ああ、あれは警護の方でしたのね。
ちょい訂正&変更。
音楽演奏を吹奏楽部から音楽演奏部に変更。
フィールズ嬢のお陰なのか、あれからエリオットがレザンに引っ付いてめそめそすることもなく、テッドはピリピリしているけど、それ以外は特に問題無く日々が過ぎ――――
交流会当日。
「お待たせしました、ネイサン様」
「いえ。今年は……ドレスでしたか」
待ち合わせに現れたケイトさんのドレス姿に、制服なのが少し申し訳なく感じる。
「その、今年で卒業なのだからとセディック様から贈られて来たので……」
「そうでしたか。よくお似合いですよ」
よし、よくやったセディー!
それなら、わたしは別に制服でいいかな? セディーの贈ったドレスに、わたしが盛装で合わせるのもどうかと思うし。女子生徒がドレス姿、男子生徒が制服という組み合わせというペアも、少なくはない。
「そう、でしょうか?」
「ええ、勿論です」
「ありがとうございます、ネイサン様」
女性にしては背の高めなケイトさんに、スラっとしたシンプルなラインのドレスがよく似合っています。大人っぽくはあるけれど、そこに可愛らしさも感じるようなデザイン。小粒のネックレスとイヤリング。結い上げた髪には、セディーの贈ったバレッタ。
これは多分、おばあ様セレクトのような気がします。気合を入れて選んでいる姿が目に浮かびますねぇ。惜しむらくは、ケイトさんのこの姿を見ているのがわたしだというところか・・・
「なんだか、お相手するのがわたしで申し訳ありません」
「そんなことはありません。その、わたしはあまり……可愛らしいものが似合わないので、このドレスも……似合うと言って頂けて、嬉しいです」
と、恥ずかしそうに頬を染めるケイトさん。
・・・だから、なんでここにいるのがわたしなんだろ?
「そういう顔は、セディーに見せてあげてくださいね?」
「っ!?」
「あら、ケイト様とハウウェル様ではありませんか」
「わぁ、ケイト様、今日はいつもより可愛らしいですねっ。よくお似合いですよ」
と、現れたのは、今日はさすがに顔を出したままの制服姿のエリオットと、エスコートをされているドレス姿のフィールズ嬢。
「ええ、とってもお似合いですわ。いつもの凛としたお姿も素敵ですけれど、そのドレスは可憐さが加わってお可愛らしいですわ」
「っっ……ぁ、りがとうございます」
「ケイト様? お顔が赤いですよ? どうされましたか?」
心配そうな顔でケイトさんを覗き込むエリオット。多分だけど、ケイトさんは可愛らしいと言われ慣れていなくて照れているんだと思います。
「もう、エリーは相変わらず鈍いのね。ケイト様は照れていらっしゃるのよ」
「ふぇ? そうなんですか?」
「そこは聞いちゃダメよ、全くもう」
「その、レイラ様もそのドレスお似合いですよ」
と、まだ顔は赤いものの、フィールズ嬢を誉めるケイトさん。
「ありがとうございます、ケイト様」
にこりと胸を張って応じるフィールズ嬢は、おそらく誉められ慣れている。
「あ、折角ですから一緒に行きましょうよっ」
「そうだね。宜しいでしょうか?」
「ええ」
「もちろんですわ」
と、連れ立って会場入り……する途中。
「チッ……」
ギロリと鋭い目付きでわたし達を一瞥するなり舌打ちする、交流会恒例の『見せ付けカップル共爆発しろっ!?』な過激派密告者の人がちらほら。
「なんですの? あの態度の悪い方は」
「ああ、あれはパートナーがいないので、気が立っている方達ですね。気にしてはいけません」
不快そうに眉を顰めるフィールズ嬢に、小さく返すケイトさん。
「そうなんですか?」
「ええ。それに、ああいう不機嫌な方がいることで、学園の平穏が保たれているという側面もありますからね。あまり嫌わないであげてください」
「学園の平穏、ですか?」
「ええ。ああやって目を光らせている方がいることで、不埒なことをする輩が減りますので。ある意味、女子生徒の味方ですから。普段は穏やかな方も多いのですが……」
普段は優しく穏やかという評判の生徒が、『見せ付けカップル共爆発しろっ!?』という思想の下、こういう行事のときにのみ修羅の如く、鵜の目鷹の目で不埒なことをする生徒を密告、糾弾するというのもよくあることだそうです。
『カップル共のいちゃ付き許すまじ! 邪魔せよ!』という彼ら彼女らの密告や糾弾のお陰で、女子生徒の評判や名誉が守られることもあるので、確かに女子生徒の味方とも言えるでしょう。
仲の良いカップルへの態度は、かなり悪いですが。
「ああ、あれは警護の方でしたのね」
「成る程です。道理で眼光が鋭いワケですねっ。悪いことをするなという威嚇の態度だったんですか」
と、うんうんと頷くフィールズ嬢とエリオット。まぁ、あれは一応風紀委員でも生徒会役員でもない、パートナーを組んでいるカップルに苛立っている一般生徒……なんだけどね。
なんというか、あれだ。ちょいちょい見受けられるこういう反応に、この二人はターシャおば様のお孫さんなのだという感慨が湧きますねぇ。
「ふふっ、ええ。そのようなものですね」
クスリと笑って肯定するケイトさん。
「さ、行きましょう」
「はい」
と、会場入り。
すると、あちこちから突き刺さる視線。そして、溜め息の音。
今日のケイトさんはいつもの凛とした態度に加えて、多分おばあ様セレクトの清楚さと大人っぽさの中にも、可愛らしさまで感じさせるドレス姿。
皆さんが溜め息を落とすのも当然の反応でしょう。
というワケで、わたしは気合を入れてケイトさんの虫除けに努めなくてはいけませんね!
それから暫くして会場に生徒が溢れ、高等部の新生徒会による交流会開会の挨拶。
そして、音楽演奏部……略して楽演部の有志による演奏が始まってすぐ。
「お、ハウウェルと……部長っ!? 今日はめっちゃ綺麗ですねっ!?」
読んでくださり、ありがとうございました。




