優雅に見せるには筋肉と体力が必須ですよ。
と、誰がどのダンスを踊るのかとペアが決まった。
そして、体力面から考えてダンスの順番を決める。
「スローステップ、それからスタンダード。その次にタンゴ、クイックステップの順で宜しいでしょうか?」
「それだと、ケイトさんの負担が大きいのではありませんか?」
スタンダードワルツというのは基本的な三拍子のワルツのこと。これが踊れないと話にならない、基礎中の基礎のダンス。
アップテンポなワルツは、スタンダードよりもちょっと速いリズム。踊り易くて、多分一番踊れているように見える……下手には見え難いダンスでもある。
スローステップワルツというのは文字通り、ゆったりとしたリズムのワルツのこと。ゆったりとした優雅なダンスではあるんだけど、人間というのは存外ゆっくりと動くことが難しいもので、動きは激しくないのに、見た目以上に体力を使う。そして、実はスローステップワルツを苦手としている人は結構多い。信頼関係が試されるダンスとも評されることがある。これを優雅に踊れたら上級者と言えるダンスだ。
タンゴは軽快なリズムで激しい動きの情熱的なダンス。距離感がかなり近いので、恋人同士や婚約者、仲の良い親族同士で踊るイメージが強いかもしれない。
クイックステップは、その名の通りの速いリズムでステップを刻むダンス。跳んだり跳ねたりと細かいステップが多くて体力を使う。けれど、動きが派手で、見ていて一番楽しいダンスだと思う。
「一応、レイラ様とフィールズ様が踊っている間に休めるので大丈夫だと思いますが」
「ああ、ケイト様がお疲れでしたら、エリーが踊ればいいと思いますわ」
「うん? フィールズが踊る?」
「あ、僕一応男女両パート踊れます。姉様達とのダンスレッスンで、両方のパートを練習させられたのでどっちもバッチリですっ」
「・・・君って、実はなにげにスペック高いよね」
「えへへ、そうですか♪」
照れたようにはにかむエリオット。
まぁ、その下地に・・・どことなく不憫さが漂っているんだけどね?
と、ケイトさんとフィールズ嬢の体力が保たない場合はエリオットが女性パートを踊ることになった。まぁ、本人がOKのようだし、問題は無いのだろう。あと、多分ケイトさんと踊るよりは気安いかもしれない。
「では、宜しくお願いします」
「こちらこそ」
すっと差し出された手を取って移動。
「曲をお願いします」
セディーへ声が掛けられ、始まった曲と共にステップを踏み出す。
ゆったりとしたリズムで、流れるように滑らかな動きを意識して。
おそらくは、スローステップワルツがダンスの中で一番、女性を重たいと感じる(女性が背中を反らせた姿勢で踊り、それを男性側が支える為必然的に重量を感じる)ダンスで・・・リード側が鍛えていないと女性を支え切れずに見苦しく見えて恥を掻いたり、最悪女性に怪我をさせてしまったりする。
それが、このスローステップワルツが信頼関係が試されると言われる由縁で、難易度が高くて敬遠されがちな理由なんだけど・・・ケイトさんは鍛えていて体幹が確りしているからか、あまり男性の方に重心を預けて来ない。
これは、おばあ様と踊るよりも疲れないかも。
ケイトさんは、かなりダンスが上手い。そう思っているうちに、曲が終わった。
「お相手ありがとうございました。疲れてはいませんか?」
「ええ。わたしは大丈夫です。ケイトさんの方こそ」
「わたしも大丈夫ですよ。では、次にスタンダードワルツをお願いしても宜しいでしょうか? フィールズ様方」
「はいっ」
「ええ。行くわよ、エリー」
と、エリオット、フィールズ嬢のペアがスタンバイする。
「ケイトねえさまとネイトにいさまのくるくる、とってもきれいでしたっ!」
きらきらとした瞳で、興奮したように顔を赤くしてケイトさんに抱き付くリヒャルト君。
「リヒャルトっ!」
「きゃー!」
と、ぎゅ~っと抱き合うラブラブな姉弟に、若干戸惑うような視線を向けるレザン。まぁ、普段のクールなケイトさんの姿しか知らなかったら驚くとは思う。ケイトさんがブラコンなのは知っていた筈なんだけどな?
「はい。凛としていて、とっても美しいダンスでした」
と、こちらも瞳をきらきらとさせてわたしを見上げるルリア嬢。彼女にはケイトさんとリヒャルト君がぎゅ~っとハグしている姿への動揺は見られない。もしかしたら、ケイトさんとリヒャルト君の仲の良さには慣れているのかもしれない。まぁ、一緒に授業を受けているから見慣れているのかな?
「ありがとうございます。美しく見えたというのでしたら、それはケイトさんの腕がいいからですね。スローステップワルツは本来、美しく見せるのがとても難しいダンスなんですよ」
「そうなのですか?」
「ええ。あれは、筋肉や体力が付いていないと踊るのが厳しいので」
女性がリード側へ体重を掛けっぱなしで踊ることも可能ではある。けれどその場合、リード側に相当な腕がないと、美しく踊っているようには見えないだろう。男女のパートどちらにしろ、ある程度の努力の求められるダンスではある。
「筋肉と体力が必要なのですか? あんなに優雅でしたのに?」
「ふふっ、優雅に見せるには筋肉と体力が必須ですよ。バタ足で水面を進む白鳥と同じですね」
「見えない努力ということですね」
「そうですね」
「あの、そろそろ踊っても宜しいかしら?」
読んでくださり、ありがとうございました。
ダンサーの人は実はムキムキ。(笑)




