ぽつぽつと語られるフィールズ嬢の心情。
「あの、そろそろ踊っても宜しいかしら?」
一向にあちらへ注目しないわたし達に、少し不機嫌そうな声が掛けられる。
「っ……失礼致しました。どうぞ」
慌てて姿勢を正すケイトさん。
「ルリアも、ちゃんとレイラ姉様のことを見ててよね? 折角お手本で踊るんだからっ」
「すみません、レイラ姉様」
と、スタンバイしていたエリオットとフィールズ嬢へ注目が集まったところで、曲が始まった。
軽やかなステップでくるくると広がるドレスの裾。ツンとした態度で、けれど楽しそうに踊るフィールズ嬢。そして苦笑気味だけど、笑った顔で的確なフォローをするエリオット。
元婚約者同士のダンスではあるけど・・・あれだ。こう言ってはなんだけど、色気的なものを全く感じない。姉弟とか兄妹という雰囲気の微笑ましいダンス。
「腕は鈍ってないようね、エリー」
「レイラちゃんは、ちょっとステップ怪しくなかった?」
「そんなことないわよっ」
それから、ケイトさんとレザンのペアのタンゴ。
「宜しくお願いします、クロフト様」
「こちらこそ」
密着……と言っていい程、二人の距離が近い。タンゴなんだから当然ではあるけど。セディーは……もう少し気にした方がいいと思うなぁ。
曲が始まると同時にダン! ダン! ダン! と、床を踏み鳴らす、激しくも力強いステップ。
確かに、距離は近いんだけど……こっちもまるで色気を感じない。どちらかというと、今から競技にでも出るような、決闘でもしているかのような雰囲気が漂っている。
「ねえさまかっこいいですっ!!」
「凄い迫力でしたわ!」
ぱちぱちと響く拍手。二人共長身ということもあって、本当にド迫力だった。
「休憩を」
ケイトさんへ手を差し出す。
「……ありがとうございます、ネイサン様」
ふぅ、と息を吐いて応えるケイトさん。その顔が赤い。三種類(そのうち二種類がハードなダンス)も踊るのはさすがに疲れるよね。椅子の方へ連れて行って座らせる。
「真剣勝負しているような雰囲気でしたっ!」
「ふむ、そうか」
「さ、次はわたくし達よ、エリー」
「そうだね、行こうか? レイラちゃん」
と、手を取り合ってスタンバイ。
「ねえさま、タオルです」
侍女が用意していたタオルを持って来て、ケイトさんへ差し出すリヒャルト君。
「ありがとう、リヒャルト」
にこりと嬉しそうにタオルを受け取るケイトさん。
「ケイト様。果実水です、どうぞ」
遅れてやって来た侍女がケイトさんへグラスを差し出す。
「ありがとうございます」
「うむ。頂きます」
と、同じようにグラスを受け取ったレザンがお礼を言う。
そして、タンと軽やかに始まったアップテンポなリズムに乗って、トットットと細かいステップであっちこっちと跳ねるように広間の中を移動して行くエリオットとフィールズ嬢。
「わ~っ!」
「エル兄様とレイラ姉様、息ピッタリですね」
きゃっきゃと手拍子をして喜ぶリヒャルト君。楽しげに踊る二人を、微笑ましいという表情で見詰めるルリア嬢。
エリオットがフィールズ嬢のことを避けていたことを、実はずっと気にしていたのかもしれない。
見ていると、結構気安いやり取りをしているから、元々あの二人は仲が悪くはなかったのだろう。多分……フィールズ嬢が女装やエリオットの嫌がることを強要しなければ、フィールズ嬢が避けられることもなかったのかもしれない。まぁ、無関係な他人であるわたしの仮定ではあるけど。
やがて曲が終わり、ハァハァと息を弾ませて顔を見合わせて笑い合う二人。
パチパチと響く拍手。
「ピョンピョンしてすっごくたのしそうでしたっ! ケイトねえさま、ぼくもピョンピョンしたいです!」
「ふふっ、そうですか」
「はいっ♪いっしょにピョンピョンしましょう!」
やっぱり、見ていて一番楽しいのはクイックステップのようだ。リヒャルト君のテンションが高い。
「セディック様。もう一度、同じ曲をお願いします」
「はい」
「それじゃあ、踊りましょう♪好きにペアを組んでください」
「え? ケイト様? ステップは?」
きょとんと尋ねるルリア嬢へ、
「ふふっ、そんなものは後でいいですわ。まずは、思う存分楽しみましょう」
イタズラっぽく微笑むと、きゃっきゃとはしゃぐリヒャルト君と両手を繋いでタッタッタと軽やかに跳ねるケイトさん。ステップなんて関係無く、楽しそうにピョンピョンと跳ねる姉弟。
ケイトさんって、真面目ではあるけど実はなかなかお茶目さんなところもある人なんですよねぇ。
「え? えっと、それじゃあエル兄様っ、ルリと踊ってください!」
「うん、いいよっ」
「あら、エリーが取られちゃったわ」
クスクスと笑い、わたしとレザンを見比べ……
「踊って頂けます?」
わたしへと手を差し出すフィールズ嬢。
「わたしで宜しければ」
「はい。お願いします」
「ふむ……あぶれてしまったか」
と、端にはけて行くレザンを余所にフィールズ嬢の手を取り、ホールド。
「・・・その、初対面のときは態度が悪くて申し訳ありませんでした」
真っ直ぐにわたしを見上げる瞳。
「わたしは気にしていませんよ」
そう返したところでピアノが奏でられる。
「エリーが……エリオットが、学園に通いたくないって言ってるって。それで、お祖父様が説得して、学園に通うと決めたそうなのですが……その、エリオットが騎士学校で慕っていた先輩の、ハウウェル様がいらっしゃるから行くことに決めたって聞いたので……わたくしやミラ姉様……エリオットのお姉様達からは逃げ回って全然顔も見せてくれなかったのに、学園ではハウウェル様方の前でエリーが笑っていて。だから……その、ハウウェル様方はなにも悪くなかったのに、面白くなくて……失礼な態度を取ってしまいました」
ぽつぽつと語られるフィールズ嬢の心情。
読んでくださり、ありがとうございました。
色気を感じないダンス。(笑)
そして、あのときのレイラちゃんの心情。




