僕、女の子に間違えられるんです……
誤字直しました。ありがとうございました。
「は、ハウウェル先輩と行きますっ!!」
顔を青くしてぶんぶんと首を振るエリオット。
「えっと、フィールズ様は大丈夫でしょうか?」
「ああ、これくらい平気です。それより、ケイトさんは早く寮に戻った方がいいですよ」
そう言うと、心配そうな顔をしながらケイトさんはレザンと女子寮へと向かった。
わたし達も男子寮の方へと歩く。と、ほてほてとわたしの後ろを付いて歩くエリオット。
「ハウウェルせんぱい……」
「なに? 近いんだけど? もう少し離れなよ。レザンの代わりにわたしに引っ付くつもり?」
「ひ、ひどいでずっ……」
酷いというか。わたし、汗臭いと思うんだけど。
「な、な、ハウウェル」
「ん? なに?」
「お前さ、さっきからフィールズの扱いぞんざいじゃね? こーんな可愛い顔してんのに蹴っ飛ばすしさ?」
「蹴飛ばした時点では、エリオットだってわからなかったんだけどね?」
「マジ? なんか、コイツ蹴ったとき言ってたぞ? 人にタックルかますなって、何度も言ってんだろ! って感じのこと。だから知り合いだって思ったんだよ」
「そうだっけ? 多分、コイツの声を聞いての条件反射じゃない? コイツ、懐いた人にすぐ突進するから。レザンは背後から体当たりされてもびくともしないんだけどさ。普通、勢いよく体当たりされたら転けたり怪我したりするでしょ。コイツ、何度言っても聞かないから」
そして、コイツはこんな美少女顔とやらをしているけど、騎士学校に通っていただけあって、結構頑丈で打たれ強い。
「あー」
「……今思ったのだが」
と、ずっと黙っていたリールが口を開く。
「おー、なんだリール?」
「フィールズの寮はこっちなのか?」
「ああ、そう言えば……エリオット」
男子寮の棟は複数ある。
「はい? なんですか? ハウウェル先輩」
「君の寮はこっちでいいの?」
「! す、ストール巻いてもいいですかっ!?」
「まぁ、それは別にいいけど……」
そのストール、多分汗と涙と鼻水でべちゃべちゃな気がする。エリオット本人が構わないなら、別にいいけど……気持ち悪くないのかな?
「え? お前、またそれ巻くの? 涙と鼻水でべちょべちょじゃん。やめとけやめとけ」
「で、でもこれ巻いてないと……僕、女の子に間違えられるんです……」
後半は絞り出すような小さな声。
「はあ? なに言ってんだよ。こーんな美人さんなハウウェルが普通に男子寮で暮らしてんだぜ? 要は慣れだろ、慣れ。お前の顔を覚えてねーからそんなこと言われんだよ。普通に顔出して歩きゃ、誰もんなこと言わなくなるって。な、ハウウェル」
「ぁ~、そうかもね」
「そうなんですねっ!? それじゃあ、覚えてもらえるようがんばりますっ!!」
「で、君の寮は?」
「あ、こっちの方で合ってます」
と、エリオットが指した寮は・・・
「って、おんなじ寮かよっ!?」
「えっ? もしかしてハウウェル先輩達も同じ寮なんですかっ!?」
「はぁ~……残念なことに、そうみたいだね」
テンションの上がって、きゃんきゃんと煩いエリオットを連れて中へ入る。
「ええっ!? な、なにが残念なんですかっ?」
「それは」
エリオットが一緒なのが、と言おうとしたら……
「あっれー? こんなところに女の子がいるー!」
騒がしい声が横合いから掛けられた。
チッ、面倒な・・・
「えー? なになに? もしかして寮間違えちゃったのー? ダメじゃん。この学校男女交際にめっちゃ厳しいって話だし。女の子が男子寮に入って来ちゃ、退学んなっちゃうかもよー?」
と、エリオットをニヤニヤとした顔で見ている男子が二人。その口振りからすると、多分一年生。
エリオットが、女の子に間違われる、と言っていた原因のようだ。これは普通に嫌がらせだろう。
「ぼ、僕は男ですっ!! そうですよねっ? ハウウェル先輩!」
「え? うおっ!! なんかめっちゃ美人がいるっ!?」
「美人だけど……なんか、薄汚れてね?」
エリオットがわたしを見ると、ぎょっとしてわたしを見る二人。まぁ、薄汚れているのは事実だろうけど。アホにタックルかまされたせいで、転けたからな。
……コイツら、どうしてやろうか? 人は疲れてお腹が空いているというのに、こんなくだらない言い掛かりに付き合わせるつもりか? と思っていたら、
「ハウウェル先輩に失礼ですよっ!! 先輩はもっと、泥だらけで真っ黒になったって綺麗なんですからねっ!!」
ムッとした顔で変なことを言い出すエリオット。言い返すことが間違ってると思うんだけど?
「お前それどういうフォローだよ?」
「や、全然フォローじゃないから」
テッドのツッコミを否定する。
「え? ハウウェル先輩の綺麗さは変わらないじゃないですか? 違います?」
「……そういうことではないと思うんだが」
ぼそりと呟くリール。
「とりあえず、だ」
「あ、はい。なんですか? ハウウェル先輩」
「わたしは、今朝から始まった十時間耐久乗馬レースを、ついさっき漸く完走して来たワケだよ。十時間耐久レースを、な」
「はいっ!! 途中から見てましたっ!! お疲れ様でしたハウウェル先輩!」
にこにこと敬礼するエリオット。
「そんな、疲れて、空腹なわたしの、夕食の邪魔をする気か? 君達は」
ギロリ、とエリオットに絡んで来た二人を睨め付ける。あんまりしつこいようならぶん殴るか、コイツら……と思っていたら、
「え? あ、いえ……」
「め、滅相もありません!」
顔を赤くしてぶんぶんと首を振る二人。
「あーもー、お前らさ、こんなばっかみてぇな嫌がらせしてんなっての」
わたしの苛立ちを察したのか、テッドが割って入る。
「聞いての通り、こっちの美人さんなおにーさんは腹減って不機嫌なってんだからさ。それに、こんなとこでアホやってっと……」
「「なにをしているんだ?」」
「って、こわーい顔したおにーさんがやって来て上から睨まれんぞー」
「「っ!!」」
脅かすようなテッドの声に重なった低い声。そして、背後の方を見て固まる二人。
「レザン先輩!」
「うん? もしや、怖い顔をしたお兄さんというは俺のことか?」
「おー、レザンおかえりー」
怖い顔、の質問には答えずへらりと笑うテッド。
「うむ。今戻ったのだが、まだこんなところにいたのか? さっさと手当てした方がいいぞ、ハウウェル」
と、脇腹へ向けられる視線。
「エリオットが絡まれたんだよ。わたしはもう行くから、ここはよろしく」
「うむ」
「あ、ハウウェル先輩あとで夕ごはん一緒に食べましょうね!」
読んでくださり、ありがとうございました。
腹減りで思考力が低下して、ちょっと物騒な感じのネイサン。(笑)




