表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い  作者: 月白ヤトヒコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/429

毎日が、とても楽しかった。

 誤字直しました。ありがとうございました。

 スピカを膝に抱っこして、絵本を読んであげているときのことだった。


 小さな手が絵本の挿し絵を指差して、


「ねえさま、このごほんみたいなおはなばたけにいってみたいです。おはなでいっぱいのおはなばたけ。ねえさまはみたことありますか?」


 って、言われたときには――――


 一面のピンクと白の芝桜(モスフロックス)が脳裏に浮かんで……ちょ~っと花畑に置き去りにされたことを思い出して一瞬遠い目でナーバスになり掛けたけど、


「すぴか、ねえさまといっしょにおはなばたけみたいです」


 そんな風に、きらきらとした期待感満載の笑顔で言われたらもうっ……断れないよねっ!?


 よし、行こう。と秒で決めた。


 そしてわたしは、スピカを絶対に置き去りにしないと固く誓って、ロイも誘って一緒にポニーで近くの花畑に出掛けることにした。


 両親と違って、クロシェン家の人達がわたしを置き去りにすることはない……筈。

 そう、思ってはいる。思ってはいても……馬車で行くのはなんだか少し抵抗があるから、乗馬がいいとお願いして。


 すると、さすがに子供三人だけはまずいからと、トルナードさんが一緒に花畑に行ってくれることになった。

 そのときの行き帰りにスピカを乗せるのは、トルナードさんに決定した。というか、


「スピカの乗馬で初お出掛けは絶対に譲らないからな! ほら、子供の二人乗りは危険だし」


 とのこと。まぁ、確かに、危険なのはわかりますけど。それよりもトルナードさんは、スピカとの二人乗りの一番権利を、誰にも譲りたくないんですよね……?


 そんなやり取りがあって、数日後。


 四人で馬とポニーを駆り、向かったのは――――


 赤と白のポピーが咲き誇り、その合間に背の低い他の花がちらほらと見え隠れしている花畑。


 花畑(・・)に来るまでは、少し不安だったけど……綺麗だなぁと、素直に思えた。


 ポピーの花畑に降り、


「おはないっぱい、きれー!!」


 と、興奮して顔を真っ赤にして喜んでいたスピカは、実に可愛かった。


 花畑を駆け回るスピカを見失ってしまわないようにロイと二人で追い掛けて、お腹が空いたら四人でお弁当を食べて。


 それから少ししたらスピカが花を摘み出して、


「おかあさまと、おるすばんのみんなにおみやげです。おとうさまもにいさまも、みてないでてつだってください」


 と、みんなでたくさん花を摘んだりして――――


 一頻(ひとしき)り花を堪能したスピカが落ち着くと、トルナードさんに、


「スピカを乗せてみるか?」


 と聞かれたので、頷いた。


 トルナードさんの前でスピカを抱っこしてポニーに上げて、わたしもその後ろに乗って、スピカを支えながら(しばら)くポニーを歩かせてみて、危なげないとお墨付きをちゃんともらってから、次回からスピカを乗せてもいいとOKしてもらった。


 トルナードさんから、もしも落としたら、わかってるよな? 的な威圧的な笑顔を向けられたけど、もちろんスピカはわたしが落馬してでも死守しますとも。スピカは絶対に落としません!


 ロイも同じようにしてスピカをのせることをトルナードさんにOKをもらって、近隣なら三人で出掛けてもいいと了承をもらった。


 摘んだ花は、家に帰る頃には萎れてしまっていて、


「おかあさま。さっきまで、おはなさんげんきできれいだったの。しおしおでごめんなさい」


 と、スピカはしょんぼりしながら握った花をミモザさんへ渡していた。

 その姿にトルナードさんはおろおろ。ミモザさんは苦笑して、けれど……


「ありがとう、スピカ」


 と嬉しそうに花を受け取っていた。


 そして、今度はミモザさんも一緒に五人で(・・・)ピクニックに行こうと決定した。


♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘⚔♞⚔♘


 それから、スピカをポニーに乗せたわたし達の行動半径が少し広がった。


 クロシェン家の近隣を、三人であちこち散策した。


 それにも慣れて来ると、もう少し遠出が許されるようになった。


 ロイとスピカとわたしの三人だったり、トルナードさんとミモザさんも一緒に五人で出掛けたり……


 お弁当を持って、クロシェン家から少し離れた場所の景色の綺麗な湖だったり、ベリーの採れる森、一面のクローバー畑、ポピー畑、牧場、街へ出たり、クロシェン領の視察へ連れて行ってもらったり、ただただ遠くまでポニーを走らせるだけだったり。


 いつの間にかわたしは、馬車で(・・・)出掛ける(・・・・)ことにも抵抗が薄れて、段々と平気になっていることに気が付いた。


 毎日が、とても楽しかった。


 トルナードさんもミモザさんも優しくて、ロイとスピカがいて、そこにわたしが入ってもみんな笑顔で、家族みたいに過ごせて――――


 でも、そんな楽しい日々は終わりを告げた。


 『ネイサンはこちらの学校に通わせるので、迎えを遣ります。長期に渡りネイサンをお預かりくださり、感謝します。お世話になりました』という、両親からの手紙で。


 嫌だった。


 帰りたくなんてなかった。


 スピカと、ロイと、ミモザさんと、トルナードさん達と、離れるのが酷く寂しかった。


 ロイは、またわたしのために怒ってくれた。


 ミモザさんもトルナードさんも難しい顔をして、


「辛かったら、お祖父様とおばあ様を頼るんだよ」


 と、わたしに約束させた。


 そして、帰るまであと何日と指折り数えて、クロシェン一家と過ごして――――


**********


 その日。


 わたしは朝早く起きて、


「ごめんね。帰らないと、いけないんだって」


 と、まだ眠っているスピカのおでこにキスを落とした。そっと亜麻色の髪を撫でて……


 それから、クロシェン家を出た。


 スピカの泣く顔は、見たくなかったから。


 ロイはすごくふてくされた顔で、


「元気でな、ネイサン。絶対また来いよ!」


 そう言ってくれた。


 でも、わたしは頷けなくて……


 ミモザさんとトルナードさんは、心配そうな顔でわたしを見送ってくれた。


 迎えに来た馬車の座席は、やっぱり空っぽ。


 荷物とお土産を積み込んでもらって、こちらへ来るとき同様。わたし一人で座席に乗った。


 実家を出るときには、あんまり寂しいとは思わなかったのになぁ。


 まさか実家へ帰るときになって、こんなにも寂しい思いをするだなんて――――


 全然、思いもしなかった。


 スピカ、泣いてないといいんだけど……と思いながら、持たされたサンドウィッチを噛った。わたしの好きな物ばかり入っていて、美味しい筈なのに、どこか味気なく感じる。


 久々の一人の時間が、なんだかとても長く感じた。

 読んでくださり、ありがとうございました。


 ポピーの花は、30~40センチ程の高さになるそうで、小さな子がしゃがむと隠れてしまうかもしれませんね。


 そして、お家へ帰るので次回からまたシリアスになります。暫くはほのぼのがなさそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ