レザンってば、すっげーバカなんだぜー。
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「・・・?」
ぼんやりと目を覚ますと、自分の部屋じゃない・・・と一瞬思って、寮の部屋だったと思い出す。
ちょっと早目に学園寮に入ったけど、後期の授業が開始されるのは明後日から。
もう少し寝ていたいなぁ……とも思うけど、休みの間に狂った生活リズムを、学園のリズムに合わせる為にも、そろそろ起きた方がいいとも思う。
「・・・ふゎ~」
眠い目を擦り、欠伸をしながら身繕いをして食堂に向かう。と、なにやらデカくて目付きの悪い、薄汚れた感じの奴が、一心不乱に肉を食べていた。朝っぱらから、山盛りの肉を。
見てるだけでお腹一杯になりそう。
「よー、ハウウェル。聞けよ、レザンってば、すっげーバカなんだぜー」
ハハハと笑いながら声を掛けて来たのはテッド。
「うん? ハウウェルか、久し振りだな」
「……ん。おはよ」
「おー、相変わらず寝起き悪いのなー。ま、いいけどさ。そんなことより、コイツマジでバカだぜ? 家から学校まで、歩いて来たんだってよ。しかも、野宿しながらとかやべぇよなー」
「うむ。野営の訓練がてらにな」
「……道理で。なんか薄汚れているワケだ」
「え?? なにハウウェル、リアクションそんだけ? それとも、まだ寝ぼけてんの?」
ぱちぱちと驚いたように瞬くテッド。
「起きてるよ。まぁ、この辺りは人里だからね。それなりに楽だったんじゃない?」
ど田舎の、獣がうろついているような山中でもないし、道もちゃんと綺麗に舗装されている。すぐそこに人家があって、人がいる。食べ物の調達も楽だろう。
「うむ。色々と楽ではあったが、狩りには向かんな。本来なら、食料調達までしたかったのだが、さすがに肉の採れる獲物がいないからな。ここ三日程は、釣りや野草で我慢した」
「ぁ~、それはまた、ご愁傷様」
それで、食べられなかった分、朝っぱらから肉を山盛りでがっついている、と。
「やだっ、ハウウェルが普通にレザンとサバイバルな話してるっ!?」
「? 野営訓練は、わたしも受けたよ?」
「相変わらず、お綺麗な顔に似合わないことを・・・ってっ! なにすんだよ! 暴力反対ー」
なんかムカついたので、テッドの頭を軽くぺしっと叩いておく。
「ふゎ……それで、野営って言ってたけど、教科書とか課題は持って来たの? あれ、結構重かったと思うけど」
抗議を欠伸で黙殺してそう言った瞬間、
「っ!?」
カッとレザンの目が開かれる。
「・・・まさかとは思うけど、忘れて来たの?」
信じられないと思いつつ聞いたら、
「・・・う、うむ」
だらだらと汗を垂らして頷くレザン。
「っぷはははっ!? ばっ、バカがいる~~っ!?!?」
ぎゃははとレザンを指差して爆笑するテッド。
「授業が始まるのは、明後日からだし。今から手紙を出しても間に合わないと思う。荷物が後で届くならいいけど、そうじゃないなら、どうするの?」
「・・・とりあえず、食ってから考えよう!」
あ、思考投げたなコイツ。
それから、レザンが食事を終えるのを、わたしも朝食を食べながら待ち――――
「とりあえず、寮宛になにか荷物が届いてないか確認してみたら?」
レザンが何日も掛けて移動していたなら、宅配便の方が先に寮に届いている可能性もある。
うちなら、わたしが忘れ物をしたら届けてくれると思うし・・・セディーなら、学園まで直に届けてくれそうな気もする。
「今すぐとんぼ返りして、もし行き違いになってもあれだしさ?」
「ハハハっ……はぁ~、笑ったぁ……そうだな。行ってみようぜ!」
「うむ。わかった」
と、寮のラウンジに移動。レザン・クロフト宛の荷物が来ていないか確認したところ・・・
「あったっ!?」
なにやらずっしりと重い小包が届いていたようだ。
レザンがそれを慌てて開封すると、教科書一式と出されていた課題が出て来た。
「おー、よかったなレザン」
「うむ。焦った・・・危うく、学園の馬を借りて、潰す勢いで往復しなくてはいけないかと思ったぞ」
珍しく、レザンの安堵したような深い溜め息。
「んなことにしたら馬かわいそーじゃん」
「というか、授業再開で来てるのに、教科書一式を忘れることの方が信じられないよ」
うんうんと頷き、レザンを見やるとそっと視線を逸らされた。一応、やらかしたという自覚はあるらしい。その手には、『おバカさん』とだけ書かれた手紙が握られている。まぁ、その通りだよねぇ。
「そう言やぁさ、宿題難しくなかったか? 俺、幾つか空白んとこあるんだけどさ。ハウウェルは宿題全部やったん?」
「ああ、うん。わたしは、わからないところはセディーが教えてくれたから大丈夫」
「おー、あのブラコンのおにーさんなー? 確か、すっげー頭いいんだっけ?」
「うん」
「よし、うらやましいから見せろ」
「は?」
「っつーワケで、今からリールも呼んで、みんなで宿題の答え合わせしようぜ!」
と、リールの部屋に押し掛けて嫌がるリールを無理矢理引っ張り出し、課題の答え合わせをすることになった。
「……全く、なんで俺が……」
迷惑そうにぶつぶつと呟くリールに、
「ふっ、答え合わせは休み明けの恒例だろ?」
なぜか胸を張り、
「できない奴ができる奴に迷惑を掛けるのは!」
堂々とアホなことをのたまった。
「・・・威張って、言うことかこのアホがっ!?」
さすがにリールも怒ったのか、声を荒らげた。
「まあまあ、そう怒んなって。一応、この答え合わせは、多分リールにも得はあるんだって」
「俺になんの得があると?」
「リールも、ハウウェルのおにーさんが頭良いのは知ってるよな? ライアン先輩に勉強教えてたっていうし、教え方のお手本にしたって本人も言ってただろ?」
「……ぁ、ああ」
チラッとわたしへ視線を寄越し、顔を赤らめるリール。まだ慣れてないのか・・・
「その、ハウウェルのおにーさんが、ハウウェルに教えた宿題が見られる!」
「・・・」
無言のリールに、
「聞いて驚け! ハウウェルのおにーさんはな、ノートをろくすっぽ取らなかったクセして、在学中は常に上位クラスで好成績をキープしていた、すっごい人なんだぞ!」
ふふんと威張るテッド。なんで君が威張るのか・・・まぁ、セディーが誉められて、悪い気はしないんだけどね。
「……よし、いいだろう」
「・・・あのさ、わたしの許可は?」
「あ? オッケーすんだろ? ハウウェルはさ」
「君ってば、かなりちゃっかりしてるよね? 全く」
「おう、誉め言葉として受け取っておくぜ」
にかっと笑うテッド。
そして、課題の答え合わせをすることになった。
「いやー、助かるぜー」
「うむ。感謝する」
「……言っておくが、丸写しは駄目だからな?」
「わかってるわかってる」
「うむ」
「・・・わたし暇じゃん」
「ふっ、暇なら俺達に教えてくれてもいいんだぜ?」
「偉そうに言うな」
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読んでくださり、ありがとうございました。
宿題あるあるでした。(笑)




