お嬢様のイメージっ!?
「普通、女の子にモテんのは嬉しいことの筈なんだけどなぁ?」
思わず洩れた溜め息に、腑に落ちないような顔のテッド。
「そうなの?」
「普通の男は、女の子にモテたくて必死こいてかっこ付けたり、色々努力するもんなんだよ」
「へぇ……」
「これだから美形はよぉ、全く」
ケッとそっぽを向き、次いでテッドは複雑そうな表情をする。
「ま、お前は人生がハードモードだからな。その辺りには同情するぜ。野郎に狙われるなんて、ぞっとしねぇ。騎士学校、マジやべぇとこだったんだな」
「うん? テッド。なにやら誤解があるようだから言っておくが、騎士学校は犯罪者紛いの同性愛者で溢れているような場所ではないぞ? ハウウェルが美人だから、極一部の不埒者に目を付けられただけだ。そうだろう? ハウウェル」
「え? あ、うん。そうだね。さっきのは、わたしの言い方が悪かったかも。向こうに通っている三年間で、そういう輩に出くわしたのは三回くらいしかないよ? ……三回とも別々の奴らだったけど……」
基本的に、わたしを追い掛け回していたのは、レザンみたいなアホな脳筋共が多かったし。
「なんて言うか、ギラギラした目付きの人は、こっちの女子の方が多いくらいだよ」
「なんかまた微妙なこと聞いちまったよ! 女子の、お嬢様のイメージ台無しだなコンチクショー!」
「まぁ、ほら? 平民の女の子より、貴族子女の方がそこそこ現実的らしいよ? 結婚にあんまり夢を抱いてないって、おばあ様が言ってたし・・・あ、そう言えば、どうせ政略結婚が決まっているからって、学生の間に羽目を外して遊び捲るような女には気を付けなさいって言われてたの思い出した!」
そっかぁ・・・なんかぞっとする感じの流し目は、そういう意味か。
あれ? でも、そういう女子生徒達ばかりでもないような気もするけど・・・?
「お嬢様のイメージっ!?」
なにやら深くダメージを受けている様子のテッド。
「あ、なんかごめん」
「早目に現実が判ってよかったのではないか?」
「あ~、ハイハイ、そーですね。チクショー」
レザンの言葉に返るのは、なんとも不貞腐れた返事。
「それで、これからどうすんだ? 乗馬でも行くか? 俺は今、走るかヤケ食いの気分だ」
と、テッドが指したのは馬場。どうやら、近くまで来ていたようだ。
どうしようかと思ったら、
「いい加減にしてください」
と聞き覚えのある落ち着いた声が聞こえて来た。
「? なあ、この声って副部長の声なんじゃね?」
「そうだね」
多分、セルビア嬢の声だと思う。
そして、
「いい加減素直になるのは君の方だと思うが? 本当は誘われて嬉しいクセに」
男の声も聞こえて来た。
「なーんか、勘違い野郎っぽいセリフもするな? よし、見に行ってみようぜ!」
「ちょっ、テッド!」
わくわく顔で歩いて行くテッドの後を追うと、
「ですから、それはあなたの勘違いです。いい加減、もう彼女を誘うのをやめてください。迷惑していると言っているのですから」
「だからそれは、俺の気を引く為の駆け引きだろ? それに、いい加減にするのはあなたの方だ。俺と彼女の問題に口出しするのは、もうやめてくれないか。不愉快だ」
「ですからそれは、あなたに誘われて迷惑していて断りたいのに、あなたがしつこくて困っていると、彼女から相談を受けたからです」
なにやら、男子の強引なお誘いに迷惑している女子生徒がいて、セルビア嬢がその間に入ってどうのこうの……という話らしい。声がちょっと大きくなって来ている。
「だからっ、それが彼女の駆け引きだと言っているだろうが! 俺の気を引きたいからそう言っているだけで、君に相談した手前、嫌がっている振りをしているんだよ!」
苛立ったような男の声がする。
「おー、おー、びっくりするぐらいすっげー勘違い野郎だな? ちょっと顔見てみたくね?」
勘違いというか……自分の都合のいいように曲解する、なんとも厄介な男のようだ。
「顔というか、この手の男はなにをするかわからんからな。様子は見ていた方がいいかもしれん。早まったことをしなければいいが……」
野次馬根性丸出しのテッドに、鋭い目付きで声の方を見やるレザン。
凛とした態度のセルビア嬢と、その後ろに隠れるようにして不安そうな顔をしている女子。そして、イラ付いた顔で二人を睨む男子生徒がいた。
「君の方こそ、誘って来る奴がいなくて彼女に嫉妬しているんじゃないのか? だから俺達の邪魔をするんだろ! 弟に次期当主の座を追われて婚約解消された男勝りの女なんか、誰も相手にしないからな!」
「わたしの事情は関係ありません。彼女は、あなたの行為に迷惑していて、付きまとうのをやめてほしいと主張しているだけです。平民女性だからと、誰もが貴族とお近付きになることを喜ぶと思っているなら、とんだ勘違いです」
「煩い黙れっ!!」
嘲るような声に、冷静に返す声。その言葉に、激昂したような声がした。
「危ないかもしれん!」
読んでくださり、ありがとうございました。
実は、脳筋共によく追われていたから、変態があまり近寄れなかったという……(笑)




