お祖父様と、セディーと、よくよく話し合わなきゃ。
がんばれセディー。わたしは応援してるから! と、言いたいところではあるけど。
これはもう、あれだよねぇ……?
便箋を広げながら考える。
ペンは、コバルトブルーの万年筆。数年前の誕生日プレゼントで、スピカの瞳の色をしている。
両親がわたしを手放してくれたお陰で、クロシェン家に預けられたからわたしは、『家族』という存在がどういうモノなのかがわかった。どういう風に子供を愛してくれるのかが・・・
そして、わたしを好いてくれる人達に出逢えた。
お祖父様とおばあ様に気にしてもらえて、乳母に育ててもらって、ミモザさん、トルナードさん、ロイに――――
そして、スピカに出逢えた。
そのことについては、両親へ感謝しよう。『わたしを手放してくれてありがとう』と。
なのに、そうやって出逢えて……大好きだったのに引き離されて、会えなくなって寂しくて、恋しくて――――大切な女の子なのだと自覚した。
そして、スピカが寂しいと言って、わたしを求めてくれて成立した婚約を……おままごとだと馬鹿にした挙げ句、見知らぬ女を宛がって破談にしようとしたことは、許さない。
知らなかったでは、済まされない。
本当なら、もう少し猶予はある筈だった。少なくとも、あと五年。余裕があれば七、八年程度は・・・
けれど、わたしも覚悟を決めようじゃないか。
「あぁ・・・お祖父様と、セディーと、よくよく話し合わなきゃ」
『セディーへ。
おばあ様が、「迎えはこちらから出すので、実家から迎えの馬車が来ても乗らないように」とのことです。
そして、重要な話があります。
ネイサンより』
そう簡潔に書いて封をして、手紙を出した。
セディーが帰って来たら、重要な――――父を追い落とす相談をしなきゃ、ね。
あの人は自分で社交もしないし、嫁の手綱も握れない……というか、そもそも握る気がなかった? かもしれないが……そんな風に我儘放題にさせている駄目嫡男という評価をされているけど、一応仕事だけはできるみたいだから、お祖父様が子爵位のままで置いていたというのに――――
「ごめんね、セディー……」
まだ存命で健康(特に大きな怪我や病気のない)で若い(四十手前)父を抜かして、更に若い十代のセディーがそのまま侯爵の後継にというのは、やはりそれなりに外聞が悪い。
仮令、既に高位貴族の間で「ハウウェル家の嫡男とその嫁は、アレな感じだからお付き合いは控えましょう」と、噂になっているとしても。
正式に後継から父を外すということは、家庭に問題があるということを公言するようなもの。
高位貴族の間だけで交わされていたその噂が、下位貴族や領民達にまで知れ渡ることだろう。
面白おかしく騒ぎ立てられるかもしれない。
おそらく、これからセディーにはかなりの負担を強いることになるだろう。
セディーの縁談だって、難しくなる。
年若い爵位持ちの貴族は、色々と大変だ。
他の貴族が恩着せがましく貸しを作ろうと近寄って来たり、ハニートラップ、身代を毟ってやろうという輩、弱味を握ろうとしたり、傀儡にしようと近付いて来る者、罠に掛けて貶めようという者もいるだろう。羨望され、嫉妬を買い、逆恨みだってされるかもしれない。
年若いというだけで、与し易いと侮られる。
だから、余程のことが無いと、十代で爵位を継ぐような事にはならない。
お祖父様やおばあ様の目も、常に行き届くワケではない。常に助けられるとは限らない。
だから、お祖父様はあんな父でも子爵位に留めていた。
「それでも、わたしは・・・」
この日、お祖父様とおばあ様は遅くまで帰って来なかった。
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