魔王様の弱点
一通り結婚式の段取りが決まると、四天王を呼んで会議を開いた。
魔王様とメイドの二人もさることながら、別の問題も多々あるのだ。なにより……四天王自体が今や堕落の真骨頂にいる。前からもそうだったのかもしれないが、――今はさらに酷過ぎるありさまだ。
「まだ懲りずにメイドカフェに入り浸っているのか」
「「……」」
私を除く三人が目を逸らしたり天井を向いたり……とぼけても駄目だぞ。
メイドがいないメイドカフェに行って……なんの得があるというのだ。インターネットがないインターネットカフェのようなものだぞ。
「あんなインスタントコーヒーを飲むために二千円を払い続けるのは、時間と金の無駄だ」
ただのコーヒーの自動販売機店だ。
「それが、最近コーヒーが妙に美味しくなったんだ」
ソーサラモナーが言う。いったいなんの根拠だ。
「そうそう、それそれ。美味しくて何杯でも飲めるんだよ」
巨漢のサイクロプトロールは泥水だって何杯でも飲めるのではないのだろうか。
「おかげで寝不足に悩まされるけどね」
サッキュバスは……いつも夜更かししてるでしょ!
「酒の量が減ってコーヒーになるのなら……体にいいのかもしれないが、カフェンの取り過ぎにも注意が必要だぞ」
……ひょっとすると、インスタントからドリップ式に更新されたのだろうか。……もしくは、得体の知れない粉でも混ぜられているのか……。砂糖とかクリープとか……。
「でも、あの日以来、「当たり」が出ないのよねえ。何杯飲んでも」
「やっぱり、魔王妃になるような子と、チュウなんてできないよなあ」
だからあー、メイドカフェでチュウを求めるなっ! ルール違反ですから! サイクロプトロールも唇をチュウの形にしないで欲しいぞ。気持ち悪くてルール違反ですから!
「キスしたら魔王様にキルされるかもしれん」
聡明だ。魔王様を怒らせてはならない。
魔王様ですらまだキスしていない……と思うぞ。
「絶対に当たらないように仕組まれていたのだ。あのメイドは……やり手だから」
たぶんお前らの脳内も垂れ流しでバレているのさ。
「あーあ。わたしも、もう一回くらい当たればよかったなあ~」
「……それは贅沢だぞ。他のモンスター達は、誰一人当たっていないのだから」
いくらサッキュバスがキス魔だからといっても、メイドや女魔法使いとキスばかりしてはならない。
――GLに該当してしまうから。
あのメイドカフェは最初から四天王をメイドの味方に付けるよう仕組まれた店だったのだ――。邪魔者を味方につけ、堂々と魔王様との御婚約……。話が出来過ぎている。まさかのスピード婚だ。
ひょっとして……いや、それは……ないだろう……。
「デュラハンよ、魔王様の挙式に勇者一行が来るというのは本当なのか?」
そうだった。本題はそこなのだ。
「……魔王様のご意向だ」
「ちょっと何考えているのか分からないな」
皆も同意見なのだ。
「……魔王様は高貴なお方だ。考え方も我ら四天王のような凡人とは程遠いのかもしれない」
「みんなに見せびらかしたいのよ。可愛い奥さんもらったど~って」
サッキュバスの言葉に少し苛立ちが含まれている。今になって、なんだかそのヤキモキした気持ちがよく分かる。素直に喜べないし祝えない……。私もまだまだ子供だ。
「だが、勇者一行に自慢する必要があるのか? きゃつらは敵なのだぞ」
「まあ、俺様の敵ではないがな。弱過ぎて」
鼻で笑ってしまうような弱さだ。百万人掛かってきても恐くない。レベルも一桁だろう。
「もし挙式中に魔王様のお命を狙うようなことがあっても、私一人で十分守って差し上げられる」
魔王様だけは……とは言わない。
「しかも魔王様には無限の魔力で覆われた魔力バリアーがあるのだ」
故に魔王様は攻撃する力に乏しくても魔王様として君臨し続けられるのだ。四天王ですら傷一つ付けることはできないだろう。
「油断するなよデュラハン。この世には魔力バリアーでも防ぎきれない物があるのだ」
初耳だぞ。
「――それは本当か、ソーサラモナーよ」
「ああ。俺達魔法使い一族に言い伝えられている丸秘事項なのだが……。伝説の金属……白金の武器だけは、魔王様を覆う見えない魔力バリアーをバリアフリーにし、普通に切りつけることができるらしい」
バリアフリーだと?
「――白金って……プラチナのことか? 滅茶苦茶重いのではないか」
重いどころか、希少価値が高くて超高額になる。
「プラチナならわたしも欲しいわ!」
誰かにねだれと言いたいぞ。私にはねだるなと言いたいぞ。
「あんな勇者一行にそんな高額な剣などを渡せば、持ち逃げして勇者は一生遊んで暮らすだろう」
白金の剣……幾らくらいの価値になるのか検討もつかない。装飾品としてもかなり価値がありそうだ。
「だが、勇者たちはそれをチャンスとして狙っているのかもしれん」
「国王などと結託し、各国から白金を集めているかもしれない」
不可能な話ではない。人間どもも共通の敵を倒すためには手を組む。
腕も組むし、足も組む。……そしてむくむ。
「……水面下でコソコソ陰謀を企てるのは人間どものよくやる手口なのだ」
せめて、正々堂々と戦いたいものだ。
「当日、人間どもで来るのは勇者一行だけなのだろ」
「ああ。いつもベッドに寝そべってポテチばっかり食っていやがる」
試練や鍛練とは縁のなさそうチャラ男だ……。
「だが油断は禁物だ。『男子三日会わざれば刮目して見よ』ということわざがある。四天王は一丸となって魔王様をお守りするのだ」
ソーサラモナーもサイクロプトロールも魔王様のことをしっかり考えていたのか……。
「言われるまでもない」
「当然だわ」
なぜ……勇者一行を呼びたいと魔王様がおっしゃった時に猛反対しなかったのか……。どこかで番狂わせを期待しているのだろうか……。
結婚式当日に……神父をさらっていくような……。
いや、神父さんをさらってどうする! 「オーマイガー」だぞ。さらうのは新婦だ、紛らわしい。
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