上級生にひそひそされる覚えは・・・
今日から、後期の授業開始。
朝から講堂で集会。
校長や生徒会からの挨拶と、休みは明けたんだから気を引き締めろ的な長い話。
欠伸を堪えつつ集会が終わると、通常の授業。
そして早速、課題の提出を求められました。それから、前期授業のおさらいという感じですかね。
授業内容は兎も角……ぶっちゃけ、じっとしてると眠くなる。多分、昨日テッドのせいでレザンに追いかけ回されたことも無関係ではない筈だ。
そして、教師の説明よりもセディーの説明の方が聞いてて面白いかも。
問題と言えば、それくらいかな?
午前の授業が終わって、空腹を抱えてお昼に食堂へ行くとリールがいたので相席を求めると、
「隣いい?」
「っ!?」
顔を逸らしながら無言でコクコクと頷かれた。
まだ慣れないのかと呆れていると、レザンとテッドがやって来た。
「よ、昨日振りだな」
「座るぞ」
と、二人が同じテーブルに着いたら、なぜか一瞬食堂がざわめいた気がした。
「?」
「なんだ?」
顔を上げたテッドと目が合う。
「うん? どうかしたか? 二人共」
「どう、って言うか・・・」
「びみょーに注目を浴びてる感じ?」
「そうか?」
「……君達、なんかした?」
わたしの質問に、
「はあ? レザンやハウウェルは兎も角、俺が問題起こすワケねーじゃん」
ムッとした顔で答えるテッド。
「だって、君らが来てからだし。あと、レザンと一緒にするのはやめてくれない? わたしは特に、問題起こしてるワケじゃないんだから」
「いーや、お前ら二人は、世間との常識とズレてるとこがあっからな。お前らが特に問題だと思ってないことが、一般人には大問題! ということもある。さあ、自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「……お前ら、いつもながらにレザンの扱い酷くないか? レザンも、なんか弁明は無いのか?」
と、レザンを見やるリール。
「うん? まあ、俺は若干、世間の常識に疎いところがあるのは認識しているぞ」
なぜか胸を張って応えるレザン。
「若干かよ? つか、こっち見て……ハウウェルとレザンを見てひそひそしてんのって、主に上級生なんじゃね?」
辺りを見回し、声を潜めるテッド。
「上級生……?」
上級生にひそひそされる覚えは・・・ぁ~、うん。それなりにある、かな?
前期はわたしとレザンで、上級生相手にそこそこやらかしているし。
無論、後ろめたいことなんて全く無いし、悪いことをしたとも思っていない。けど、強いて言うなら……もうちょっと穏便な方法が取れたかもしれない。セディーやお祖父様、おばあ様に心配を掛けてしまったという反省くらいなものだ。
わたし、正当防衛や犯罪の告発をしただけ。あと、絡まれたから舌戦に応戦して、相手に恥を掻かせてやっただけ。絡んで来る奴が悪い。
「・・・うん。まぁ、特に気にしなくていいんじゃないかな?」
「あ、やっぱりハウウェルとレザンが原因なんじゃねーかよ」
「気にしない気にしない」
と、やいやい言いながらお昼が終わった。
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眠かった午後の授業が終わって放課後。
久々に乗馬クラブへ顔を出すと、
「お久し振りですね、ハウウェル様」
セルビア嬢がいました。
「はい、お久し振りです」
休暇中にお茶会で会って以来ですね。
「リヒャルト君はお元気でしょうか?」
「ええ。リヒャルトは元気なのですが……その節は、大変申し訳ありませんでした」
申し訳なさそうな顔で謝るセルビア嬢。
その節というのは……リヒャルト君に、セルビア嬢のお友達の『おねえさま』扱いされたことですか。
「ああ……いえ、気にしていませんので。というか、こちらこそ。セディ……兄が、失礼をして……」
うん。アレは無いよねぇ。
挨拶もそこそこに、いきなり弟の自慢をし始めるとか・・・どんな羞恥プレイだか?
リヒャルト君は、セルビア嬢とセディーの勢いに喧嘩かと不安がっていたけど。彼がもう少し大きくなったら、きっとセルビア嬢の誉め殺しに羞恥を覚えることだろう。
しかも、やめてって言ったのに、セディーってばまだあの不毛な言い合いに決着を付ける気みたいだし・・・セルビア嬢もセルビア嬢で、決着を付けることに異論は無さそうなんですよねぇ。
ちなみに、セディーはリヒャルト君に『おにいさま』と呼ばれてめろめろな感じになっていたけど。そして、そんなセディーを見て、セルビア嬢は勝ち誇った顔をしていましたけど・・・
とりあえず、二人があの不毛な論争をするときには、わたしがいないところでやってほしいです。
セディーがわたしを誉めちぎるのを、真剣な顔で肯定して悔しそうな表情をするセルビア嬢とか、ホントやめてほしいです。
「いえ、その……わたしの方こそ……」
と、恥ずかしそうに頬を染めるセルビア嬢。セディーにリヒャルト君を自慢する為に、ヒートアップして取り乱したという自覚はあるようです。
「副部長、お久し振りです」
「お元気そうでなによりです」
と、そこへやって来たテッドとレザン。
「お久し振りです。メルンさんもクロフト様も、お元気そうでなによりです」
「ところで、副部長。ハウウェルがなにかしたんでしょうか?」
「え? いえ。ご挨拶をしていただけです。なんでもありませんよ。それより、皆様にご報告があるのですが、少し宜しいでしょうか?」
赤くなった頬を誤魔化すように首を振り、話を変えるセルビア嬢。
「報告、ですか?」
「ええ。その、交流会で絡んで来た彼のことです」
「ああ、確か……場所を弁えずに交流会でセルビア副部長に絡んで来て、ハウウェルに自虐趣味だか露悪癖を暴露された、悪趣味で迷惑極まりない輩がいましたね」
嫌そうに顔を顰めるレザン。どうやら、あの自己陶酔男が相当不快だったようだ。
「あー、あのヘンタイ先輩」
まぁ……あの自己陶酔男がムカついたから恥を掻かせようと思って、自分でそういう風な扱いになるように仕向けておいてなんだけど、他人の口から改めて聞くと、変態というワードは凄いな。
「ふふっ……失礼。その、彼のことです」
読んでくださり、ありがとうございました。




