僕と、賭けをしませんか?
誤字直しました。ありがとうございました。
「・・・は? なんでいきなりそうなるんですか?」
「僕はあまり女性が好きではなくて、ケイトさんも男が好きではない。そして、自惚れでなければ、僕はケイトさんに嫌われているワケではないと思っています。お互いに婚約者もいないことですし、丁度いいとは思いませんか?」
お互い、世間的には少し難ありというところもお揃いだ。僕は家……というか、両親が問題で。ケイトさんはその能力故に、と言ったところかな?
ケイトさんは、成績優秀で乗馬が得意。噂によると鞭まで扱えるらしく、文武両道と言っても過言ではない。
その辺の下手な男なんかより、余程能力が高いだろう。領主や爵位持ち、上に立つ者としては、普通の女性よりはその方が歓迎されると思う。けれど残念ながら、自分よりも能力の高い女性を歓迎するような男は、なかなかいないのが現実なんだよねぇ。
自分よりも能力の高い女性を厭う男の方が多いだろう。こと貴族の男は、男尊女卑の傾向が高いと思う。
そんな彼らに能力を示すことで、更に疎まれるようになって行く。能力の高い女性には、貴族社会は生き難い世界だと思う。
「意味がわかりません。それに、そのような大事なことをご当主に相談もなく、ハウウェル様の独断で決めても宜しいのですか?」
「ふふっ」
ここで、父に相談もなく、と言われないところが実にいい。
「なにがおかしいのです?」
思わず笑ってしまったら、ケイトさんの眉が僅かに顰められる。
「ああ、失礼。無遠慮に尋ねたのに、僕のことを心配してくれるんだなぁと思いまして。ありがとうございます、ケイトさん。でも、多分大丈夫ですよ。僕の縁談には祖父母も苦心していますし、なにより僕自身が全く乗り気じゃなかったので。むしろ、気に入った女性がいると言ったら、喜ばれるかもしれませんね。まぁ、変な人でなければ、の話ですが。その点、ケイトさんみたいに確りしたお嬢さんなら、特に問題は無いと思いますよ?」
「勝手に話を進めないで頂けますか? そもそも、わたしは了承していません。それに、我が家の持つ爵位は伯爵位だけではありませんので」
「成る程。このまま結婚しないで、弟さんのサポートをするという人生もあるワケですか」
早速のお断りだけど……
「お話が早いようで助かります」
「もしくは、婿を取って分家を興すか、と言ったところでしょうか?」
「・・・そうなることも、あるかもしれません」
ふいと目を逸らされた。ケイトさんが男嫌いだとしても、嫌々……または渋々ながらに結婚させられる可能性はゼロではない。
「では、そうですねぇ……僕と、賭けをしませんか? 期限は、ケイトさんがこの学園を卒業するまで。僕が勝ったら、ケイトさんに婚約を申し込むので受けてください。ケイトさんが勝ったら……そうですねぇ。婚約の申し込みは諦めるのと、将来セルビア伯爵家を継いだケイトさんの弟さんのサポートをする、というのはどうですか? これでも僕は、将来は侯爵を継ぐ予定ですからね。十分に弟さんの手助けはできると思いますよ?」
「? ・・・ハウウェル様の方が、わたしよりも先に卒業してしまいますよね? なのに、わたしの卒業までの期間、なのですか?」
「ええ。むしろこの賭けは、僕が卒業してからが本番になるかもしれませんね」
「どういう意味ですか?」
「僕に、弟がいることはご存知ですよね?」
「ええ。あれだけ自慢されましたので」
そう。ケイトさんとはお互い、自分の弟に対する愛情を語り合った仲だ。
「その僕の可愛い弟が、来年この学園に入学する予定なんです。なので、ケイトさんが卒業するまでの間に、僕の弟を、『自分の弟みたいに可愛がってもいい』と思ったら、僕の勝ち。そうは思えなかったなら、ケイトさんの勝ち。どうです? 簡単な勝負でしょう?」
「なにを言うかと思えば、そんなの・・・当然、ハウウェル様の弟君よりも、わたしのリヒャルトの方が絶対可愛いに決まっています!」
胸を張ってキッパリと断言するケイトさん。
「なら、受けて頂けますね? ケイトさんが、僕の弟のネイト……ネイサン・ハウウェルを『実の弟のように可愛がってもいい』と、そう思わなければいいだけなんですから。そして、勝負を受けると将来、僕が弟さんの助けになることは確実。なにも悪いことはないでしょう?」
「……ハウウェル様の弟君とは、特に接触をしなくても宜しいのでしょうか?」
「まぁ、ネイトとは学年も違いますからね。無理に接触をしなくてもいいですよ」
多分、ネイトは乗馬クラブに興味を持つだろうから。そしてケイトさんは、来年から乗馬クラブの副部長になる予定だ。
無理に接触する必要は無い。なぜなら、顔見知りになればきっとケイトさんも、素晴らしく可愛らしくて優しいネイトの魅力に気付くことだろう。
あと、ケイトさんに言っておくべきことは・・・
「ちなみにですが、僕は特に子供がほしいとは思っていませんので。婚約しても必要最低限のエスコートなどはしようと思いますが、それ以外はケイトさんが嫌なら、誓ってなにもしません。その辺りは安心してくださいね? 多分、言うまでもなく、ケイトさんの方が僕よりもお強いと思いますし」
男が嫌いだという女性に無理強いすることは、最低だと思うから。それに僕自身、あまり女性は好きじゃないし。無理に近付かれる不快感を知っている。
あと、さすがに非力とまでは思わないけど……運動はてんでダメだからなぁ僕。噂によると、剣や鞭まで扱えるというケイトさんには、敵う気が全くしない。
「だから……というワケではありませんが、ケイトさんの意志を尊重すると約束します」
「・・・いいでしょう。その勝負、お受けします」
少し思案するような顔をして頷いたケイトさんが、
「それにしても、ハウウェル様はなぜそのような勝負をしようと思ったのですか?」
不思議そうに尋ねた。
「そうですねぇ。ケイトさんとは仲良くできそうだと思ったのが一つと、ネイトを大事にできないような女性は、願い下げだからですね。そんな女性と結婚するくらいなら僕は、一生独身でも構いません」
そして、かなり失礼だからこれは言わないけど、ケイトさんの性格はあまり女性っぽくはない。めそめそと泣く鬱陶しい、母のような女性が苦手な僕としては、ケイトさんのさっぱりとした性格は、とても付き合い易い。
むしろ、母と重なるところが殆どないところがいいのかもしれない。
「ハウウェル様と仲良くできるかは兎も角、確かに、弟を……リヒャルトを大事にできないような相手は願い下げというのは、非常によくわかります。わたしも、そのような男は願い下げです」
うんうんと頷くケイトさん。やっぱり、ケイトさんはこの気持ちをわかってくれるんだ。
「ありがとうございます。では早速、ネイトの魅力をお伝えしましょう。あ、僕の話を聞いて、『自分の弟みたいに可愛がってもいい』と思ってくれてもいいんですよ?」
「ハウウェル様の方こそ、リヒャルトの天使のような愛らしさを教えて差し上げます」
と、ネイトとリヒャルト君との魅力を熱く語り合ったけど、やっぱり言葉だけでネイトの魅力の全てを伝えるのは難しかったようだ。
それからも折に触れ、お互いに自分の弟の魅力を熱く語り、どちらの弟の方が可愛いのかと議論したけど、ケイトさんが負けを認めることはなかった。
季節は巡り、とうとう僕の卒業を迎え――――
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
読んでくださり、ありがとうございました。




