なに口に入れてるのっ!? ぺっしなさい、ぺっ!?
散策へ行く為の準備をして外へ出ると、
「ほう、晴れたか」
天気は小康状態なのか雨が止んでいた。
「晴れって言うよりは、曇りじゃない?」
どんよりとした曇り空に少し肌寒いくらいの気温。この空模様だと、またまた降って来そうだ。そして、じっとりと水分を含んだ地面には水溜まりがあちこちにある。
「……行くのか?」
嫌そうな顔でリールが聞く。
「え? 行かねーの? んじゃあ、リールは留守番?」
「……行かないとは、言ってない」
「どっちだよっ?」
煮え切らないリールへテッドのツッコミ。
「……フィールズの別荘に一人は落ち着かないが……足場が悪い中外に出て、色々と汚すことになるのも気が進まない」
「それじゃあ、テラスでわたし達が帰るの待ってる?」
「ふっ、汚れたら洗えばいい! 行くぞ眼鏡!」
と、キアンの一声でリールも行くことが決定。
「一応、森には入らないようにって言われたけど、どうする?」
「屋敷周辺を一周するだけでもいいのではないか?」
「え~っ! 探検じゃねーのかよー?」
不満そうに口を尖らせるテッド。
「や、まず君の格好が森に入るような格好じゃないからね。準備して来いって言ったのに、なにしてたワケ?」
普通のシャツとズボンに革靴というラフな格好に、なぜかリュックを背負っている。なにが入っているんだか?
「え? マジ? ハウウェルが重装備なだけじゃねーの?」
ちなみにわたしは、汚れてもいい厚手のシャツにズボン、頑丈なブーツ。そして、帯剣。
「これでも軽装な方だし。それに、野山を歩くときはブーツが基本だからね。普通の靴で森歩くと大変だよ?」
「そういうもん?」
「そういうものだよ」
「ふ~ん」
と、わたしが先頭。真ん中にテッドとリール。殿にキアンの順で進むことに。
濡れた草をザクザクと踏んで進むと、パラパラ落ちる水滴が靴やズボンを濡らす。
「うおっ、結構濡れるもんなんだな!」
「……雨靴で正解だった」
「ほう……カエルか」
ゲコゲコという鳴き声に反応するキアン。
「よし、毒は無ければ捕まえるか」
「え? カエル捕まえてペットにでもするんすか?」
「いや、食料にどうかと思ってな」
「食う気かっ!?」
「おお、ちゃんと声が出るではないか、眼鏡よ」
「いや、そんなことより、カエルを食うのかっ?」
「ん? 味は鶏肉と似ているぞ? そこそこの大きさであれば、食いでがある」
「カエルなー、種類によっちゃあレストランで高級品だぜ? カタツムリとかもさー」
「カタツムリは、野生のものは食わない方がいい。あれらは、毒を有していなくとも、寄生虫やら病原菌を保有していることが多いからな。貧しい者が野生のカタツムリを食って、寄生虫やら病気、食中毒で死んだという話もある」
「うへ~」
「ゲテモノの話はやめろ」
リールが心底嫌そうに顔を顰める。
「ああ、そうだ。言い忘れていたけど、拾い食いはやめてよね? 特にキアン」
「……ハウウェル、仮にも他国の王族がそんなことをする筈はないだろう」
「今の話を聞いてもそう思う?」
「……」
「ふっ、安心するがいい。麗しき同志よ。口にするのは帰ってから仕分けをした後だ!」
「・・・もうなにか拾ったの?」
「なになに? 食べれる草?」
「虫除けになる草だ。乾燥させても、生で煎じても茶にできる。スパイスとして料理にも使えるぞ」
「ほら?」
と、得意げに草を握るキアンを示すと、
「・・・」
しょっぱい顔で黙るリール。
「質問いいっすかー?」
ただ歩いていることに飽きたのか、テッドがキアンに絡み始めた。
「なんだ? 仕立て屋よ」
「イケメンにーちゃんはハウウェルとどうやって知り合ったんすか? 普通、めっちゃ偉い人とお近付きになるのって、難しいじゃないですかー」
「ほう、俺と麗しき同志との出会い、か・・・懐かしい。あれは、そう。俺がこの国に来て間もない頃のことだった」
と、キアンが語り出した。
「この国には、入るまでが少々難儀したが、騎士学校へ入ってからは気楽なものでな。目に見えて刺客が減り、毒殺の危険も減り、無茶振りの命令も無く・・・」
「な、なんつーか、めっちゃハードですね、人生が・・・」
「まあ、生まれて此の方、なかなか刺激的な日々が続いてはいるな!」
キアンの日常にドン引きしているテッドへと、悠然とした笑み。
「まあ、異国の疎まれし貴人ということで敬遠されてはいたが。ある程度の安全が確保されると、当面の懸念は食料だった。寮や食堂での食事は無料ではあったが、食事時間以外の嗜好品……所謂、菓子などの類は個人での購入と言われてな。学費は辛うじて払ってもらえたが、俺の自由にできる金は無かった。仕送りなど期待するだけ無駄。しかし、成長期というものはやたら腹が減る。というワケで、校内の敷地で食えそうなものを片っ端から口に入れて確かめていたときだった。やたら麗しい美少女……」
「は?」
思わず低い声が出ると、
「美少女と見紛うばかりの少年が、その麗しき顔に焦りを浮かべて近付き、『なに口に入れてるのっ!? ぺっしなさい、ぺっ!?』と、俺にハンカチを差し出したのだ」
言い直したキアンがククッと楽しそうに笑う。
「あれには呆気に取られたぞ。なにせ、『ぺっしなさい』などと叱られたのは、幼少期にじいとばあや以来だ。ぽかんとしている俺にハンカチを押し付けて、『お腹空いてるならこれあげるから、変なもの口に入れちゃ駄目だからね。お腹壊しちゃうでしょ』と言って、菓子をくれたというのが出逢いだ」
「……完璧に子供扱いだな。仮にも一国の王族を……」
「ハハハっ、なんかハウウェルってなにげにおかんっぽいとこあるよなー。フィールズにもしょっちゅう鼻拭けってハンカチ渡してるし。泣いてると頭撫でて宥めたりとかしてさー」
「ああ、麗しき同志は顔に似合わず、なかなかの世話焼きだな。しかも、無自覚の」
「君が、そこら辺のものなんでも口に入れるなんて、幼児みたいなことしてたからでしょ。手も泥が付いてて汚かったし」
あれは……そう、あれだ。
見知らぬ異国の留学生が、そこらの雑草を毟って口へ入れているのを見て・・・外へ遊びに出るようになったばかりのスピカが、地面に落ちているものを拾って、口に入れようとしたのを思い出した。それで慌てて止めたんだよね。
初対面にもかかわらず、思わず言ってしまった、「ぺっしなさい」というのはまぁ、完璧に子供……三歳児扱いで間違ってはいない。それに、好奇心でなんでも口に入れるのは今も変わってないみたいだし。
「まあ、そういうワケで、なんだかんだ世話を焼かれたのだ」
「それから、腐れ縁が始まったんだよ」
読んでくださり、ありがとうございました。
ネイサン的にキアンは三歳児扱い。(笑)




