部外者は口出しをしないで頂けると嬉しいのですが?
なぜかテッドとリールにドン引きされた。しかも、脳筋扱いまでされるし……解せない。
それから、購買で菓子折りを買って、ぞろぞろと別棟の先輩の部屋へ行ってみたけど、寝ているのか返事が無かった。なので、隣の部屋の人へ先輩が起きたら渡してくださいと頼んで預かってもらった。
先輩の隣人の人には、迷惑そうな顔をされた。もしかして先輩は、隣人の人とも関係が微妙なのだろうか? まぁ、わたしには関係無いけど。
一応、頼んだお礼として、先輩へのお菓子を隣人の人へ進呈しておいた。先輩へのお菓子が減ったのを見て、いいのか? 見舞いの品なのに。と驚かれたけど、別に構いません。どうせ義理なんで。と、答えたら笑われて、快諾してもらえた。
さて、もう一眠りでもするかな? なんて思いながら寮まで戻って来ると、
「あら、エリー。わたくしとの約束を忘れていたのかしら? どこに行っていたの?」
薄い笑みを浮かべる女子生徒が立っていた。笑ってはいるけど、怒っているのが判る。
「ひぅっ!?」
彼女の姿を見た途端、息を呑んでバッとレザンの背中に隠れるエリオット。
「エリーって、もしかしてフィールズのこと?」
エリオットと似た面差しの女子生徒が、今気付いたという風にわたし達へ視線を向ける。
「あら? これは失礼を致しました。わたくし、レイラ・フィールズと申します。そこのエリー……エリオット・フィールズとはイトコ同士。そして婚約者となります。エリーとは、わたくしの方が先約がありますの。エリーを連れて行っても宜しいでしょうか?」
へぇ……エリオットの親族のお嬢さんか。道理で顔が似ているワケだ。
そして、婚約者がいたとは知らなかったな。まぁ、幾ら女性が苦手だとしても、コイツは一応伯爵家の嫡男だし。婚約者がいない方がおかしいか。
「え? なにフィールズ、あんな美少女な婚約者との約束すっぽかすとか、なに考えてんの?」
ぽん、とエリオットの肩に置かれる手。あ、テッドが怒ってる。なぜかこの手の話題(女性絡み)になると、よく怒るんだよね。
「ぃ、ぃゃ……」
ふるふると首を振って、ぎゅっとレザンにしがみ付くエリオット。
「た、たすけてくださいっ……」
「エリーったら、そんな風に殿方の影に隠れるのはみっともないからやめなさいって、何度も言ってるでしょ。ほら、さっさと行くわよ。出て来なさい」
顔は辛うじて笑みを作っているけど、苛立ちが隠せていないフィールズ嬢。その様子に、青ざめた顔でがたがたと震え出すエリオット。
「な、な、これどうするべき? 婚約者さんのとこ行かせた方がよさそうだとは思うけど、なんかめっちゃ怖がってるし」
エリオットの怖がりようを見て、困惑したように声を潜めるテッド。どうやら、さっきの怒りよりも憐れさの方が勝ったらしい。
仕方ないなぁ。こういうことにあんまり口出しはしたくないんだけど……
「失礼、フィールズ嬢。わたしはネイサン・ハウウェル。二年生です」
「あなたがあの、ハウウェル様……」
驚いたような顔をして、次の瞬間にはその瞳が冷ややかな色でわたしを見返す。
あの、というのがどういう意味なのかはわからないけど、どうやらフィールズ嬢にはあまり良くは思われていないようだ。
「少し宜しいでしょうか?」
「なんでしょうか? わたくしとエリオットのことなら、部外者は口出しをしないで頂けると嬉しいのですが? ハウウェル様」
「ええ、あなた達の関係に口出しをするつもりはありませんよ」
「そんなっ!? た、助けてくださいハウウェル先輩っ!!」
伸ばされた手に、ガシっと強く服の裾が掴まれる。それを見たフィールズ嬢の眉が不快げに顰められる。
なんだかわたし、相当嫌われているみたいだな。ま、別にいいけど。
「約束、と言っていましたが、今からどこかへお出掛けですか? 寮生の帰省はまだ解禁されていませんし、明日から授業もありますので、あまり遅くなるのもよくないのでは? と思ったもので」
「ああ、それならご心配には及びませんわ。エリーを連れて行くのは、わたくしの部屋ですもの。今日はエリーにわたくしの制服を着せて遊ぼうと思っていますの。夕方になる前には、エリーを帰しますわ」
二人の関係に口出しをするつもりはないという言葉が効いたのか、にっこりと口を開いたフィールズ嬢。テッドがうわぁ……という顔でエリオットを見ている。
確かに、うわぁ……な内容だ。彼女も、姉君達と一緒になってエリオットをおもちゃにしていたうちの一人のようだ。
「……ハウウェルせんぱい、たすけてくださ……」
泣きそうなエリオット頭を宥めるようにぽんぽんと撫で、フィールズ嬢に向き直る。
「部屋、というのは学園寮のフィールズ嬢の部屋、ということでしょうか?」
一応、聞いておく。夕方にはエリオットを帰すと言っていることだし。ひょっとすると、フィールズ嬢の家が学園の近くにあったりするかもしれない。
その場合はあれだ。少し……いや、かなり可哀想だけど、エリオットには諦めてもらって、フィールズ嬢へ引き渡そう。さすがに、他家の事情に口出しはできない。そうなったら、自分でがんばって逃げろ。
「ええ。なにか問題が?」
きょとんと首を傾げるフィールズ嬢に、出るのは深い溜め息。
「・・・ええ、そうですね。問題しかありません」
一応予想はしていたけど、これは酷い。というワケで、助けてあげるとしますか。
「なにが問題だと仰るのですか?」
「この学園の校則をご存知で? 通称、『キス停学』という校則があるくらいには、この学園は男女交際には厳しいことは有名な筈ですが?」
「? ええ、知っていますが。それがなにか? エリーはわたくしの妹のようなものですもの」
あ、駄目だ。これは、本当に判っていない。
「フィールズ嬢は、エリオットを退学に追いやりたいのですか?」
読んでくださり、ありがとうございました。
エリーちゃん扱い。(笑)




