本日の授業は紳士淑女の嗜み。
土曜日。
「ねぇ、セディー」
「なぁに? ネイト」
「今日ってなにするの?」
「ああ、今日は・・・」
セディーは、どことなく浮かない顔だ。
「行けばわかるよ。はぁ……」
と、溜め息。どうしたんだろう? と思いながら馬車に揺られて――――
フィールズ公爵邸にやって来ましたよ。
ちなみに、エリオットとレザンはフィールズ伯爵家の方から馬車を回してもらってフィールズ公爵邸に来るのだとか。
「ようこそいらっしゃいませ、セディックお兄様。ネイサンお兄様」
と、ルリア嬢にお出迎えされました。そして、通された場所で・・・
「セディーにいさまっ、ネイトにいさまっ! おひさしぶりですっ!」
きゃっきゃと走って来たリヒャルト君に飛び付かれました。
「はい、お久し振りですね。リヒャルト君」
「リヒャルト、いきなり飛び付いては危ないですよ! お怪我はありませんか? ネイサン様」
「はい、わたしは大丈夫ですよ」
「リヒャルト、ネイサン様にごめんなさいは?」
「ごめんなさい、ネイトにいさま」
ケイトさんに叱られてしょんぼりと謝るリヒャルト君。
「ふふっ、久し振りにネイトと会えたのが嬉しかったんですよね? リヒャルト君は」
「はい・・・」
「僕もその気持ちはわかりますよ。好きな人に会えたら嬉しいですからね」
にこにこと優しい顔でリヒャルト君を見下ろすセディー。
「でも、今のはネイトだったから大丈夫でしたけど、女の人やお年寄りの人にいきなり飛び付いたりしては駄目ですよ。びっくりして、転んでしまうかもしれませんからね。リヒャルト君は、誰かに怪我をさせたいワケではないでしょう?」
「はい。きをつけます・・・ケイトねえさまにも、とびついたらだめですか?」
頷いたリヒャルト君が、少し心配そうな顔でケイトさんを見上げる。
「っ!? そんなことはありません! リヒャルトならいつでも大歓迎ですっ!!」
すぐさま否定して、ぎゅっとリヒャルト君を抱き締めるケイトさん。相変わらず、リヒャルト君ラブのようです。でも・・・
「いや、ケイトさん。それは駄目ですって」
「なぜです?」
ほんの少し、不満そうにわたしを見上げる顔。ケイトさんのこういう表情は珍しいですね。
「それは、リヒャルト君が男の子だからですよ。今はまだ小さいですが、そのうち力も強くなります。そしたら、いつかはきっとケイトさんもリヒャルト君のことを受け止めることが難しくなりますから。そして、もしもケイトさんが怪我をしてしまったら、それこそリヒャルト君が悲しむことになります」
「そう、ですか……」
「ええ。男の子の突進を甘く見てはいけないんです。七、八歳くらいにもなると、男の子の本気の突進は、成人男性でもたじろぐ程の威力があるんです」
昔、トルナードさんがロイに体当たりをされて、不幸にもそれがいい感じに鳩尾に入ったらしく、「げふっ!?」となっていた。
大人の男でもそうなっていたのだから、幾ら鍛えているとは言え、女性では少し厳しいだろう。
「なので、リヒャルト君」
「はい」
「ケイトさんのことが大好きなら、いきなり飛び付いたりするのではなくて、ちゃんと声を掛けてから、ケイトさんに優しく抱き付いてあげてください」
「わかりました! だいすきです、ケイトねえさまっ!」
「わたしもですっ、リヒャルトっ!!」
と、ぎゅ~っとハグをし合う姉弟。
「わぁっ! ケイト様は、弟さんとすっごく仲良しさんなんですねっ♪」
「うむ・・・いつものセルビア部長とは雰囲気が違うな」
驚いたようなアルトの声と、どこかぽかんとしたような低い声がした。どうやら到着したらしい。
「あら、これは失礼を致しました。こちら、賢くて可愛いわたしの自慢の弟のリヒャルト・セルビアです。リヒャルト。あちらの大きな方のお兄様がネイサン様の同級生のレザン・クロフト様。そして、そのお隣のお兄様がネイサン様達の一つ後輩で、ルリアさんの婚約者様のエリオット・フィールズ様です」
さっと立ち上がり、頬は赤いもののスッといつもの凛とした表情に戻して、リヒャルト君の紹介。そしてレザンとエリオットの二人を紹介するケイトさん。
「リヒャルト・セルビアです。よろしくおねがいします」
「うむ。レザン・クロフトです。レザンと呼んでください」
「エリオットです。えっと、僕のことはエリオットか、エルでいいですよ?」
「レザンにいさまとエルにいさま、ですね」
「れ、レザン先輩っ、僕のことエル兄様ってっ!!」
「うむ。俺も末っ子だからな・・・初めて兄と呼び掛けられたぞ。なにやら面映ゆいな」
嬉しそうな顔のエリオットに、感慨深そうな顔で頷くレザン。
リヒャルト君って、実は案外人たらしなのかもしれない。
「それで、お二人は……本日の助っ人でしょうか?」
「あ、はいっ。セディック様に呼ばれて来ました」
「うむ」
「わたしもセディーに頼まれて来たんですけど、今日はなにをする予定なのでしょうか?」
「あら、セディック様はお話になっていないのですか? 本日の授業は紳士淑女の嗜み。ダンスレッスンです」
と、そう答えたケイトさんの服装は、言われて見ればドレス姿。
「ダンス、ですか・・・」
と、セディーを見るとすっと目を逸らされた。行けばわかる、ねぇ?
「ああ、だからこの広間に通されたワケですか」
「ふむ。成る程」
「ほら、ダンスをするなら人数がいた方がいいから」
にこりと答えるセディー。でも、その視線はわたしから外れている。
「ということで、僕はピアノを弾きますね?」
ダンスは踊りたくない、ということか。
「あら、ピアノでしたらレイラ姉様にお願いしますのに。ね、レイラ姉様」
「え? レイラちゃんっ?」
「えっと……その、お久し振りです。エリオット様」
ルリアと一緒にやって来たフィールズ嬢にビクッ! としてレザンの後ろへ隠れようとしたエリオットが、フィールズ嬢の挨拶にぽかんと口を開けて固まる。
「・・・ど、どうしちゃったのレイラちゃんっ!? 具合悪いっ? 熱でもあるのっ? それとも頭打っちゃったっ? 痛いところはっ!?」
次いでハッとした顔でフィールズ嬢に近寄り、エリオットは彼女の両頬に手を添えて顔を覗き込んだり、おでこに手を当てて熱を計ったりとおろおろとし出した。
「ちょっ、なにしてんのよエリーっ!?」
「え? だ、だってレイラちゃんの様子がおかしいから心配で」
「なんともないわよっ! もうっ」
「ああ、大丈夫です。レイラ姉様はうっかりさんで少し鈍感で残念さんなところはあまり直っていませんけど、それ以外は元気ですよ。今までのエル兄様への態度を反省して、改めようとしているだけなのです」
「え?」
「なによ? なにか文句でもあるのっ?」
「ふぇ? えっと、文句はない、よ……? その、レイラちゃんがそんな余所行きな態度だと、ちょっと……ね?」
そっとフィールズ嬢から手を放し、後ろへ下がるエリオット。
「もうっ、なんなのよっ!?」
「レイラ姉様、ご挨拶です」
「っ!? し、失礼しました。わたくし、ルリアの姉のレイラ・フィールズです。ハウウェル様方には改めてご挨拶をさせて頂きます」
頬を赤く染め、慌てて挨拶をするフィールズ嬢。こういうところが、妹のルリア嬢にうっかりで残念だと評される所以だろうか。
「この度はダンスレッスンということで、わたくしも参加をさせて頂くことになりました。どうぞ宜しくお願い致します」
「初めまして。僕はセディック・ハウウェルです。ハウウェルでは弟のネイサンと紛らわしいので、セディックと呼んでください」
にこりと自己紹介をするセディー。
「弟とは顔見知りのようですので、紹介は必要ありませんよね? フィールズ嬢」
「ぁ、その……はい。その節は、申し訳ありませんでした」
読んでくださり、ありがとうございました。
レイラちゃんどうなったの? という感想を頂いたので、レイラちゃん再登場。
エリオットに対する態度を改めようとしたら、めっちゃ心配されました。(笑)




