6.家文
朝日が差し込んだ朝。朝食を用意する美琴と文竜。湯呑に入れたお茶を飲みつつ、話し込む文竜の祖父である家文と美歌。
家に家文がいなかったのは、街の異変に気付き、文竜達を迎えに学校へ探しに行ったが、既に文竜達はマンションに向かっていた。学校を探していなかったことを確認した家文はその後、美歌たちのマンションまで行った。しかし、炎に巻かれてほとんど原型をとどめていない建物を見てしまったのだった。
その時、家文は孫達の最後を一瞬だけ想像してしまったが、希望を諦めずに、家に帰ってきたのだという。
「まさか、じいさんがそんなに探してくれるとは思ってなかったぜ。この家でどっしりと構えてるって思ってたんだけどなぁ」
呑気にそう言う美歌の頭を軽く叩く家文。
「バカか。何かあれば、迎えに行くつってるだろうが。‥‥しかしまぁ、あのまま学校に留まらなくて良かったな。俺が探しに行った時には、酷い有様だったからな」
「ふぅん。こんなことになるとは思わなかったぜ。んで、じいさんも能力あんだろ?」
「俺のはなぁ」
家文は口を閉じてしまった。言うかどうか迷っているのだ。孫達の負担にはなりたくないが、文竜についてるおしゃべりが、余計なことを吹き込む可能性もある。
そう考えてはぁ、と息を吐き口を開いた。
「まぁ秘密にしていても仕方がないか。俺には、代価の能力がある」
「だいかぁ?」
「やって見せれば分かるか」
家文は親指の皮を噛みちぎり、そして反対の手で押し出して、血がでやすいようにした。血がぷっくりと球体のような形を作った。その球体は、すぐにかさぶたのような塊になり、床に流れ落ちた。トンと畳の上に硬いものが落ちる音がする。
家文はそれを拾い上げ、テーブルの上に置き、美歌に見せた。
「ヒマワリの種?」
「こういうことだ」
「はぁ?」
家文はそれ以上何も言わなかった。
最初は血が植物の種になるだけかと思ったが、それだと、代価とは言わない。美歌は何回か往復しながら種と家文の指を見て、思いついた。それはきっと種だけに限らない、と。
「つまりは、ジイさんの何かを引き換えに別の物を手に入れる事が出来るってこと、か?」
「正解だ」
「それって、トレードとかじゃねぇの」
「横文字はわからん」
「代価だと、なんかこう、嫌な感じすんだけど」
「俺はピッタリだと思ってる」
美歌は手のひらを上に向けてワキワキと動かした。しかし、家文は自分の意思を貫き、能力の名前を変えるつもりは無いようだ。




