恨めしそうな響きの女の声で・・・
「なんでわたしに言うかな?」
「あ? そりゃあもう、頭いいおにーさんに勉強教わってっから?」
「うむ。ライアン先輩も、今年で卒業だからな……」
ふっと遠い目をするレザン。
まぁ、なんだかんだコイツがライアンさんに一番ガッツリお世話になっているからな。その次にお世話になっているのはテッドだ。
コイツら・・・来年、大丈夫か?
「ということで、頼むぞハウウェル」
真剣な表情がわたしを見据える。
「は? なんでわたし?」
「下位クラス行きなら兎も角、さすがに留年はまずいだろう」
「ちなみに俺は、下位クラス落ち回避でよろしく~」
「ライアン先輩は、卒業が掛かっているからな。邪魔はしたくない」
「……まぁ、頑張れハウウェル」
「お前の肩に俺達の進級が掛かっている!」
「や、自分達で頑張りなよ」
「ふっ、できたら苦労してねぇ!」
「なぜ威張る!」
なんて、アホな話をしながら勉強の計画を練ることになった、んだけど・・・
「ああ、僕なら卒業試験は余裕なので大丈夫ですよ。わからないところがあるなら、遠慮無く聞いてください」
と、にこやかな笑顔で言われてしまい、それならとレザンとテッドは遠慮しなかった。
リールも、最初はわたし達とは別で勉強するつもりだったみたいだけど、ライアンさんが勉強を教えてくれるならと、結局みんなで勉強することになった。
ライアンさんは、本当に面倒見が良くて頼れる先輩です。
ありがとうございます!!
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それは、ある寝苦しい夜のことでした。
学年末試験を控えたわたしは遅くまで試験勉強をしていて、疲れたから寝ようと思ってベッドに入ったのですが、目を閉じても頭の中を暗記した単語や数式が巡り、なかなか寝付くことができませんでした。
すると、部屋の中にコツン、コツンとなにかを叩くような小さな音が響いていることに気付いたのです。
なんの音だろうと不思議に思い、耳を澄ませると・・・
コツン、コツンと一定間隔で小さな音が鳴っているのは窓の方からなのだと判りました。
その間にも、カーテンの引かれた窓の外側からはコツン、コツンと小さな音が一定間隔で鳴り続けています。なにかが窓に引っ掛かって音を立てているのかもしれない。
わたしは眠たいのに眠れなくて不機嫌だったので、怒りを覚えながらパッとカーテンを開けると、そこには・・・
べったりと真っ黒な人影が、窓の外側から部屋の中を覗くようにして張り付いていたのです。
「っ!?」
わたしがびっくりしていると、その真っ黒な人影がニヤァと口を歪めて笑ったのがわかりました。そして、
「……ハウウェル様ぁ……」
それが低く囁くような声でわたしを呼んだのです。その声は、恨めしそうな響きの女の声で・・・
「……ぁぁ、やっと気付いてもらえましたぁ……」
酷くぞっとしたのでわたしは・・・サッとカーテンを引いて、眠ることにしました。
今見た、窓に張り付く恨めしげな黒い人影のことを忘れようと・・・
コンコンコンコン。
コンコンコンコンコン。
コンコンコンコンコンコン。
人が、忘れようとしているのにっ・・・
コンコンコンコンと、さっきよりも速い間隔で窓が叩かれるようになったのです。
「……ハウウェル様ぁ、酷いですよぉ……開けてくださいよぉ……」
恨めしそうな女の声も、やむ気配がありません。
舌打ちをしてカーテンを開け、
「そこでなにを? というか、どうやってここへ?」
黒尽くめの衣装で、窓にべったりと張り付いた彼女へ問い掛けます。
「アルレ嬢」
さすが諜報員見習いというべきか、ここは一階ではないので、窓に張り付くのは大変だろうに。身体能力が高いようですね。
まぁ、窓は開けませんけど。
「雨樋を伝って来ちゃいました~。そして、もちろん勧誘で~す♪」
暫く見ないと思ったら、こんな強行手段に出るとは・・・そろそろ卒業も近いから焦っているのでしょうか?
「それはそれは、毎度ながらお仕事熱心なことで。無論お断りするので、落ちないうちか、他の生徒に見付かる前に、とっとと女子寮へ帰った方が宜しいかと思いますよ? では、さようなら。二度と来ないでください」
カーテンを閉めると、コココココンと窓ガラスが連打されました。
「酷いですよ~、気付くのも遅かったのに~。窓も開けてくれない上、即行無視するなんて~」
読んでくださり、ありがとうございました。
若干ホラーテイスト……と見せ掛けてのキアラでした。(笑)
月白ヤトヒトは偶にホラーも書いたりしているので、気になった方は覗いてやってください。




