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白金の剣


「憧れのウエディングドレスよ!」

 クルクルと鏡の前で回るメイド。……メイド服の方がお似合いだとは口が裂けても言えない。

「ありがとう、魔王様」

「よい」

 ……なんか格好をつけている魔王様が……悔しいぞ。そして女子っぽく振舞うメイド……。純白のウエディングドレスを着れば誰だって可愛らしく見えるのさ。


 二日酔いの頭痛はウコンドリンクをたらふく飲んだら治まった。頭が無いのに頭痛……。もしかすると思い込み頭痛だったのかもしれない。

 だが、勇者の声が頭の中にこだまする……。駄目だ、考えたら察しのいいメイドに読まれてしまう……。

「デュラハン、あなたにも苦労を掛けました。遠い昔からウエディングドレスを着るのがわたしの夢だったの」

 ……夢か。メイドの夢……いや、女神様の夢にしては普通だな。

「わたしも普通の女の子よ」

「お似合いでございあす」

 ……ただのお世辞だぞ。ニッコリと微笑むなと言いたい。

「これは足りないかもしれないけれど……、ドレス代の足しにしてください」


 差し出してきたのは……メイドカフェで稼いだお金だった。


「この……ために?」

 このために毎日毎日メイドの姿をして……。

「はい。券売機に詰まって取り出すのが大変だったのよ」

 破れた千円札やクシャクシャの千円札を……鷲掴みで渡そうとしないで欲しいぞ……。


 やられたな……。

 少しでも詐欺を疑っていた自分が恥ずかしい。まあ……メイドの姿をしてカーテンの後ろで漫画読みながらコーヒー飲んでサボっていたのは内緒にしておいてやろう。

 下をペロッと出すな……笑ってしまいそうになるから。



 そして、いよいよ挙式が始まった――。


「魔王サーン。アナタはメイドサンを妻トシ、神ノ導キニヨリ夫婦ニなろうトシテイマース。汝ハイカナルとキモ共ニ助ケ合イ、ソノ命アル限リ魔力ヲ尽クスコトヲ誓イーマスカー」

 カタカナ多いぞ……。

「誓います」

 魔王様、ガチガチに緊張されている。

 真っ白のタキシードが萌え袖になっていて、指先で袖口をギュッと握っている。

「メイドサーン。汝は~中略~」

「誓います」

 中略ってハッキリ聞こえたぞ……。

「ゴ列席者ノ皆様を証人トシテ、本日ココに魔王サンとメイドサンの結婚ガ成立イタシー」

「――意義あり!」


 突然勇者が立ち上がった。だが安心しろ――想定内だ。

 魔王様と勇者の間に立ちはだかる。だが……まだ剣は抜かない。


「静粛にしろ。お前は結婚式をなんだと心得ている。――映画のワンシーンではないのだぞ」

 人生でたった一度っきりの晴れ舞台なのだぞ! 二度も三度もやっちゃいけないのだぞ――普通は。

「そんな普通論どこ吹く風さ。そんな結婚は認めない! 魔王よ、お命頂戴!」

 戦士と勇者が一斉に剣を抜いた。


 勇者といえども……剣ぐらい式中は没収しておけばよかった。……テヘペロ。


 巨漢のサイクロプトロールは戦士の前に立ちはだかる。ソーサラモナーとサッキュバスは女魔法使いの動向に睨みを効かし、魔法を跳ね返す呪文……『しっぺ返し』を唱えた。


 勇者の相手は……私が剣を抜いて受け止めようとしたのだが――、頭の中に響く衝撃の真実……「顔なしが普段から使っている、白金の剣――」魔王様に傷を付けられる唯一の武器を――魔王様のお近くで鞘から抜いてよいのか――。


 一瞬の迷いが悲劇を生んだ――、

「今だ――やれ! 弓矢使いよ!」

「――なに!」

 一緒に来ていたのか――目立たないから分からなかったぞ! どこにいたというのか! ――どこにいるんだ!


 ――ヒュン!

 弦音だけが聞こえると、眩い光り輝く矢が一直線に魔王様に飛ぶ――!

 最初からこれを狙っていたのか――! 勇者や戦士の剣はダミーで、弓矢使いの矢だけが白金だったのか――メッキの。

 だが、メッキでも表面は白金だから十分効力がある――。

「魔王様――!」

 伏せて下さい――駄目だ、間に合わない!


「危なーい!」

 一瞬のことに辺りが沈黙し、ウエディングドレスを着た女神だけが咄嗟に魔王様を覆いかぶさるようにしてかばったのだ――。


 残忍にも白金の矢は――一直線に――、

 ――ブス!

「はうっ!」

 魔王様をかばった純白の女神に……白金の矢が刺さってしまったのだが、どこにだかは……言えない。とっさに目を逸らしたから。

 ……せめて胸か背中に刺さって欲しかったぞ……違う意味で。


 見ていられず顔をそむけた。……顔が無いのも忘れていた……。


「どうして、どうしてじゃあー!」

 涙ながらに必死に声を掛け続ける魔王様……。泣きじゃくっている。

「魔王……様。平和な世界を……これからもよろしく……ね」

「もう喋っては駄目だ」


 心臓がドキドキと高鳴り、全身の血管がはち切れそうになる。


「チッ、肝心なところで外しやがって、使えない弓矢使いめ!」

「作戦が台無しじゃないか! 白金の矢は一本しか無いのに――」

「頼りにならないわね」

「ほんとほんと」

 勇者どもが……好き勝手なことをほざいている。


 守れなかった……四天王最強の騎士であるこの私が……守れなかった――平和な世界を。

「平和な世界……だと」

 魔王様も女神も言い続けてきた平和な世界。だが、ようやく今気がづいた――戦いをなくすのは不可能だ。勇者がいる限り戦いはなくならない。


 ――人間がいる限り、戦いはなくならない――!


 ――魔王様、あとはデュラハンにお任せください――


読んでいただきありがとうございます!

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