2.あべこべ
制服から私服に着替えた三人。
美琴は、スカートに見えるようなガウチョパンツを履き、長袖のTシャツを着ている。美歌は、小さくなったが着れなくはない中学のジャージを着ていた。文竜は、泊まりの為に常備してある灰色のスエットを着ている。
美歌はソファの半分を占領しぐでっと座って、リモコンでテレビのチャンネルを回す。
使命感があるニュースキャスターが必死で混乱を起こさないように呼び掛けていたり、砂嵐だったり、ただ混乱する現場を写すだけだったり、どれを回しても通常では考えられないような異常な映像だった。
呆れた美歌はテレビをオフにして、リモコンを放り投げた。
「どこもつまんねぇ」
「そうだろうね」
床に敷かれた絨毯の上に座っている文竜はその言葉に同意して頷く。
「まぁ、学校に行かなくてすむのはラッキーだな」
ふぁと美歌はアクビをする。
「でも、なんか怖いね」
美歌の反対側に座る美琴は、未だにこの事態を受けられないようだった。ぎゅっと自分の服を握る。その様子に文竜は何を言って分からず、美歌は横目で見ていた。
「あ、喉乾いた。なんか持ってきて」
美歌は、近くに座ってる文竜を軽く蹴った。
「えぇー?何様?」
「ちょっと、なんで美歌ちゃんはそう偉そうなの?文ちゃんは座ってていいからね。私が持ってくるから」
そう言って美琴は立ち上がってキッチンに向かう。
さっきの言葉は美歌なりに美琴の気をそらすためのものだった。文竜は美歌の不器用な行動に苦笑する。それに気づいた美歌はもう一度、今度は何も言わずに文竜を蹴る。
「いてっ」
あまり力の入って蹴りに文竜は、反射的に口から出た。それに反応する美歌は、キッチンから「こら!」と美琴に怒っていた。
「文ちゃんも何か飲む?」
「うん。お願い」
「んー、美歌ちゃんと同じで良い?」
「うん」
カランと氷の音が文竜達の元まで聞こえる。
会話がなくなり静まった部屋に
ドンっ
と地鳴りのような大きな音と振動が襲った。
「きゃぁ!」
それに驚いた美琴は悲鳴を上げ、グラスを落としてしまう。その音に、文竜はキッチンまで駆け寄り美琴に声をかける。
「大丈夫!?」
「う、うん」
不安そうに返事をする美琴。文竜は割れたグラスにの近くにしゃがむ。
「俺が片すから、美歌ちゃんのところに居て良いよ」
「ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
後ろから二人にやり取りをじっと見ていた美歌は
「ちょっと待て。俺が片付ける」
と、文竜が割れたグラスの破片を集めようとするのを止める。
「え、でも危ないから俺がやるよ」
「いや、やってみたいことがあるから、片付けんな」
命令口調でいわれれば、文竜は美歌に逆らえない。
美歌はガラスの破片の中で一番大きな物を掴み、躊躇なく握った。
「美歌ちゃん!?」
「ちょっ、何してんだよ!」
二人の驚きの声を美歌は気にせず、そのまま力を込める。
「ん、やっぱりか」
そう呟いて、二人に手のひらを見せる。
「安心しろ。怪我はねぇ。」
「本当だ····」
文竜は綺麗な手のひらをまじまじと見つめる。
「俺の能力の条件を考えてたんだ」
美歌は淡々と自分の考えを話す。
「消えろと思うだけじゃソファもリモコンも消えなかった。じゃあ、なんで車は消えたのか。あの時の状況を思い返してみて、思い当たることがあった。もしかしたら、俺が命の危機に陥ることが条件じゃないのか、と。どこからどこまでが命の危機に該当するのかわからねぇから、とりあえず握ってみた。案外、条件が緩くて、俺が怪我する可能性だけで十分だったみたいだな」
何てことないように話す美歌に文竜は怒る。
「試してたのかよ!本当に怪我してたらどうすんだよ!」
「どうするもこうするも、怪我してないからいいだろ」
怪我していない手のひらをヒラヒラと振ってみせる。
「····か」
俯いていた美歌が呟く。
文竜は、ん?と聞き返すが、美琴はヤバと内心焦る。
「バカじゃないの!何が命の危機よ!何が条件よ!とりあえずって何なのよ!」
顔を上げて美歌に怒鳴る美琴の目からはポロポロと涙を流していた。
「バカ!バカ!バカ!!実験みたいな、そんなことしないで!もう私が片付けるから二人はあっち行って!」
キッチンから追い出された二人。文竜はそういえばと思い出す。キャパオーバーした美琴は泣きながら怒るんだっけと。それから、美琴が怪我をしないかと心配していた。美歌は少し面倒臭く思うも、どう機嫌を直すか考えていた。
喧しい状況に文竜の姉はクスクスと笑っていた。