンだけなのかは不明。
そして・・・
「わぁっ!? いっぱい採れましたね! さすがです!」
「ふむ……これだけあれば、一週間程は大丈夫だろうか?」
と、やって来たのはわたし達よりも濡れている二人。
「なにか採れたか?」
「うむ。鹿を一頭仕留めたぞ」
「おっきい鹿ですよ! レザン先輩が仕留めたんです!」
「ほう、鹿か。あれは煮ても焼いても美味い。して、獲物はどうした?」
「おっきいから荷車で運んでもらってますっ」
「では、解体に手を貸すとしよう」
「か、解体……?」
「慣れぬなら、別に無理をして参加せずともいい。中へ戻っていろ、仕立て屋よ」
「まぁ、血抜きとか、生皮剥いだり、内臓取り出したりもするからねぇ。血塗れにもなるし。あれ、初めて見ると食欲なくしたり、肉を食べられなくなったりする人も多いんだよね。あんまり無理はしない方がいいよ? 結構重労働でもあるし」
騎士学校時代。初めての野営で、動物が絞められるところを見て、泣きながら吐いている奴とかいたし。育ちがいい子供には、結構ショッキングな場面なんだよねぇ。わたしは、小さい頃にトルナードさんに連れられて、ロイと一緒に川で釣りしたり、あれこれ色々としたから案外平気だったけど。
教官によると、男よりも普段料理をする女性の方が動物を解体するのに慣れるのが早いらしい。愛玩する対象ではなく、肉……食べ物なのだという認識に切り替えるのが早いのだとか。まぁ、箱入りのお嬢さんに関してはその限りではないみたいだけど。
「な、生皮に内臓……」
わたしの言葉に、テッドの顔が若干青くなる。
「……手伝う気があるなら、絞めた鳥の羽を毟ることからしてみるか?」
と、リールがキアンの仕留めた鳩を持ち上げる。
「・・・あ~、その、遠慮しとく。中戻ってるわ。けど、夕飯楽しみにしてるからな!」
「ああ、もしかしたら内臓系の料理は出るかもだけど、肉の部分は明日以降の食事に出されるんじゃない? 処理したばかりの肉より、少し時間を置いた方が美味しいからね」
内臓は傷み易いから早めに食べた方がいい。
そして勿論、絞めたてで肉が食べられないワケじゃない(メンタル的に無理な人はいる)けど。やっぱり、肉はある程度の時間を置いて、熟成した方が味が良くなる。
「マジかー。じゃあ、応援してるわ」
テッドが残念そうにしょんぼりした様子で中へ戻って行った。
「さて、では取り掛かるとするぞ!」
使用人達は自分達がやるからと遠慮していたけど、鹿一頭と小動物に野鳥が数羽。この量を処理するのは時間が掛かる。それならみんなで一気にやった方が早いとみんなで解体をした。
粗方の作業が終わって顔を上げると・・・
「ふぅ・・・見事に血塗れだね」
「ククッ……不審者の集団だな。外を出歩くと、通報されそうだ」
「美味しく食べる為ですからね~。仕方ありませんよ~」
「うむ。楽しみにしているぞ!」
「……まさか、貴族子弟が本当に解体作業までこなせるとはな」
「ふっ、俺は皮の鞣し作業までできるぞ!」
毛皮の鞣し作業まで行くともう、それは猟師や職人の領分だ。
「君って、本当に色々できるよね」
「フハハハハハ、何事も経験だからな!」
「それじゃあ皆さん、ちょっと冷たいですけど、井戸水を被ってから中に入りましょうか」
と、順番に井戸水を被って簡単に血を落とす。
「ぁ~……さすがにちょっと寒いかも」
濡れた髪を解いて、ざっと絞る。
「ですね~。お風呂に入ってゆっくり温まってくださいね~」
と、別荘の中へ。
「うおっ!? なんでお前ら濡れてんのっ!?」
玄関で出迎えたのは、驚き顔のテッド。
「うむ。水を被って血を落としたからな」
「……なあ、まだ血付いてんだけど?」
わたし達の服へと目を落とし、ドン引きしたような顔。そういうテッドは、既に汗を流したのかさっぱりした様子。
「顔とかの血は落ちてると思うけど?」
「え? そんな血ぃ出んの?」
「解体作業だからな。こんなものであろう」
「……さすがに大物があったからな。鳥や兎程度ではここまで汚れない」
「ま、そういうワケで今からお風呂なんだよね」
「え~、また俺を放置かよ~。何時間も放っとかれたってのによ~」
「濡れたままだと風邪ひくから」
と、不満顔のテッドを置いて各々部屋へと戻った。
夕食のときにはテッドが自分を構えと騒いでいたけど、みんな結構お疲れな感じで、いつもよりも言葉少なに夕食が終了。
そして、多分大丈夫だとは思うけど念の為にとレザンがキアンの部屋へ泊まることになった。
今日はさすがに、わたしとエリオットは使いものにならない。
キアンのことはレザンに任せて、寝た。
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
読んでくださり、ありがとうございました。
次の話から視点変更。




