実はわたくし、後釜を探しているのですよ~。
変な噂を流されながらも、わたしが腹立たしく思うという以外に特になにかあるということもなく――――
平日は授業。放課後は乗馬クラブに顔を出したり、週末になる前の放課後にはレザンから逃げ回ったりと、テッド、リールのいつもの面子と概ね平和に過ごして、週末はお祖父様の家に帰ってセディーと一緒に過ごしたりして――――
多分わたしは、油断していたのだと思う。
放課後、乗馬をするか校内を走るか……どうしようか? と、考えながらふらふらと校内を歩いているときだった。
「ネイサン様~」
なにやら、顔だけは見知っているけど、関わり合いになりたくない系の彼女が、笑顔で手を振りながらわたしの名前を呼びながら近付いて来たので即行回れ右でダッシュ。
久々に遭遇したのは、学園の男子生徒にのべつまくなしに声を掛けているという、例の彼女。
聞こえなかった……というか、普通に無視して走っていると、
「待ってくださいよ~」
と声がした。
追い掛けられているっ!? まぁ、待てと言われても待つつもりは微塵も無いけど。
そのまま走り続けて――――
「わたくしのお話を~」
いるというのに、まだ声がするっ!?
「ネイサン様~」
というか、さっきからわたし、彼女を撒く為に割と本気で走っているというのに、ずっと後ろを付いて来るってどういうことっ!?
彼女、貴族令嬢ではないにしろ、確か富裕層のお嬢さんだった筈だよねっ!?
もう十分くらい走ってるのに! 彼女の体力おかしくないっ!? これ、絶対普通のお嬢さんの体力じゃないよねっ!?
このまま追い掛けっこをしていても埒が明かない。どこかの角を曲がって彼女の死角に入ったら、そこらの木に登ってやり過ごすことにしよう。
と、角を曲がって手近にあった木に飛び付いて枝を掴み、一気に上へと登る。
上がった息を殺し、彼女が通り過ぎるのを待とうと耳を澄ましていると、タッタカ走る足音と、
「ネイサン様~」
彼女の声がした。
「……あれ? こっちに走って行ったのが見えたんだけど……」
と、きょろきょろと辺りを見回す彼女が、パッと上を見上げた。
「あ、見付けましたよ~」
「っ!?」
バッチリと、目が合ってしまった。
「わたくし、そろそろ卒業なので、どうしてもネイサン様に聞いてほしい話があるんですよ~」
にっこりとわたしへと微笑み掛ける彼女。
「だから、あんまり手間を掛けさせないでくださいね」
そう言って、彼女は木に手を掛ける。
「なっ!? の、登る気ですかっ!? スカートじゃないですかあなたっ!?」
「こんな木なんか余裕ですので。今からそっちに行きますね? あ、飛び降りて逃げるのは無しですよ? 着地した瞬間に捕まえちゃいますからね?」
「・・・ああもう、わかりました! 降りますから、少し下がってください!」
と、彼女が数歩下がったところで木から飛び降りて着地。ちらりと彼女の方を見ると、両手を構えてタックルをするような体勢をしていた。
押し倒されたくはないので、走るのをやめた。
「・・・で、話ってなんですか?」
渋々彼女を見やると、
「では、改めまして。正式にご挨拶をするのは初めてですよね~。わたくし、キアラ・アルレと申します。実はわたくし、後釜を探しているのですよ~」
間延びした声での自己紹介。初めて彼女の名前を知った。
「は? 後釜……?」
なんだか、無性に嫌な予感がする。
「すみません、ちょっと意味がわからないので失礼します」
と思わず後退ると、
「ふふっ、逃がしませんよ~。こんないい人材、逃がして堪るかっ!」
ガシっ! と強く腕を掴まれた。
「ちょっ、放してくださいっ!?」
引き剥がそうとするが、ぎゅ~! っと両手で腕が握られる。握力強っ!
「ヤだな、やっと捕まえたのに放すワケないじゃないですか~? あなたに目を付けること早数ヶ月、やっとこうして話を聞いてもらうことができるんですからっ!?」
獲物を狙うかの如くギラギラとした眼差しが、なんか怖いんですけどっ!?
「では、早速本題に入りましょうか~。……クロフトの三男が近くにいたら、悠長に話なんてしてられませんからね……」
ぼそりと呟いた後半の言葉。クロフトの三男というのは、レザンのことだ。レザンをそういう風に呼ぶということは・・・
嫌な予感がビシビシしている。彼女の体力と、わたしを掴む握力が、普通のお嬢さん離れしている理由も・・・
「聞きたくないですっ!?」
「まあまあ、そう仰らず。聞いてくださいよ~。実はですね~、わたくしは」
わたしの言葉を無視して話し出すアルレ嬢。
「そこまでにして頂けますか」
読んでくださり、ありがとうございました。
久々な『彼女』です。




