お前、それ取れ。
「あと、しつこい女の子を退散させる、おばあ様直伝の魔法の言葉を教えてあげる」
「そ、そんな魔法の言葉があるんですかっ!? ぜ、是非教えてくださいっ!! お願いしますハウウェル先輩っ!!」
「うん。まぁ、これ言うとナルシスト疑惑は避けられないから。そのつもりでね」
「ナルシスト疑惑くらいなんですかっ!! 女の子が退散してくれるなんてものすっごい魔法の言葉ですよっ!! ど、どんなお言葉なんですか?」
「しつこい女の子には、面と向かってにっこりとこう言うんだって。『わたし、鏡を見慣れているもので』って」
「ふぇ? 鏡?」
きょとんと首を傾げるエリオット。
「ぷはっ!! ま、マジかよそれっ!? ははっ、ネヴィラ様すっげぇなっ!? ハウウェルが言うと、マジでシャレんなんねーけどっ……」
「……くくっ、それは確かにっ……普通の女子は、退散するしかないなっ……」
おばあ様直伝の魔法の言葉に吹き出すテッド。そして、珍しく肩を震わせて笑うリール。
「?? 鏡を見慣れているのは当然なんじゃ? 自分の顔ですよね?」
いまいち意味を理解していないのか、エリオットはきょとんとした顔で首を傾げる。
「まぁ、自分の顔だからね。見慣れているのは当然なんだけどねぇ。この言葉には、こういう意味があるらしいよ? わたしの顔はあなたよりも綺麗だと思うんですけど、それをわかっていますか? っていう失礼な意味が」
「おおっ、成る程ですっ! それは確かに、ナルシストだと捉えられる発言ですね」
「そ。ナルシストや性格の悪い奴だって思われたくないなら、お勧めはしない。でも、この言葉は本当に効くからね。困ったときには言ってみたら?」
アルレ嬢みたいに、どこぞのスカウトという、エリオットの姉君達とはまた違った特殊な感じの女性は、エリオットには近付かないだろう。しょっちゅう泣くし、喚くし。根性が無さそうに見えるから。
「はいっ! 早速レイラに言ってみますねっ」
「や、エリオット。フィールズ嬢には多分、言わない方がいいと思う。というか、ここでなんで、フィールズ嬢に言おうと思うのか……」
「え? ど、どうしてレイラには言っちゃ駄目なんですか?」
「え? だから、なんで婚約者さんにそれ言おうとしたよ? やっぱりアホの子か? コホン……まあ! やっぱりエリーはスカートを着たいんじゃない! とか言われちまうぜ?」
フィールズ嬢の真似? の部分では裏声を使うとは、相変わらず芸が細かい。さすが、ままごとでは自称オールラウンダーな役者! をしているだけのことはある。まぁ、似ているかは兎も角。
「ひぃっ!? い、嫌だっ!? そ、そんなことないからやめてよっ!!」
ふるふると涙目で必死に首を振るエリオット。
「とりあえず、フィールズ嬢とか君の姉君達みたいにちょっと特殊な感じの女性じゃなくて、普通に、あんまりよく知らないお嬢さんを牽制するような言葉ね」
「・・・姉様達とレイラは、特殊なんですか?」
「そうだね。割と特殊なんじゃない?」
十代も後半に入った男に無理矢理女装をさせて楽しむような女性は、十分に特殊だと思います。
「まぁ、使いどころを間違えないようにすれば、大抵の女性は引いてくれる言葉だから」
「つ、使いどころ・・・がんばります!」
真剣な顔でエリオットが頷いて、きゃんきゃんとウルサい朝食が終わった。
ぁ~、これから授業か……
✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐
午前の授業が終わって食堂に向かうと、ストールで顔をぐるぐる巻きにした怪しい奴がいた。
当然というか……昼食時というのに、ソイツの座っているテーブルはがら空きだ。
よし、見なかったことにして別の席に……
「あ、ハウウェル先輩っ! レザン先輩もこっちですこっちっ!」
ひらひらと手が振られ、アルトの声が響く。名指し、されてしまった。あれの知り合いかよ? という周囲からの視線が・・・
「うっわ、めっちゃ怪しい奴じゃん」
「ふむ。席取りには便利かもしれんな」
「……あれと同じ席に着くのか?」
ケラケラ笑うテッド。妙なことを言い出すレザン。嫌そうに顔を顰めるリール。
まぁ、わたしもあれと一緒は嫌だな。とは思いつつ、名指しもされたし、他の空いてる席を探すのも面倒なので怪しい奴のいる席に着く。
「なにしてんの? 君」
「はい? えっと、先輩達とお昼ごはんをご一緒したいなって思って・・・ダメ、でしたか? も、もしかして僕とごはんは嫌でしたかっ!?」
「嫌っつーか、お前それ、どうやって飯食うん?」
「あ、そういうことですか。それなら大丈夫ですっ。こうやって、口許だけずらせば問題ありませんっ」
くいっと顔に巻かれたストールの下半分がずらされ、エリオットの口許だけが露わになる。
「・・・まぁ、君が顔を晒したくないなら、それでもいいけどね。早く食べなよ」
「? はい」
と、昼食を食べ始めたはいい。
「・・・」
ちゃんと見えていないのか、口許にはソースが付いているし。ぽろぽろとスプーンから零れる食べ物。落ちるパンくず。そして、垂れたストールが皿に入りそうになっている。
もう、我慢できない。
「お前、それ取れ」
「ふぇ?」
「だから、そのストール。今すぐ頭から外せ?」
「な、い、いきなりどうしたんですかっ!? さっきはそんなこと言ってなかったじゃないですかっ!?」
「食べ方が汚くてイライラする。食べ物零すな、勿体無い。それに、垂れたストールが皿に入りそうなんだよ。汚れてもいいの?」
エリオットの私物なら、多分そこそこの値段の代物だと思うし。
「うむ。確かに、食べ物を粗末にするのはやめた方がいいぞ。フィールズ」
「れ、レザン先輩までっ……」
「ショック受ける前に、テーブルを見てみたら?」
「……あ」
下を向いて、自分の零した食べ物が目に入ったのか、エリオットの口が閉じる。そしてその途端、ストールがお皿にダイブした。
「ああっ!?」
汚れたストールの端っこを握って慌てた声を上げたエリオットに、
「だから言ったのに。全く、君は幾つの子だよ? ほら、拭きなよ」
ハンカチを渡す。
「ぁぅ~……すみません」
「そう言や、今思ったんだけど、お前先週はどうしてたん? こんな怪しいストール男、先週は見なかったぞ?」
そう言えば、先週……というか、新学期が始まってから、こないだまでエリオットの姿を見たことがない。同じ寮にいた筈なのに。
「ああ、先週は僕、食堂に来てませんから」
「……食事はどうしていたんだ? 寮の食堂でも見掛けなかったぞ」
「えっと、購買で食べ物を買って、寮の部屋で食べたり、外でこそこそしながら食べてました。やっぱり、ごはんはあったかい方が美味しいですねっ」
「ヤだ、不憫な子っ」
読んでくださり、ありがとうございました。
口ではなんだかんだ言いながら、エリオットの世話を焼いちゃうネイサン。(笑)




