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琥珀色の酒


 深夜になり自室へと戻った……もう日が変わる時間だ。

 今日も一日クタクタだ……雑務で。特に大変だったのがチャペルの飾り付けだった。折り紙でリングを繋げる飾りを作るのが……一番手間取った。長過ぎると切れる初歩的なミスまで犯してしまった……。


 部屋の壁に飾ってある女性物の鎧を見ていると……荒んだ心が癒されていく。機会があればこれをメデューサに着てもらうのはどうだろうか……。

 ――いかんいかん! そんな不埒なことを考えてはいけない! カッチカチになってしまうぞ、鎧が。


 コンコココンコ、コンコン!

「――誰だ!」

 心臓がバクバク音を立てる!

 こんな時間にいったい誰がなんの用だ、敵襲か――?

「俺だよ、俺、俺」

 ……オレオレ詐欺ではなかろうか。

 扉を少しだけ開けると、そこにはガウンに着替えた勇者が立っていた。ある意味……、敵襲?

「なぜ私の部屋が分かったのだ!」

 さては、魔王城内を内緒でくまなく散策したのか――。

「隣じゃねーか。俺の部屋の」

「……」

 そうだった。監視しやすいように私の部屋の横からがゲストルームだった。


「せっかくの前夜祭だろ、少し飲もうぜ」

「……お前」

 未成年ではなかったのか……手には人間どもの英雄の名が書かれているコニャックのボトルが握られている。下町のナポレオンとは少し色が違う……。


「おっとっとっとっ」

 零れる! そんなに注いだら零れるぞ!

「これは国王が持っていけと渡してくれたんだ。遠慮するな、どんどん飲め」

「毒なんかは入っていないだろうな」

 グラスに注ぐと綺麗な琥珀色をしている。

「もし入っていても、お前には効かないだろ」

「当然だ」

 先にキューっと勇者が飲み干す。本当に毒は入っていないようだ。


 ならば一杯頂くのが国王への礼儀か……。

「おま、おまえ、そんなところから飲むのか――!」

「絶対に内緒だぞ……」

 敵である勇者と飲み交わす酒……今日が最初で最後なのだろう。



「デュラハンよ。ヒック。前にも言ったがお前は魔王を倒し、自分が魔王になりたくはないのか~」

「酔った勢いで脳内垂れ流しだぞ……」

「でんでん……ヒック。でんでん酔ってないぞー」

「酔っ払いの決まり文句だぞ」

 ボトルは空になり、私の秘蔵のマムシ酒など数本が空になって床に転がっている……。


「四天王最強で無敵の騎士、宵闇のデュラハンよ。ヒック。もうそろそろ世代交代が必要だと感じてはいないか?」

「感じぬ」

「ゲップー」

 ……ゲップで返事をするなと言いたいぞ。

「くだらない仕事を毎日毎日続けるつもりか? ヒック。泳げ鯖焼君か?」

 ――鯖焼君(さばやきくん)? たい焼き君の間違いだろう。冷や汗が出る、古すぎて。

「魔王は待っているのだ」

「待っているだと」

「ああそうさ。そうに決まっていヒックる。自分を倒し、次なる魔王になろうとする者を。弟子が師匠を超える日を、ずっと待っているのだ」

「そんなはずはない」

 だったら盛大に披露宴など執り行わないだろう。

「なぜ魔王が俺達勇者一行をわざわざ魔王城に呼んだのか……考えたことはあるか」

「揉め事を増やして暇つぶし……」

 プッ。

「そうかもしれないな。ウケルー」

 ……笑ってられんぞ、まったく。


 勇者はグラスをテーブルに置いた。

「願いを叶えることこそが、真の恩返しだろ」

 ……。

 勇者はたぶん――酔っていないのか?

 我ら四天王を甘い言葉で騙し、仲間撃ちさせる気なのだ。相も変わらず……策士だ。誠の勇者ではない。

「……今頃、他の四天王にもそれぞれ誘惑の策略をしかけているのだろう。酒や色仕掛け、誘惑の禁呪文といったところか……」

 本気で引っ掛かるような四天王など……いないがな。たぶん……。

「ハッハッハ。ああそうだ、さすがはデュラハン。……最初から気付いていたのだろ。だが、それに乗じて自分の目的を果たせば、誰も四天王を悪く言わない」

 ――!

「まどろみの術に引っ掛かっちゃった作戦だ」

「貴様……」

 チャラくてゲスい……。悪いことを考えさせれば右に出る者はいない。これが人間の真の力なのか……。

「それに、魔王の次なる者が一人でなくてもよいのだ。四天王が四人で次なる魔王となってもよいではないか」


 四権分立だ――!


「明日しかチャンスはないぞ」

「……」

「他の四天王は……承諾済みだ」

「なんだと」

 ドキッとするではないか。だが……騙されてはならない――そんなはずはない。仲間を信じるのだ……。

「クックック。宵闇のデュラハン。時代はもう魔王様じゃない」

「……四天王様か」

「勇者様だ」


 ――勇者様!

 普通に聞こえがいいのが腹立つ!


「いやいや、勇者様はない。納得できない。もっとこう……誰しもが納得できる時代が必要なのだ」

 デュラハン様でいい。

「面倒くさいやつだなあ……」

 敵を欺くにはまず味方からとは聞いた事があるが……誰が誰を騙そうとしているのか……。

 東の空が少し明るくなってきた。


「勇者よ。お前の剣を見せてくれ」

「いいぞお~」

 もうヘベレケ状態だ。こんな状態で挙式に出ても大丈夫なのだろうか。勇者が鞘から剣を抜く……。


 銀色に輝く剣……。


 でも、普通、剣や刀は銀色に輝く~! 材質が分からない。装飾などの見た目は……安っぽい。私も少し酔っているのかもしれない。

「持たせてくれ。見るだけじゃ……価値が分からん」

「ハッハッハ、これ軽いぞ」

 うわあ、本当だ! 羽のように軽い!

「――滅茶苦茶軽い!」

 勇者と一緒だぞ。チャラくて軽い、軽過ぎる――!

「顔なしが普段から使っている、『白金の剣』なんかよりも、ずっと安物だぞ」


 白金の……剣!


 私の剣が……白金の剣だったのを、なぜ知っているのか――!

 ……私ですら知らなかった……。

「なにか、運命ってものを感じるよなあ」

 勇者はそう呟いて部屋を出て行った。


 ……ぜんぜん。運命なんて感じないぞ。


読んでいただきありがとうございます!

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