漂う金属臭
「ミニのウエディングドレスってどうかしら?」
……安っぽく見える。
ドレスの仕立屋……ではなく、魔王城内にあるチャペルのレンタルウエディングドレスをメイドが次々と試着していく。魔王様はともかく、なぜ私までもがそれに付き合わされているのか――。
「それで、お辞儀する時に純白のパンツが見えるって、どう?」
「「――ならぬっ!」」
安々見せる者ではありませぬと説教してやりたいぞ――! 先に色までばらしてしまえば、見えた時の楽しみも激減してしまいまする。それに、そういったお色気部門は四天王サッキュバスの得意分野だ。
――彼女のポジションをこれ以上取らないであげて――。
「ミニのウエディングドレスを着るのなら、予は短パンを穿くのか」
……なぜ結婚式で新郎が短パンを穿かねばならぬのか。黒の短パン……小学生かお笑い芸人だぞ……。
白の短パンでもダサいですぞ――!
いったい何をやらされているのだろう……私は。ここ数日ペンとクリップボードを持ち歩き、結婚式の打ち合わせ内容をどんどん紙に書いていく……使い古しのA4裏紙に……。これではまるで私がウエディングプランナーではないか!
憧れの職種……? いやいや、四天王がペンを持って仕事など……ひと昔前は、ありえなかった。勇者や人間どもと戦っている方が……性に合っているぞ。
騎士が握るのは、剣でなくてはならないのだ――。
「いっつもペンじゃん」
……ミニのウエディングドレスを鏡で確認しながらそう言うメイドは……やはり余計なスキルの持ち主だ。
勝手に人の心を読みやがる~! 最強にして最悪のスキル。私の脳内垂れ流し……。
……たしかに剣よりもペンを持っている時間の方が圧倒的に長い。昔から……。
「デュラハンよ」
「なんでしょう、魔王様」
「剣はペンよりも強いぞよ」
「……」
当たり前だろう。でも違うよね。……本当に理解されているのか不安になる。突っ込みを待っているのか本気で間違っているのか判断がつかない。クスクス笑っているメイドも……なにかおっしゃってください。
「それをおっしゃるなら、「ペンは剣よりも強し」ですわ」
「そうそう、それそれ! ハッハッハ」
「アハハ」
……。
なんだこのバカップルぶりは――! メイドに細い目で睨まれてしまった。
次のドレスに着替える間を利用し、披露宴のメニューを相談する。他にも決めないといけないことが山盛りなのだ。もう来週なのだぞ? 間に合うのだろうか……。
「メインのステーキは鶏のササミがよいのではないか?」
ササミ――!
まさかのチキン――! グラム百円前後~! 祝儀返せとフォークやナイフが飛んできますぞ。
ササミは口の中でパサパサになり、いつになっても飲み込めないぞ~!
「せめてフォアグラにしましょう。私も食べたいですし結婚披露宴といえば、やっぱフォアグラでしょう」
フォアグラとは晴れの舞台で食べる縁起物なのです。魔王城内養鶏所には、ガチョウやアヒルも沢山飼育されております。……ブロイラーも沢山おります。
「フォアグラは胃にもたれるのじゃ……」
おっさん発言でしょうか。
「たしかに脂っこいですが……」
「いや、ガチョウの」
――そっち! 無理やり餌を食べさせられるからガチョウが胃もたれ? 胸やけ? ……鳩胸?
「ですが魔王様、それを言われればブロイラー達も首を長くして出荷されるのを待っているのです。ありがたくいただきましょう」
「わたしもフォアグラ食べたいわ。――大盛で」
――うるさいから! あなたは黙ってて――!
ドレスのウエストの部分にゆとりがあるか確認しないで――!
「デュラハンよ、この焼き立てのパン食べ放題は普通じゃぞ」
「……そこは普通でよろしいかと」
魔王様が普通論を拒むとは……思わず舌打ちしたくなる。
「焼き立てのパンではなく、握りたてのおにぎり食べ放題はどうじゃ」
「おにぎり食べ放題ですか?」
しかも握りたて? ……いや、駄目だろう。
「知らない人が握ったおにぎりを食べられないモンスターや子供達が増えてきております。以前、私がガントレットで握ったおにぎりをスライム達が食べるのを拒みました」
私は体の隅々まで毎朝かかさず様々な有機溶剤で綺麗に磨いているのに!
さらにおにぎりを握る前に、石鹸で手を洗いアルコール消毒もしたのに――!
……プラッチック手袋はガントレットの上からはめられないのだ。破れてしまう。
「金属臭そう」
腹立つはこのメイド……。遠回しに私が金属臭いと言っているようなものではないか。って、舌をペロッと出して笑うな!
「……グサッと刺さります。私は全身金属製鎧のモンスターなのです」
生まれた時から顔無し全身鎧のモンスターなのです。金属臭は生まれつき仕方ないのです。体臭です。
「おにぎり食べ放題より、おにぎり握り放題の方が楽しくなくて」
「ないぞ! 握り放題って……楽しいのかそれ?」
食べ物で遊んじゃいけないぞ。さらに炊き立てのご飯は熱くてすぐに握れないのだぞ!
いったいどんな披露宴になってしまうのか――頭が痛くなる……。
「首から上が無いのに……でしょ?」
「……御意」
なんだろう、この「倍疲れる」感は……。
魔王様以上にメイドが……対応しにくくて仕方がない。……≒やりにくい。
「……結婚式の打ち合わせもよいが、少しはメイドカフェにも顔を出したらどうか……どうでしょうか」
ドレスの試着が終わったら、さっさと持ち場へ戻れと言いたいのだ。魔王様と二人の方が、まだスムーズに計画が進みそうだ。
「顔なら出してるもん。毎日」
もんとか言っても駄目だ。性悪女なのはバレバレだ。
性悪女はツンデレしても可愛くないのだ。
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