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016

「もう呟かないで、こっちこいよ」


「これが二斗が攻撃したからじゃないか。君も痛いことを知るのに、私に攻撃を加えるなんて」


ロンロンと俺は不平を鳴らしながら近くの草原に来た。かなり広い平野のような地形に点々と木があった。緑と黄色の中のような色を帯びたこの地域は、広々とした魅力を誇っていた。草原らしく、草木の背は低く、隠れるところはあまりなかった。今日の狩りをするモンスターは隠れる必要性がないが。


「あそこに見えるのがツリーバードだよね。言葉だけで聞いたけど、実際に見るのは初めてだな。結構大きいな。俺達の背は比較もできないね」


俺が指差した草原の向こうには、巨大な鳥が群れをなして歩いていた。確かにダチョウに似た姿だった。色や、その姿に違いを十分に感じることができたけど。


俺達は、俺の魔法の修行も兼ねて、月と槌でもらったツリーバード狩りの依頼でここに来た。聞くと、今日のツリーバードの肉の供給に支障が生じたので、不足分を俺達に頼んだのだ。普段お世話になったこともあるし、ちょうど回復魔法の修練をしなければならない状況だったので喜んで受け入れた。


「それで、俺達はどんな方法でツリーバード狩りをするんだ。今朝、いいアイデアが浮かんだといって、任せてくれと言ったのはお前だろ」


俺はロンロンを見つめながら尋ねた。馬鹿なこいつに任せていいわけはなかったが、俺も当然いい方法を思いついたわけではないので、信じてみることにしたのだった。


「すごいのだから、信じていいのだ」


「むしろその発言が不安だ。狩りといっても、俺達は非戦闘人しかいない。俺は回復魔法を使うし、お前は完全に料理人だろ」


「料理人じゃない!召喚師だ!」


「そうだ!お前、召喚師だろ。一度も召喚を見たことがないから忘れてしまった。それなら狩りは解決したわけだね。お前のドラゴンがあれば、ツリーバード如きは一網打尽というわけだから」


「そ…そ…そういうものだ。狩りは心配するな。それに、これでも私は剣術を学んだ身だ。剣をかなり使うのだ」


どもるのがちょっと怪しいんだけど。一旦はやり過ごすことにしよう。剣術も使えるというから、一応、自分の身を守り、ツリーバード狩りをする程度にはなるはずだ。


「そして、私が考えた作戦はツリーバードを狩りをするだけではない。むしろ、狩りはおまけなものといえる」


「そりゃそうだ。今日の目的はそれもあるけど、俺の回復魔法の訓練が一番だから」


「そうなのだ。狩りと訓練を同時にできる、すごいアイデアを考え出したのだ。自分で考えても、私は賢いのだ」


後で聞くことにしよう。あんなに自信満々なうちはどんなことが起こるか分からないものだ。たかだか回復魔法の訓練なのに、大変なことは起こらないだろうが。


基本的に魔法の訓練というのは熟練度を上げることだそうだ。勉強を続けると成績が上がり、筋トレをすると筋肉が成長するように、魔法を使い続けると魔法の性能とマナを操る実力が伸びるという。今日の訓練はどれほど魔法の熟練度を早く成長させるかにある。ひとまず、何とかマナに対する基礎訓練は一週間という短期間で終えることができた。欲張りのようだが、回復魔法の性能向上も早くできればいいと思っていたところだった。どうすればいいか悩んでいたけど。


回復魔法という特性の上、誰かを回復させなければならないからだ。言い換えれば、誰かが怪我をしなければ魔法の性能を上げられないのだ。俺の場合は、他人じゃなくて俺が怪我しないとだめだが。自害でもすべきか悩む瞬間だった。


「一応、二斗、こっちに立つのだ」


ロンロンがそう言って指したのは近くにあった木だった。ほとんどが低い草むらがあるここで、存在感をアピールしていた。そんなに高い木ではなかったが。俺は何も言わずにおとなしく指示に従った。


「今日はいい子じゃないか。その方がいいから文句を言うつもりはないが。ここまでやれば、準備はほぼ終わったことだ」


ロンロンは鞄をかき回し始めた。普段から持ち歩いている鞄だが、今日に限って何が入ったのか気になった。いくらロンロンだとしても、常識から外れることを持ち歩くとは思わない。だが、ロンロンが鞄から取り出したのは綱だった。先ほど思ったことを撤回する。こいつは常識人じゃない。


「ロンロン、ひょっとしてと思って聞くんだけど、どうしてロープを出すんだい。この状況に綱が出てくる理由なんてあまり見えないけどね。あ、そういうことか。ロンロン、カウボーイの真似をしたかったんだ。それなら、次にした方がいいと思うよ。どんな憧れを抱いているかは知らないけど、綱で罠を作って首にかけるのは難しいことだから」


俺はローブを持って近づいてくるロンロンに言った。冗談半分で言っただけだが、万が一の場合もある。ロンロンはロマンという言葉が弱いから。


「君はまた何を言っているのだ。そんなはずがないじゃないか。そもそもカウボーイは何だ。綱で罠を作って首にかけるなんて。それは完全に絞首刑ではないか。いくら私でも絞首刑をする趣味はないのだ」


幸い勘違いだった。ロンロンは無茶なやつだけど、カウボーイの夢を持っていたわけではない。でも、そうすると解決すべき疑問が残る。ロンロンが綱を持ってきた理由は……


「二斗、動くな。縛り難いのだ」


持ってきた綱をほどいて俺を縛っていた。かなり厚い木の柱に俺の体をとめていた。ロープを何周かまけば巻くほど、木と俺は一体化し、動くのが難しくなった。ロンロンに作戦を任せると言っていたけど、本当にこのままで大丈夫なのだろうか。不安が大きくなり始めた。


「ロンロン、お前に任せると言ったのが俺だから黙っているんだけど。これ、本当に考えがあるんだよね」


「ツツツ。二斗も私の計画を聞けば賛成するに違いない。私を天才だと称えるかもしれないほどだ」


今思えば、ロンロンがこの話をしたとき、やめさせるべきだったかもしれない。ロンロンが自分を煽てる状況で何かがうまくできたことがないと思い起こすべきだった。結果的に俺の魔法の性能を向上させるという点では、過程がどうであれ、成功したという結末ではあるが。それでも失ったものが多すぎて、傷が大きかった。文字通り、結果だけ良かった。


ロンロンの意図について考えているうちに、ロンロンはロープを締め切ったようだった。試しに何度か体を揺らしてみたが、ほとんど動じなかった。かなりしっかりと結んだようだった。


「これで終わりだ。見て驚かないようにするのだ」


そしてロンロンがまた鞄から出してきたのは桶だった。桶を持って俺の方にそよそよ寄ってきた。


「これくらいすれば、二斗でも気がついたんじゃないか」


「ごめん、全然わからないから。魔法の訓練とツリーバード狩りをするのに、どうして俺は木に縛られ、お前は意味不明の桶を持っているのか全然わからないから。無知な俺には説明が必要なようだけど」


「がっかりだ、二斗。必要な物は全部そろったのに。馬鹿な二斗のために私が説明してあげるのだ」


説明すると言ったくせに、体が先に動くロンロンだった。桶のふたを開け、しゃくしをその中に入れた。それから数回ふらついた後、しゃくしを取り出した。しゃくしからは蜂蜜のような液体が粘性を帯びてゆっくりとこぼれた。すぐに続くロンロンの行動は蜂蜜を俺の体につけるということだった。


「何やってんだ!説明をすると言ったんだろ。一体、俺の体に正体不明の液体を塗る理由は何だ」


「百聞は一見にしかずと言うんだろ。説明は、仕事を処理しながら説明すればいいのだ」


そんな話とともに、奇妙な液体は俺の全身に塗られ始めた。服の向こうだったが、べたつくのが気持ち悪かった。


「これは蜂蜜の木と呼ばれる植物の樹液だ。本当の蜂蜜とは少し違うが、似たようなものだ。聞くと、蜂蜜とは異なる独特の味が中毒性があるという。そして、これはツリーバードが好きな珍味なのだ。ツリーバードは蜂蜜の木の樹液を食べるために木をくちばしでつついて傷をつけ、そこにくちばしを刺して樹液を食べるという」


「つまり、俺が蜂蜜の木の代わりだと言うこと」


「そういうことだ!」


「そして、しばらくすると俺が放つ蜂蜜の木の匂いに引かれたツリーバードがこっちに近づいてきて俺をついばむんだと言うこと」


「そうだ。よく知っているじゃないか。あのツリーバードの群れが二斗に近づいてきたら、二斗は回復魔法を使って体を修復させればいいのだ。ものすごい量だから回復魔法の熟練度も大幅に上がるに違いない。そしてその間に、私は二斗が十分に魔法を使ったと思えば、ツリーバード狩りをするのだ。これで狩りと魔法の修練を同時に行う秘技が完成するのだ」


「ふざけるな!」


鼻歌を口ずさみながら桶としゃくしを片ずけようとするロンロンに叫んだ。桶にあった樹液を頭から足指先までごしごしと塗られたせいで、視界もぼやけて、全身が膜で覆われた感じだった。


「じゃ、二斗、はじめるのだ」


「じゃ、じゃないだろ!俺の話は聞いたのかよ!この状態で始めたら俺、きっと死ぬんだから!早く解け!これ、解けない。しっかり縛っておいたじゃん!ロンロン!ロンロン!」


「解けないようにしっかり縛っておいたから安心するのだ」


「安心するわけないだろ!変な感じだよ。服と体が濡れて。完全に捕まったヒロインみたいじゃないか、これ」


けれども俺の言葉を無視して、ロンロンは振り返って俺に言った。


「もう少しだけ待つのだ。すぐにツリーバードの群れを呼んでくる」


「ロンロン!呪うぞ!ロンロン!」


俺の言葉を背後にして草原を越えて走っていくロンロンの姿がぼんやりと目に映った。

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