010
「ツリーバードの羽焼き二つとビール二つ!」
そろそろ席を立つつもりだった、キャシーは盛り上がる最中なのか追加注文をしていた。指二本を上げてアピールしていた。店員さんは無言で笑いながら注文を受けていったが。
「私の偉大な脱出はここまでだ。そして脱出に成功した私はこの町に来て冒険者としての旅路を始めたのだ。すごい召喚師になって名を広げたのだ」
「そうか、家出少女。そうだな、親不孝女」
「どうしてまだ家出少女と呼ぶのだ。それに自然に追加されたものもあるんじゃないか。私はキャシーって呼べ!」
「そうですよ。キャシーさんはキャシーさんです。こちら、注文したツリーバードの羽焼き二つとビール二つです」
急に出てきた店員さんはそれだけ言って帰った。神出鬼没の人だった。何か料理がすごく早く出たような気がしたが気にしないことにした。
相変わらずもやもやと湯気を立てながら存在感を誇示しているツリーバードの羽焼きと、新たに登場したビールが目の前にあった。こんなに自然にビールを飲むとは。泡が表面で踊っている、見るからにすがすがしいビールを見つめながら、俺はもう一歩、憧れた冒険者の生活の現実に近づいた。
「クアア」
キャシーと俺はビールを飲み干して同時に嘆声を吐き出した。
「やっぱり冒険者だとしたら、これじゃないか」
「お前とは珍しく気が合うな。まさにこれが冒険者だ!」
俺達は意気投合して乾杯した。ビールを一口飲み、ツリーバードの羽焼きを口いっぱいに詰め込むキャシーの口元はつやつやしていた。
「じゃあ、俺達はこれで仲間なんだな。
俺はキャシーのように肉をかじって言った。
「うーん、冒険者の仲間ならそうだが、同じパーティーではないじゃないか」
返事は全く予想外だった。最近は予想を裏切るのが流行っているのだろうか。
「何で。今まですごくいい雰囲気だったじゃないか。裏切るまでもなく同じパーティーメンバーだと思った。それに俺は名目上お前の奴隷だろ。お前は奴隷を捨てるつもりか」
「先ほどまでも非常に奴隷であることを嫌っていたではないか。本当に有利な時だけ言葉を変える男だ。もちろん君の言うとおりに、君は奴隷だけど、好き放題にしてあげるつもりだった。その考えは文字通り、その状況を脱出するための僥倖だったからだ。別にお前と私はそんな関係じゃないのだ」
もっと現実的なことを言い出した。初めて会ったヒロインなのに!変だけどそれなりにフラグを立ったヒロインだったのに!キャシーの口から関係がないというようなことが聞こえた。キャシーの冒険者としての能力を考えると、ここでキャシーにつくのが将来のためにも有用だろうに。無能に近い自らを思えば、一刻も早く能力のあるパーティーメンバーを得ることが最良だった。
「キャシー、俺の国では袖擂り合うも多生の縁と言う言葉がある。袖どころか、主人と奴隷という関係で結ばれた俺達は、非常に固い関係ではないか」
「何か変な人みたいだからそんな言い方はよせ。袖よりひどいものを見たことはあるが」
「そのことについてはもう話さないで!」
これ以上の恥じは防がなければならなかった。
「一人を生かせると思って助けてくれ。俺はまだ冒険者の登録もしていない」
「まだ冒険者の登録さえしていないのか!冒険者でもなかったじゃないか。これはいくら私だとしても受け入れにくいのではないかと思うのだが」
「キャシー。いや、キャシーさん、キャシー様、どうか俺をパーティーに入れてください! 捨てないでください!」
泣きついている俺がいた。キャシーの下でキャシーの足をつかまえた。
「や、やめるのだ。他の人たちが変な目で見ているんじゃないか。しかもそこはスカートだ。キャーッ!どこに頭を突っ込むんだ!紛れな透をみて変なことを!」
キャシーはスカートの中に潜り込もうとする俺の頭を激しく殴った。集中的な打撃に危うく頭を抜くところだったが、諦めなかった。
「どうしてこんな時だけしつこいのだ。分かった。パーティーメンバーに入れてあげるから、もうやめるのだ。スカートの中でもぞもぞするのはよせ」
「本当に」
俺は頭を抜けて言った。
「本当だ。無駄な行動ばかり速い男だな」
キャシーはスカートをつかんで俺を汚物を見ているような目で見た。悪口を言われるようなことをしたけど、いくらなんでもそんな目は俺でも傷つく。
「やった!パーティーメンバーを得た!」
俺は歓声を上げて自分の席に戻った。ビールを振り上げながらキャシーに乾杯を誘った。キャシーは嫌々乾杯をしてもらったが、ビールを飲んでいたときだけは気持ちよさそうだった。どんな大変なことがあっても肉とビール一杯で払いのける一日の終わり。これがまさに冒険者だった。
「そろそろ立ち上がろうか」
「ちょうどそうするところだったのだ。ビールも飲み終わったし、肉も食べ終わったのだ」
「まさか、いまさら買ってくれるお金がないといって、俺に勘定を勧めるのではないだろう。言うが、俺は天下一の無一文だ。一文も手にない」
「そんなことを自慢げに言うな。そして言ったではないか。今回は私がおごるのだ。これでも貴族だ。二枚舌ではない」
俺とキャシーはカウンターにゆっくりと歩いて行った。そしてキャシーは自然と鞄から財布を出して……。キャシーが止まった。止まっただけでなく、何か鞄の中をひっかき回していた。
「どうした。そんないたずらは面白くない。今日はエイプリルフールでもないって。急に財布がないと言っても全然驚かないから無駄だよ。妙な計算で勘定をさせても、本当に俺は一文無しだから。やりたくてもお金が出せないから」
「だからそうではないと言ったじゃないか!どれほど被害妄想にとらわれているのだ。それより大変だ。本当に財布が消えた。どこから落としたのか。それともスリかもしれない」
キャシーは真顔で言った。鞄の中を探す手が忙しくなった。店員さんはうつろな笑みで俺達を眺めていた。
「うそでしょ。うそだと言ってくれ。このままだと本当に食い逃げになってしまうよ」
「私も嘘だったらいいのだ。本当に見えない」
キャシーもほとんど泣きべそをかいていた。
「警備兵から逃れたと思ったら、再び警備兵との出会いか。仲良く監獄行きだなんて。お尻も見えた警備兵なのに」
諦めた時、俺は「尻」という言葉に何かを感じた。お尻と関係のある何かがあったようだが。この状況を打開する何かがお尻にあったようだが。そうして、やがてそれの存在を思い出した俺は笑い出した。
「どうしたのだ。本当に気がおかしくなったのか」
「お前を敬拝しろと言ったな。その言葉を返す。俺を敬拝しろ、キャシー。俺にお金があった!」
俺は噴水からポケットに突っ込んでいた小銭の存在を思い出した。ポケットを手探りすると、依然としてその感触が感じられた。
「もっと早く話せ。二斗、早くお金を出すのだ」
キャシーの期待に満ちた目を見つめながら、俺は小銭を取り出した。小銭に店の照明がさして光を放っていた。
「申し訳ありませんが、それでは全然たりません」
しかし、俺に返ってきたのは店員さんの期待に反する答えだった。店員さんの顔には戸惑いがこもっていた。
「それは『一ダニア』じゃないか。そんなものでは道端の駄菓子も買えないのだ。たかだかそんな金で一体何をしようとしたんだ。期待した私は馬鹿みたいだった」
「同じ無一文にだけは言われたくない!これがそんなに安い物か。大きさも小銭の中では一番大きかったのに」
明らかに噴水にあった銅貨の中には最も大きいものを残っていた。普通、大きなものが一番価値あるものだから。
「逆だ。小銭は小さいほど高いものだ」
どうしてそんなに紛れ易く作ったんだよ。普通は大きい方がもっと高いと思うじゃないか。多ければ多いほどいいので、大きければ大きいほどいいのではないのか。男たちのロマンが巨大ロボットであるかのように。もはやこのような考えから脱する時が来たのか。舌切り雀に出た箱を選ぶのと同じだったのか。きっとお爺さんは小さな箱を選んで宝物を得た。今回のことを教えにすべきなのか。
「こうなったら状況は全く同じだろ。少しも進んでいない。お前も無一文のままで、俺も無一文に違いない」
俺は無駄になった小銭を見つめた。さっきまでは、あんなに輝いてたのに。もはやいかなる光彩も放つことができなかった。
「ちょっと待って、お前、家でお金になりそうなものを持ってきたじゃないか。さっきそう言ったでしょ。それを持ってくればいいだろ」
俺はふと思い出した盗品の存在を思い出してキャシーに言った。どうしても無理なら、代物替えでもすればいいはずだった。
「それが、できないのだ」
「持って来られないという意味か。俺がここに残るから持って来ればいいじゃないか」
「そういう意味ではないのだ。すでに全部使ってしまったのだ。かなり多くのお金ではあったが、全部使ってしまった」
「お前はここに来て三か月しか経っていないと言っただろ。その間に一体どれだけ浪費をしたんだ。貴族のように生活したのかよ」
「そんなはずがないじゃないか。事情があるのだ」
そっちも問えない事情で出たのか。
「それでもお金は受けるかもしれない。先日も金を受け取ったのだ。今回も連絡すればお金をくれるかもしれない」
お金をもらうって。不吉な予感がした。どこが連絡さえすればお金をくれるというのか。怪しいにおいがぷつぷつ漂っていた。
「いったいどこが連絡すればお金がもらえるというんだ」
「村に広告がいたのだ。水晶玉で連絡さえいただければ、五百万ダニアまでどんな職業でも、誰でも問わず差し上げます、と。それでこの以前に五百万ダニアをもらったのだ」
「誰が見ても怪しい!それに怪しいこと以前に闇金だろ」
予想通り闇金だった。どんなに急いでいても、それに釣れて連絡したら大変なことになると、こいつは知らないのだろうか。確かに、貴族の御子息だから、そんな事情はわからないかも知れないだが、思ったより世情に暗いやつのようだった。
「まさか、この前にナイフを持っていた険しい男は…」
「その男のことか。突然現れて借りた金を返せ、と言った。どうやって処理すべきか悩んでいたら二斗、君が現れたのだ」
「ただお金を受け取りに来たのか!もうお前はヒロインでも何でもない!ただの債務者だ!借金取りを待っている借り女だよ!」
「私のように可憐な少女を借り女と呼ぶなんてひどいじゃないか。君は人をどれほど変に呼べば満足するのだ。家出少女だとか、親不孝女とか。今や借り女という呼び名まで来てしまったのか!」
「全部事実だろ!抜き差しならないほど事実だ!この上なくふさわしい呼び名だ!」
俺は信じていたヒロインが借り女だったことに憤りをぶちまけた。
「二斗、君は私と初めて会った時、私の秘密を知っていると言ったじゃないか。しかし、なぜ今になって私に借金がいるという事実に驚くのだ。まさか私の秘密を知っているというのは嘘だったのか」
「それは当然に嘘だ。詳しい事情は分からないが、適当に脅迫に必要なものを知っていただけだ」
「君こそ謝るのだ!少女の純情をもって論じた罪を甘んじて受けろ!」
「申し訳ありません、キャシーさん。これまでの無礼をこのようにお詫び申し上げます。では、俺は何としてもこのお金を返済してみますので、キャシーさんはキャシーさんのお金が返済でますように祈ります」
俺はそう言ってキャシーのそばを離れた。なんとか頼んで掛け金にするか、他の冒険者からお金を借りるか、するしかなかった。五百万ダニアのことは忘れよう。
「二斗、どこへ行こうと思っているのだ。私たちは一心同体であり、一連托生の関係ではないか。絆と真心で結ばれた同じパーティーメンバーではないか」
キャシーは俺のズボンをつかんで離れようとしなかった。どこかで見たことのあるかっこうだった。
「キャシーさん、放してください。困ります」
あまりにもしっかりつかんでいて足をゆすっても落ちないキャシーは引きずられてきた。
「二斗。いや、二斗さん、二斗様、どうか捨てないでくださいいいいい!」
俺たちがこのようにカウンターの前でしばらくもめていると「そんなのどうでもいいから、まずお金を出してくれませんか」
怒った顔の店員さんが言った。
いつも読んでくれる読者様、ありがとうございます。もう十話になりました。読者様のお陰で頑張って書けることができたようです。下にある評価は作者の力になります。




