4.文竜の家
最初に降りるのは、美歌。次は美琴。最後は文竜だ。1階ずつ、慎重に。
ベランダから見える部屋達は荒らされていたり、血まみれになっていたり、とひどいものだった。しかし、3人が見た限りでは、死体は無く、火の手も上がっていなかった。そのお陰で、取り乱すこと無く下まで降りることが出来た。
3人が無事にたどり着いて、それぞれにホッと息を吐く。
「これからどうする」
「俺んちに行こう」
美歌の言葉に、文竜は答える。美琴は、徐々に燃え上がっていくマンションに口を押さえて震える。そんな美琴の肩を抱いて歩き出す美歌。
「美琴、行こう」
「うん」
美琴は感情を押さえきれず、涙が零れる。文竜も名残惜しそうに、振り向く。
「文竜、行くぞ」
名前を呼ばれて、文竜は慌てて追いかけた。いつだって、背中を押すのは美歌の役目だった。
「仕方があるまい。索敵は私がしよう。ふふっ私の可愛い弟の為だからな」
「ありがとう、ねぇさん」
口の端を吊り上げて、舞利は上空に飛び立つ。彼女のお陰で、道中、何事も無く文竜の家についた。
「ふむ、家には誰もいないな」
「じいちゃんもか?」
「あぁ」
文竜はドキドキしながら、玄関を引く。古い玄関がカラカラと音を立てて開いた。文竜がそっと家の中を覗くと、中は暗く、シンとしていた。
表情が暗い文竜に声をかける美歌。
「どうした?」
「じいちゃんがいないんだって」
「じいさんが?」
「おじいさんが!?」
予想していなかった事に2人は驚き、声をあげた。
「うん。でも、取り合えず、上がって」
文竜はパチリとスイッチで電気をつけて2人を家の中に入れ、玄関を閉める。廊下は歩く度にギシギシと鳴った。美歌達は勝手知ったるといわんばかりに、文竜の部屋を目指す。
文竜の部屋のふすまを開けた。部屋には勉強机やパジャマ、漫画、布団が散らかっていた。隅には文竜の飼っているペットである蜥蜴がいた。
「あいっっっ変わらずきったねぇな」
「もう、文ちゃんは····」
見た瞬間に美歌はげっそりと嫌な顔をして、美琴はてきぱきと片付け始める。文竜はあははと目を反らす。
双子が部屋を掃除して、文竜はペットに餌を上げる。部屋を綺麗にすると、客間から布団を持ってきて敷く。
「今日はもう寝ようぜ。話は明日にしよう」
「うん、そうしよう」
掃除をした双子はもう体力が尽きかけていた。文竜もそれに同意してペットの蜥蜴に「おやすみ」と言って布団に入った。
寝静まった部屋で舞利がクスクスと笑った。
「はてさて、明日になったらどうなることやら」
蜥蜴の入ったケースをツンツンとつついた。透明な彼女は触ることは出来ないけれど。