ケイトさん、決着はまたいずれ。
「・・・なんかセディーってば、普段頭良いクセして、偶にバカだよね」
溜め息を吐くと、
「え?」
きょとんと首を傾げるセディー。
「あのね、自慢のし合いまでならまぁ、それもちょっとどうかとは思うけど……まだいいよ? でも、好き嫌いの感情っていうのは、勝ち負けで量れるようなことでもないし、セディーもセルビア嬢も、お互いの『一番』が全く違うんだから。決着なんかつくワケないでしょ。価値観の押し付け合いっていう、不毛な言い合いでしかないから。大体さ? 他人の『一番』は、無理矢理変えられるものじゃないし、そういう風に強制しちゃ駄目でしょ。やめて」
「ぅ……」
わたしの言葉にしょんぼりするセディーを尻目に、今度はセルビア嬢へと視線を向ける。
「セルビア嬢も、セディーとの言い合いに夢中になってどうするんですか? 肝心のリヒャルト君が、不安そうな顔をしていましたよ?」
普段の冷静なセルビア嬢らしくないです。
思わず、会ったばかりのわたしの足にしがみつくくらいには、ヒートアップしたセルビア嬢に引いちゃっていたかもしれません。
まぁ、それはさすがに言いませんけど。
「っ!? す、すみませんハウウェル様! リヒャルト、おいで?」
わたしに抱き上げられているリヒャルト君へと両手を差し出すセルビア嬢。
「ケイトねえさま、おこってないですか?」
「っ、ええ。わたしは怒っていませんよ?」
優しく言うセルビア嬢の腕を見詰め、おずおずとセルビア嬢の顔を伺うリヒャルト君の様子に、彼を不安がらせた原因の一端であるセディーを、じ~っと見やる。
「っ……えっと、その、リヒャルト君? 僕とケイトさんは、喧嘩をしていたワケでも、怒っていたワケでもありませんよ? ですが、少し怖がらせてしまったようですね。すみませんでした」
少し屈み込み、リヒャルト君と目線を合わせて謝るセディー。よしとしよう。
「ほんとう、ですか?」
「ええ。本当ですよ。ケイトさんがリヒャルト君のことを大好きなように、僕もネイトのことが大好きなだけですからね」
「セディー……」
思わず溜め息を吐くと、
「リヒャルト」
セルビア嬢が困ったような顔でリヒャルト君を呼びました。
「ほら、お姉様が呼んでいますよ」
ぽんぽんと背中を叩いて促すと、
「ケイトねえさま!」
パッと笑顔でセルビア嬢の腕に飛び込むリヒャルト君。
「・・・いいなぁ」
ぎゅっと抱き合う仲良しな姉弟を見て、セディーが羨ましそうに呟いた。
「・・・ネイト、僕達も」
「ぃゃ、それはちょっと」
腕を広げるセディーにゆるゆると首を振ると、とても悲しそうな顔をされた。
「っ……ぁ、後でなら……」
「うん♪」
パァっと笑顔に変わるセディー。
わたしってば、セディーの悲しそうな顔に弱い・・・
「それでは、僕達はこれで失礼しますね。ケイトさん、決着はまたいずれ」
「まだやるのっ!? あの不毛な言い合いをっ!?」
と驚くわたしに構わず、
「わかりました」
静かに頷くセルビア嬢。
「ああ、そうです。ケイトさん」
「はい、なんでしょうか?」
「小さい子が小さいままでいるのは、存外短い時間なんですよ? 今のうちにリヒャルト君と目一杯一緒に遊んで、たっくさん可愛がって過ごすことをお勧めします」
柔らかく微笑んで、リヒャルト君を見詰めるセディー。その表情は、どこか寂しげで……
「もっと一緒に過ごしたかったと、後でどんなに悔やんでも遅いですからね」
「セディー……」
わたしがリヒャルト君くらいの年齢のときには、セディーと遊ぶどころか、長時間一緒に過ごすことも少なかった。
普通の兄弟みたいに一緒に過ごせなかったことを、やっぱり後悔しているのか・・・
「ご忠告、肝に銘じておきます」
寂しそうに微笑むセディーを見据えて、確りと頷くセルビア嬢。
「それでは、失礼します」
「ええ。ごきげんよう、セディック様。ネイサン様は、また学園でお会いしましょうね」
「はい。セルビア嬢もリヒャルト君も、お元気で」
「リヒャルト、お兄様方へご挨拶は?」
「またおあいしましょうね、おにいさまたち」
ばいばいと笑顔で手を振るリヒャルト君に、
「ど、どうしようネイト! ぉ、お兄様って……っ!?」
顔を赤くして口元を手で覆うセディー。
どうやら、リヒャルト君の『おにいさま』呼びと屈託の無い無邪気な笑顔が、セディーのツボにハマったみたいだ。
「ま、また会いましょうね。リヒャルト君」
と、慈しむような優しい笑顔でリヒャルト君へと手を振るセディー。
そんなセディーを見て、勝ち誇った顔をするセルビア嬢。まぁ、いいですけどね・・・
できれば、今度この二人が顔を合わせる場には、居合わせたくないなぁ・・・
あの勢いでセディーに誉められ捲ったら、滅茶苦茶恥ずかしいからっ!? あんなの、聞いてるわたしの方がダメージを食らうよっ!!
そして、お茶会からの帰り道は・・・セディーに構い倒された。
「安心してね! リヒャルト君のことは確かに可愛いと思っちゃったけど、僕が一番可愛いと思っているのはネイトだからね! リヒャルト君を抱っこしてみたいって思ったのも確かだけど、僕が一番愛してるのはネイトだからね!」
ぎゅ~っとハグをされながら、熱く語るセディーの背中を宥めるように叩く。
「ぁ~、はいはい。わかってるわかってる」
「あらあら、今日はいつになくセディーが暑苦しいわねぇ。どうしたのかしら?」
と、おばあ様に笑われましたけど・・・
そんな印象的なことがあった長期休暇でした。
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読んでくださり、ありがとうございました。
セディーとネイサンの温度差。
浮気じゃない。セディーの可愛いの幅が、少し広がっただけ……(笑)




