ね、ルリアちゃん。僕と約束して?
エル兄様の反抗期? で騒いでいる大きいお姉様達は兎も角、ルリはミラ姉様の結婚式で、ひそひそと聴こえて来たお話のことが気になります。
その方がどこのおうちの方なのかはよく聴き取れませんでしたが、
「…………令嬢、婚約を解消したらしいわよ」
「まあ、あの方って、伯爵家の跡取りとして育てられていた方でしょう?」
「ええ、跡取りとして育てられていたのに、弟君がお生まれになったからと次期当主から外されて、お可哀想に」
「今更、他家へ嫁ぐのも難しいのではないかしら?」
と、可哀想と口では言いながらも、それはイジワルそうな響きの声でした。
彼女達のイジワルそうな話し方はひとまずおいておいて。ルリが気になったのは、伯爵家の跡取りとして育てられていた令嬢がいるというところです。
お話によると、女の子が、次の当主として、爵位を継ぐことができるそうなのです。
ということは・・・お祖父様は、公爵位をエル兄様に継がせたいと思っているみたいですが、レイラ姉様やルリが、公爵位を継ぐことも可能だということなのですっ!
だから、ルリは調べてみることにしました。
おうちの書庫に通って本をあれこれ捲って調べてみると、やっぱり女の子でも爵位を継ぐことはできるのです。実際に、女性で爵位を引き継いだ方は少ないようですが・・・ちゃんと前例があるのです!
一族の方が次々と死に絶えて、残った女性が仕方なく爵位と家を継いだというお話。……これはだめですね。ルリは、みんなが元気でいてほしいのです。
一族男子が碌でもない人物で、悪いことばかりするので、王族から女性が直々に任命されたというお話。国の介入。これも参考になりません。お祖父様も、次の公爵になるお父様も、ルリのおうちは悪いことはしないのです。
あとは、そうですね。おうちの乗っ取りを防ぐために、婿入りした旦那様でなくて、直系女性が爵位を継いだというお話。そして、一族の誰よりも優秀だという女性が爵位を継ぐお話・・・
これですっ!
とっても優秀で、誰が見てもこの人が継いだ方がいい! と思われるようになれば、女性でも爵位が継げるようなのです。
誰が見てもとっても優秀・・・は、レイラ姉様にはちょっと難しいかもしれません。レイラ姉様は、ちょっとうっかりさんで鈍いところがありますからね。公爵夫人としても、ちょっと危うい気が・・・
ということで、ルリが優秀だと示して、女の子でも大丈夫だとお祖父様に思わせればエル兄様が公爵位を継ぐ……レイラ姉様と、渋々ながらに結婚をしなくて済むのです!
レイラ姉様と結婚したら、エル兄様がレイラ姉様にビクビクしながら暮らすのが、目に見えているのです。だから、そんな風にならないように、ルリは頑張ります!
と、決意をしたので……早速行動です。
「ルリはたくさんおべんきょうがしたいです!」
そうおばあ様にお願いをして、家庭教師を付けてもらいました。
まずは、家庭教師の先生にルリを優秀だと思ってもらうのです!
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目標を定めたルリが、お勉強に明け暮れる日々を送っていたら――――
エル兄様が、騎士学校を卒業して帰って来たと聞きました。
レイラ姉様が会いに行くと言うので、ルリも一緒にエル兄様のおうちに向かったのですが・・・
「もうっ、なんでエリーは出て来ないのよっ!!」
エル兄様はどこかに隠れてて、出て来てくれませんでした。レイラ姉様は怒っています。
一応、伯爵家の敷地内にはいるらしいのですが・・・なんでも、ローザ姉様達がエル兄様に会いに来たそうで、お姉様達の声がした途端にエル兄様は二階の窓から外へ飛び出してしまい、見事地面に着地して走り去って以来、エル兄様の姿はおじ様とおば様と使用人達以外は見ていないのだとか。
偶に、おじ様とおば様にも姿を見せない日があったりするそうです。
怪我などは一切無く、ごはんもしっかりと食べていると使用人から報告があるとのことで、おじ様とおば様はあんまり心配はしていないご様子でした。
「昔……ローザ達から逃げるために空き部屋に隠れて、丸二日間籠城して出て来なかったことに比べると、ごはんもしっかり食べて、自室でちゃんと寝起きしている分、安心ですから」
「うふふ、エルちゃんが窓から飛び出すのを久し振りに見ましたわ。相変わらず、やんちゃね~」
と、おじ様とおば様は笑っていました。
エル兄様は・・・ルリが思っていたよりもすっごく大変な思いをしていたようです。そして、エル兄様は可愛らしいお顔の割に、なかなか逞しいようです。
それから一月ほど経って――――
エル兄様が、お友達の方をご招待してお茶会を開くのだとか。おばあ様が張り切って準備をするのだそうです。
そして、聞いてしまいました。今度のエル兄様のお茶会には、『伯爵家を継ぐはずだった令嬢』の婚約者様が出席するのだと。
これは、チャンスです!
是非とも、ルリも参加……もしくは、乱入をして『伯爵家を継ぐはずだった令嬢』との縁を繋いでもらうのですっ!!
そして、案の定おばあ様が乱入したお茶会で――――ルリは思い余って、「ルリがエル兄様をもらってあげます」と宣言してしまいましたっ!!
でも、おばあ様がルリの味方になってくれそうなので、結果オーライです。
まずは、お父様とお母様をおばあ様と説得して、その後に全員でお祖父様を説得しました。
「エル兄様よりも、わたくしの方が絶対に優秀になってみせます」
と、お祖父様に確約をし、学業や当主教育でエル兄様よりも好成績を取り続けること、淑女としての教育にも手を抜かないことを条件に、ルリも当主候補として認めさせることに成功しました。
「・・・レイラとエリオットとの婚約は見直す。代わりに、ルリアと婚約させるのもいいだろう。しかし、ルリアがエリオットよりも劣っているのであれば、予定通りにエリオットを公爵家当主に据える。これは譲らん」
そう、お祖父様と約束をしました。
ルリは、頑張りますっ!!
それから、決まったことをエル兄様にお話ししたら――――
「ルリアちゃんがそれでいいならいいよ。ルリアちゃんがしたいことを、僕も応援するね。でも・・・もしつらくて我慢できなくなったり、そうじゃなくても、他にやりたいことができたり、好きな人ができて他のおうちにお嫁に行きたくなったりしたら、ちゃんと僕に教えてね? 幾らルリアちゃんに向いてないって言われても、僕だって男だし。ルリアちゃんよりも年上のお兄様なんだから頼ってよ。繋ぎくらいはできるようになるから。ね、ルリアちゃん。僕と約束して?」
「・・・はい」
女の人が苦手で、泣き虫で、公爵に向いていない、そんな風に酷いことを言ったルリのことを心配して、『ルリが公爵になる』という宣言を反故にしていい、と。僕に頼って、と言ってくれるエル兄様は・・・なんて優しいのでしょうか。
エル兄様がルリのことを想ってくれているのはわかりますが・・・ルリは、ルリは、益々エル兄様を守ってあげたくなりましたっ!!
もし、ルリが大きくなっても、この気持ちが変わっていなければ・・・ルリがエル兄様をもらって、大事にしてあげます♪
「ルリは、もっと頑張りますね!」
「ふぇ? えっと、あれ? あんまり無理しないでいいよ、って言ったつもり……なんだけどな?」
きょとんとした顔で首を傾げるエル兄様。
「ルリは全然大丈夫なのです!」
ルリの返した言葉に、
「そっか、それじゃあ僕もがんばらなきゃね」
エル兄様はふわりと笑ってくれました。
このまま……エル兄様がずっと笑っていてくれると、ルリもうれしいのです♪
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読んでくださり、ありがとうございました。
エリオットは見た目は可愛い系の美少女なんですが、二階の窓から飛び降りて無傷で着地してそのまま走って行けるくらいには身体能力が高いです。または、しっかりした木が近ければ三階の窓から飛び出すこともしばしば。高いところは平気なので、手を掛ける場所があれば、雨樋や外壁のクライムなんかもできます。
そしてそれを、「男の子はやんちゃね~」で済ませるルクレツィアお母様。ターシャおばあ様の娘なので、実はなにげに天然入ってます。(笑)
お父さんのライオットは心配しつつも、以前に「パパなんかだいきりゃい、ハゲりょっ!!」と言われた後からは娘達には及び腰。「怪我が無いならいいが……頑張ってローザ達から逃げるんだぞ、エリオット」と、心の中で応援してました。
そして、次回からネイサン視点に戻ります。




