嫁姑問題は拗れるとなかなか根深くなるからなぁ・・・
セディー視点です。
誤字直しました。ありがとうございました。
夕方、人気の無い馬場で、凛とした背中に声を掛ける。
「こんにちは。おめでとうございます、セルビアさん」
「ありがとうございます、ハウウェル様。ですが、婚約解消をした普通の令嬢には、あまり相応しい言葉ではないと思いますよ?」
相応しくないとは言いつつも、特に怒っているワケでもなく、挨拶を返してくれるセルビアさん。
「普通は、そうかもしれませんね」
「どうしましたか? ハウウェル様がこんな時間に来るなんて珍しいですね」
「そうですねぇ・・・少し、様子見と言ったところですかね」
「様子見、ですか?」
「ええ。セルビアさんのことが気になったもので」
ケイト・セルビア伯爵令嬢が婚約解消した、という噂を聞いて、やっぱりと思ってしまった。
彼女の婚約者は僕と同じ学年で、上位クラスの男子生徒だった。
セルビアさんと知り合う前から、彼のことはケイト・セルビア嬢の婚約者だと知っていて、けれど特に仲良くもなく、次期女性伯爵の入り婿だという認識しかなかった。
一応、セルビアさんと知り合ってからはなんとなく彼のことは注視していたんだけど……
昨年くらいからだろうか? 彼は、一学年下の女子生徒と仲良くしていて、その後から成績が下がって行き、今年度は普通クラスに落ちたので、益々接点が無くなってしまった。
あの後輩の女子生徒は、少し難しい国との貿易をしている商家のお嬢さんだった筈だ。
なにが目的なのか、貴族子息達に声を掛け捲っている。そして、彼女と仲良くなると成績が落ちたり、家庭内で問題を起こすようになる……と、囁かれているようだ。
そんな彼女と仲良くしていたのだから、なにかしら起こる……と期待している人もいた。
そして期待通りに起こったのが、彼とケイト・セルビア伯爵令嬢との婚約解消。
次期伯爵だったのに、弟が生まれて、次期伯爵から外されたセルビア伯爵令嬢と、変な女に引っ掛かっていると囁かれ、成績の下がっていた男子生徒との婚約。
円満解消だと公言はされているけど、それなりに注目を集めるよね。
まぁ、セルビアさんの方は淡々としていて、つついても面白い反応をしてくれないと、女子生徒達が不満そうに零していたけど。
セルビアさんがフリーになったと、喜んでいる男子もいるけど・・・
・・・セルビアさんがフリー、か。
僕の婚約者は、決まっていない。
十数年前の母のやらかしと、そのやらかした母を諫めることもしない父。
そんな家に、大事な娘を嫁がせたいと思う人はそうそういないだろう。
上位貴族は、ハウウェル家からの縁談の申し込みを厭っている。かと言って、下位貴族から婚約者を見繕うのも、母みたいな甘ったれた女性だったり、よからぬ輩だったら困る。と、敬遠しているうちに……とうとうこの歳まで婚約者が決まらずに来てしまった。
まぁ、嫁姑問題は拗れるとなかなか根深くなるからなぁ・・・うちは、嫁姑問題の煽りを、ネイトが諸に食らっているし。
多分、僕も・・・ネイトとおばあ様の瞳が同じ色だ、と母の前で不用意な発言をして、それを悪化させた要因の一つだけど。
だから・・・僕は、このままずっと独身でもいいと思っていた。
侯爵位を継ぐ上で若干の不便があるかもしれないけど、女性のことは別に好きじゃないし。まぁ、別に男色というワケでもないけど。
強いて言えば、僕は他人への興味が薄いのかもしれない。勿論、嫌いな人間はそれなりに多いけど。
後継問題だって、ネイトが結婚して子供が生まれれば、その子を養子にもらってハウウェル侯爵家を継いでもらえばいいと思っているし。そうじゃなければ、伯母様のところの誰かからもらうという手もある。
けど・・・
「セルビアさん」
「はい、なんでしょうか?」
「ケイトさん、とお呼びしても?」
ケイトさんの名前は、ネイトと音が似ていて呼び易くて好きだ。
「? ええ、構いませんが」
「お気を悪くしたなら謝りますが、ケイトさんって男が嫌いですよね?」
「・・・なぜ、そう思うのです?」
ほんの少し、硬くなる声。じっと、窺うように僕を見返す瞳。
「まぁ、見ていれば、という感じでしょうか。ケイトさんは、女子生徒と話すときにはそうでもないのですが、男子生徒と話すときには、少し身構えているような雰囲気になりますから」
親族にもいる男を差し置いて、次期伯爵候補の女性となれば、無駄に嫉妬されることが多かったことだろう。乗馬クラブに入って来たときだって、やたら男子生徒に絡まれて、結構大変な思いをした筈だ。
男の嫉妬は醜いというし。それが小さな頃からだとすれば、彼女が男嫌いになっても、なにもおかしくはない。
僕は、ちゃんと能力がありさえすれば、男か女かなんてことは、大した問題じゃないと思うんだけどね。
ハウウェル家だって、どうせなら、父なんかよりも伯母様が継いだ方が良かったのかもしれないと思っているくらいだし。
「・・・嫌いではありません。あまり、好きではないだけです」
溜め息と共に落ちる言葉。
「そうですか。実は、僕もあまり女性が好きではないんですよね」
さらっと言った言葉に、
「・・・ハウウェル様? それは・・・」
戸惑うようにケイトさんの視線が揺れる。
「ああ、僕は別に、男の方が好きというワケでもないですよ?」
女性が好きではないと、真っ先に男色を疑われてしまうのが、なんとも言えないよねぇ。
「そう、ですか」
「はい。それで、ですね。ケイトさんへ婚約を申し込んでも宜しいでしょうか?」
「・・・は? なんでいきなりそうなるんですか?」
読んでくださり、ありがとうございました。




