のんびりできるって、最高だねっ!!
卒業式を終え、なにかと絡んで来る野郎共を振り切って馬車へ乗り込んだ。
卒業後に軍に仕官しないかというお誘いは、全てお断りしました。「ハウウェルは、その腹黒いところが副官や参謀に向いている」だとか言われましたが……それ、全然誉められている気がしないんですけど?
というか、騎士学校を卒業したら、両親共のせいで入れなかった、本来わたしが入学する筈だった学校の高等部へ行く予定だ。
教官には勿体無いと言われて引き留められたが、そもそも軍人になる気はない。
それにもう、入学当時より既にお祖父様と決めてあることだ。騎士学校とはまた学ぶことが違うので、勉強を頑張らないといけなくて……その辺りが少し憂鬱だけど。
がたごと揺れる馬車の行き先は、祖父母の家。
実家? いや、普通にわたしを迎えに来たのが祖父母の家の馬車だし。というか、騎士学校に通っている間、両親は一度も面会に来なかったから。
外泊するときにも、一度も実家の馬車が迎えに来たことはなかったよ?
まぁ、わざと実家に連絡をしなかったからだと言えば、そのせいでもあるけど……両親から手紙が来たことは、一度もないし。
一応、セディーとだけは簡単なやり取りをしていたし、外泊のときにも極短時間だけど会ってもいた。
自分も学校に通っていて忙しいのに、わざわざ会いに来てくれたんだよね。セディーは。
なので当然、これから祖父母の家に直行です。わたしも別に、実家に帰りたいとは思ってないし。
もう、なんというか、本当に……あの両親共には、呆れ果てたというのが一番近いかな?
うん。おばあ様が、「呆れ果てて、もう投げたわ」と晴れやかな笑顔で言っていた理由がよくわかりましたよ。
わたしも、もうあんまり両親には関わり合いたくないしなぁ……
ぼんやりと窓の外を眺め――――
久々の一人の時間に、少し解放感を覚える。寮は共同生活で、なかなか一人になれる時間が無かったし。
変な風に絡んで来るような馬鹿やバカ共が、すっご~くウザかったからなぁ……
入学当初は――――
わたしを舐めくさって集団で絡んで来るような馬鹿やアホ共を千切っては投げ、千切っては投げ(目の前で転んだり、転ばせたりして倒れた奴を掴んでぶん投げて連中に当てたりとか)……「勘弁してください」と、泣いて謝らせたこともあった。
演習でそういう馬鹿と組まされて……相手がふらつくまで決着を付けてやらなかったこともあった。
あのときは、奴がへばるまで思う存分攻撃をさせてあげてから、負かせたっけ? みんなの前で無様な姿を晒してやったなぁ。
わたしに「腹黒姫」だとか言う巫山戯たあだ名を付けた奴と、軽く拳で語ったをしたこともあった。
翌日からあだ名が、「腹黒麗人」に変わっていた。なんだかあんまり変わってない気がしたけど……まぁいいか、と妥協してやった。
あの頃は、舐められないよう常に必死だった。
学年が上がって行くに連れ、わたしに絡んで来る馬鹿共は段々と減って行った。けど――――
わたしは弱くはないが、あまり強くもない。
負けないこと、試合の時間を引き延ばすことが得意なだけだというのに、なぜか同学年内では演習で当たりたくない相手のトップ5に入っていた。わたしよりも強い奴は沢山いるのに、なぜか五番目に……
まぁ、おそらくは自分でも性格の悪いと思っている、相手の嫌がる箇所を突く戦法のせいだろう。あと、わたしは攻撃を受け流すのが上手いらしい。
然程強くはないというのに、当たりたくないと思われるのは光栄なのだが……
こんなわたしを、なぜかライバル扱いして来る奴もいて、なんというか……
そういう奴の方が、わたしを侮るような馬鹿共よりもウザかった。直情型の脳筋共、コワい……
なんなの? わたしと戦いたいからって、寮の部屋の前で一晩中立ってるとかさ? 寮監もOK出すなよ……全く。お陰で朝一から演習場に引き摺られて行った。そして負けた挙げ句、「いつもより弱いな、ハウウェル」という余計な感想。わたしは朝はあんまり得意じゃないんだよ! おまけに朝食を食いっぱぐれたし。
それからも、断っても断ってもしつこく試合を申し込んで来るしさ?
番付で学年一の強さを誇る奴が、学年で十五~二十五位辺りを行ったり来たりしているような格下の奴に絡んで来ないでよね! って感じだよ。マジでさ。
ちなみに、わたし達の学年は全体で六十名程。そして、番付は剣術や馬術の演習での勝敗と、課題クリアで得られるポイント制となっていた。剣術演習では、勝てば3ポイント。引き分ければ2ポイント。負ければ1ポイント。棄権すれば0ポイント。わたしは、引き分けでポイントを稼ぐことが多かった。課題クリアで得られるポイントは、5~1ポイントになる。
一対一でわたしに圧勝してるクセに爽やかに笑って、「またやろうな、ハウウェル!」だとか言って絡んで来るし。って言うか、わたしはほぼ奴に勝てなかったのにさ? 弱いわたしと戦ってなにが楽しいのか、何度も何度も誘いやがってっ……
おまけに、どうせ負けるからって手を抜くと、めっちゃキレられたし。
そして、番付一位が絡むから、他の奴らもわたしに絡んで来るし……ホンっト、脳筋共ってコワい!
でも、これでもう、あのアホ共と関わることが無いと思うと……じんわりと嬉しさが広がって行く♪
それから、半日掛けて祖父母の家に着いたわたしは、数年振りにゆっくりと過ごした。
もう外泊じゃないから、時間を気にする必要も無い。のんびりできるって、最高だねっ!!
お祖父様もおばあ様も、わたしの卒業を祝ってくれた。まぁ、わたしがあの騎士学校に入れられたときには、相当怒っていたみたいだけど、ね・・・?
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読んでくださり、ありがとうございました。




