本日はお招きありがとうございます、エリオット様。
「なぁ、フィールズん家になに着てったらいいと思う?」
難しい顔をしたテッドの質問に、
「制服でいいのではないか? 学生服は、大抵の場面に着て行けるからな」
レザンが答える。
「な、な、ネクタイって必要?」
「まぁ、相当見苦しく着崩していない限りは、ノーネクタイでも一応大丈夫だと思うけど。締めて行った方が無難じゃない?」
「……ああ。失礼の無いようにしなくてはな」
「もう、皆さんあんまり緊張しなくてもいいんですよ? もっと気楽にうちに来てくださいよ」
自分の家に呼ぶからか、にこにことそんなことを言うエリオット。
そうも行かないと思うんだけどな? なにせ、公爵夫人のセッティングするって言うお茶会なんだし。緊張するなって言う方が難しいと思う。
「うむ。ハウウェルの家に行くときには緊張など全くしていなかったではないか」
「ハッ、そう言えば!」
「……いや、俺は緊張していたぞ?」
「ええっ!? ハウウェル先輩のおうち? は、侯爵家なのに緊張しなくて、僕のうちは緊張するんですか? 僕の家は伯爵位ですよ?」
「おお、そう言えば……なんでだ? ハウウェル」
「や、なんでそれをわたしに聞く?」
「ふむ……セディック様とはそれ以前に面識があったというのと、思ったよりもネヴィラ様がハウウェルと似ていたからではないか?」
「なるほどなー。言われてみれば、リールもネヴィラ様にはあんまり緊張してなかったよなー」
「……まあ、他の女性よりはな」
「み、皆さんネヴィラ様と面識がっ?」
「おう、ネヴィラ様、案外気さくな方だったぜ?」
「うむ。さっぱりとした気性のご婦人だ」
「……さっぱりというか、ハウウェルを女にして、もっと豪快な性格で、もう少し攻撃的にしたような感じか?」
「なんだか、すっごく強そうな方ですねっ!」
「まぁ、おばあ様は強いとは思うけど・・・」
それからあっという間に金曜日が来て――――
「明日は確りと準備万端にしていますから、絶対来てくださいねっ? 待ってますからねっ?」
と、言ってエリオットは帰って行った。
明日はエリオットの家、フィールズ伯爵家でお茶会か・・・
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
うちからセディーとライアンさんと一緒に、馬車に揺られること数時間。
「いらっしゃいませっ。ハウウェル先輩、セディック様っ!」
満面の笑みを浮かべるエリオットに、フィールズ伯爵家に出迎えられた。なんだか、嬉しそうにブンブンと振られる尻尾的なものが見えるような気がする。……いや、実際には尻尾なんて無いけどね? そういう雰囲気だ。
「こっちです、こっち」
と、挨拶を返す間もなく案内されたのは、フィールズ家の庭園。長めのテーブルが設置されていて、
「お久し振りです、セディック様。ライアン先輩」
レザン達が既に席に着いていた。ひらりと手を振るテッド、ぺこりと会釈するリール。
わたし達が最後だったようだ。
「ふぇ? そちらの方はライアンさんというんですか?」
セディーの後ろのライアンさんへと視線を向けるエリオット。
「ああ、彼は僕の後輩で秘書のライアン・フィッセルです。去年まで学園の生徒だったので、ネイト達とは顔見知りですが。エリオット様とは入れ違いに卒業したので、初対面になりますか」
「初めまして、フィールズ伯爵令息様。わたしはライアン・フィッセルと申します。現在はセディック様の秘書として、ハウウェル侯爵家に仕えています。今回はセディック様の侍従として来ていますので、わたしにはお構いなく」
にこりと挨拶をしてライアンさんの紹介。
「え? 様って言った? フィールズに?」
と、驚いたような小さな呟きが落ちる。
まぁ、わたしも、セディーがエリオットに様付けをするのはかなり違和感があるけどね・・・でも、フィールズ伯爵家では思ってても口に出しちゃ駄目なやつだから、それ。
「改めまして。本日はお招きありがとうございます、エリオット様」
「い、いえっ、こちらこそっ、僕の招待に応じて頂いてありがとうございます、セディック様」
にこりと微笑むセディーに、慌てて挨拶を返すエリオット。そして、
「あ、あの、セディック様」
意を決したように顔を上げる。
「はい、なんでしょうか?」
「そ、その、セディック様はすっごくお世話になっているハウウェル先輩のお兄様ですから、僕のことはどうかエリオットと呼んでくださいっ!」
緊張したように頬を染め、セディーを見上げる潤んだ瞳。
その様子を見て――――
「ぅっわ、告白してるみたいな顔ー」
「ふむ……どうやらかなり緊張しているようだな」
「……お前らは少し黙っていろ」
ぼそぼそとした、潜めた声のやり取りがなんとも言えない。
「わかりました。では、エリオット君と呼んでも宜しいでしょうか?」
「はいっ、あ、でも……ハウウェル先輩みたいに、エリオットかエルって呼び捨てで呼んでくれてもいいですよ?」
「そうですか? でも、僕はテッド君やリール君、レザン君と、彼らのことも君付けで呼んでいますからね」
「そうなんですか?」
「うむ。セディック様にはそう呼ばれている」
「ええ」
レザンの言葉ににこりと微笑むセディー。
「ネイトはエリオット君と親しいんだね」
「ん~……まぁ、そこそこなんじゃない?」
「そ、そこそこってどれくらいなんですかっ!? おうちに呼んだら遊びに来てくれるくらいには仲が良いってことですよねっ!?」
「ま、そんなことはどうでもいいでしょ。それより、エリオット……」
「そ、そんなことじゃない大事なことですよっ?」
「わたし達はどこに座ればいいの?」
「ふぇ? ああっ! す、すみません、僕、お茶会を開くのなんて初めてで……その、こっちにどうぞ」
と、漸く席に案内されて座る。幾ら目の前とは言え……さすがに、招待されたお茶会で学園の食堂みたいに空いてる席に勝手に座るワケには行かない。
「もう、ネイトったら……」
読んでくださり、ありがとうございました。




