なにナチュラルに無視してるっ!?
「ハッ、下級生を侍らせていいご身分だな? 婚約解消された嫁の貰い手の無い女が」
なにやら、不快な言葉が聞こえましたねぇ……
「可哀想に、こんな女の相手をさせられるとはな。君達は下級生だから知らないのかもしれないが、その女は女のクセに剣や鞭を振り回すような非常識な女なんだ」
芝居掛かった口調で、わたし達へと憐れむような視線を向ける見知らぬ男子生徒。
「全く以て嘆かわしい。幾ら自分の悪評が広まっていて二、三年生には相手にされないとは言え、こんな下級生達を誑かすとは・・・」
・・・なんかキモい。
「申し訳ありません。なにやら、不躾な輩に絡まれてしまいましたね」
やれやれと言った雰囲気で謝るセルビア嬢。
「いえ、アレは別にセルビア嬢のせいではないので謝らないでください」
「うむ。お気になさらず」
そうそう。いきなり絡んで来る奴が悪いのだから。
「ところで、セルビア嬢はなにを食べたいですか? お取りしますよ」
「ローストビーフはお勧めです。他にも、カルパッチョやチキン、カプレーゼ、サンドウィッチ、カナッペなんかも美味しかったですよ」
交流会開始早々、そんなに食べたのか・・・
「あのさ、今言ったものは、このテーブルに大体ないんだけど?」
テーブルの上には、空っぽの皿が多い。どこに消えたかなんて、聞くまでもない。
「ふっ、どれも美味かったぞ!」
「ふふっ、クロフト様は健啖家なのですね」
クスリとセルビア嬢が笑ったときだった。
「なにナチュラルに無視してるっ!?」
三文役者風の男子がまた絡んで来た。
「え? まだいたんですか? どなたか存じませんが、幾らご自分にパートナーがいないからと言って、いきなり女性に暴言を吐いて絡むだなんて無礼な真似は、やめた方がいいですよ?」
周囲の生徒達から、不快げに見られていることに気付いていないのだろうか? スルーしてあげたんだから、さっさとどこへなりと行けばいいのに。
あ、若干、なにかを期待するように頬を染めてうっとりとセルビア嬢を見ている男性陣がいるのは・・・あれは、見なかったことにしましょう。それにしても、普通はこういう場面こそ、間に入っていいところを見せるチャンスだと思うのですが・・・あの人達って、本当にセルビア嬢を見守るだけなのかもしれませんね。
「うむ。全く男らしくない言動だな」
「俺はっ、お前らの為を思って忠告してやってるんだっ! 感謝しろよっ!」
「いえ、結構です」
え? なにこの人・・・
いきなり絡んで来て、女性に暴言を吐いた挙げ句、その内容でわたし達に感謝を強要とは・・・明らかにヤバい人だ。
「うむ。要らぬお節介というやつだな」
珍しくレザンが不快そうだ。
「はあっ!? このケイト・セルビアがどんな女かわかっているのかっ!? この女はとんでもない暴力女なんだぞっ!?」
もしかして、こないだの勘違い先輩(泣きながら、今後は女性が嫌がるようなことはもうしないと誓って更正済み)のように、以前に女子生徒にしつこく言い寄って、セルビア嬢にお断りを入れられた人だろうか?
「セルビア嬢は乗馬クラブの先輩ですからね。乗馬の腕前が素晴らしいことは知っていますが、それがなにか?」
女性であそこまでの腕をしている方は、なかなか少ないでしょう。この国では、女性自体の本格的な乗馬人口が少ないようですからねぇ。
あとは、鞭の腕も素晴らしかったですね。まぁ、女性にしつこく言い寄る行為は普通に迷惑行為だと思います。脅したり、暴力を振るうとなると、明確に犯罪ですね。正当防衛、大いに結構です。
「副部長としての権限でクラブの後輩を脅して言うことを聞かせたのか! なんて卑劣な女なんだ! やはり、お前みたいな女をまともに相手するような男なんていないということだなっ!?」
ビシッとセルビア嬢に指を突き付ける自己陶酔男。ホント、さっきからなんなんだろう?
「ああ、なんて可哀想な後輩達なんだ」
「全く、人が折角無かったことにして差し上げようと思いましたのに。このような公衆の面前で話すようなことではないでしょう。場を弁えなさい。そして、恥を知りなさい」
セルビア嬢がすっと冷えた視線で自己陶酔男を見据え、低い声で言いました。
「恥を晒しているのはお前の方だろうがっ!? 当主を外されたお前に命令される謂われはないっ!!」
「次期当主としても、あなたに話を聞いてもらった覚えはないのですが?」
「次期当主? ハッ、とうに外された身でありながら、まだその座にしがみつくとは厚かましい上に浅ましい女だな!!」
「全く、これだから嫌なのですよ。話が通じない上に、程度が低い。あなた方親族男子が、軒並みそのような体たらくだから、わたしが次期当主になることを父に望まれたというのに」
ああ、そういうことですか。確かに、このような馬鹿……頭が残念な連中しか親族男子がいなければ、女性であるセルビア嬢が次期伯爵家当主として育てられるワケですよねぇ。こういう馬鹿には、家を継がせたくない、と。
「いい加減、自分の出来が悪いのをわたしのせいにしないでもらえませんか? 親族だからとは言え、幼少期より何度も絡まれて、心底うんざりしているのです」
珍しく、セルビア嬢が不快感を露わにしています。余程嫌なんでしょうね。
まぁ、話が通じない上、一方的に悪者にされるのは、精神的に疲れますからねぇ。
ええ。それは、とてもよくわかります。
「失礼、そこの方。そんなに大声で、ご自分がセルビア嬢よりも劣っているということを主張して、楽しいのでしょうか?」
読んでくださり、ありがとうございました。
口撃開始。(笑)




