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魔王様、あとはデュラハンにお任せください

※魔王様シリーズの「魔王様、スライムのお通夜に参列するのはおやめください」からお読みいただけるとより一層楽しめます。


「――なぜだ! なぜなのだデュラハンよ!」

「……」

 答える義務は……ない。

「冗談なのだろ?」

「冗談などではございません」

 大きすぎる玉座に座る魔王様の表情はこわばり、怒りと脅えをひしひしと感じる。冗談が冗談でなくなったとき、人は……いや、魔王様はこんな表情をするのか。


 コメディーがシリアスに変わった時――人はこんな表情をするのか――。


「では聞こう、なぜ卿に任せねばならぬのか――」

「簡単な事です。魔王様はお忙しい身。さすればあとは、


 このデュラハンめにお任せください――」


「――貴様……裏切ったな!」

「裏切ってなどございません! ……人聞きの悪い。魔王様は式場の下見やリハーサル、ドレス選びの付き添いなどで忙しくなるのは必至。であれば、招待状の作成やウエルカムボード用の写真の切り抜きなどの雑務は私が引き受けると言っただけです」

 裏切った――ってひど過ぎるぞ。まだ何も裏切っていないぞ……。


 沢山の結婚式場のパンフレットを脇にはさみ魔王様の前で跪く。とうとう……とうとう魔王様の挙式の日取りが決まってしまった。

「だが、卿が一番楽しそうではないか――」

 楽しいものかと反論したい。ガントレットでハサミを扱うのがどれほど大変なのか魔王様は知らないのだ。

「予もマリッジブルーになりたいぞよ」

「……」

 ダメだろう……マリッジブルーになっちゃ。どちらかと言えば、私の方こそマリッジブルーになりそうだ。



 サッキュバスをはじめ、四天王がすべてメイドカフェで働く一人のメイドの虜になってしまった。メイドカフェで何杯コーヒーを飲んでも「当たり」は出ないぞと忠告しているのに性懲りもなく通い続けている始末……。これでは操り人形……いや、操りモンスター形だ!

 魔王様にまさかの逆プロポーズをしたメイド。魔王様がコクリと頷いてしまえば……もう誰も逆らえない。他にもっとましな婚約者候補はいなかったのだろうか。

 世間はお祝いムード一色なのだが……なにかが腑に落ちない。

 ……あのメイドの本心が分からない。元々は女神だったとか、石にされて女神の像になったとか言っているが……今では怪しささえ感じる。本当は大悪党とかで、度重なる悪事により石にされたのではなかろうか。性格悪そうだし……。

 挙式を来週に控えているというのに、今日もメイドカフェでモンスター相手に荒稼ぎを続けているのだ。


 玉座の間で魔王様と挙式の打ち合わせをしているのだが、男二人では話がぜんぜんまとまらない。玉座の間で魔王様と二人きりで話をする時間も残り僅かなのかと考えると……いや、考えないでおこう。今は考えたくない。


「予算は百万円前後だなあ」

 剃り残った顎髭を指で気にされながら呟く。リアルな額だ……。いや、シビアな額と言っても過言ではない。挙式と披露宴とお土産代。さらにはウエディングドレスのレンタル代で……足が出てしまう。

「いや……もう少しくらい必要かと思います」

 ご祝儀で幾ら集まるのだろうか……魔王様には親族も上司もいないからなあ……。いや、そもそも一国の主であれば豪華絢爛さがなければ人間どもや他のモンスター達にも馬鹿にされかねない。

 魔王様の威厳が保てない――。

「せめてもう一桁くらい増やし、パーッとオープンカーでパレードなどしてみてはいかがでしょうか」

 車の後ろに紐で空き缶くくりつけて……カンカラカンカラ~冷や汗が出る、古すぎて。

「あり得ぬわ! 今は少しでも節約し魔王城の耐震補強工事や水道管の更新工事、さらには食堂の水漏れ修理に太陽光パネルの設置など、やらねばならぬことは沢山あるのだ」

「……」

 費用が掛かることばかりだ。それなのに魔王軍の景気は右肩下がり……。人間どもを襲わなくなってから収入大幅ダウンはいたしかたない。

 それなら結婚式をやめてはどうかとは……口が裂けても進言できない。怒られるのではなく、その案が採用されてしまうからだ~。婚姻届けを魔市役所に提出して済ませてしまうかもしれない――!

 私や他のモンスターならともかく……魔王様がそれをなされては駄目だ。怒り狂ったブライダルプランナーや式場関係者に背後からプスリと(あや)められそうだ……。

「お色直しも……一回やっちゃう?」

 魔王様は……ケチでいらっしゃる。

「一回はやりましょう」

 後でチクチク言われるのが怖そうだ。


「あ、そうだ。是非とも勇者一行も呼ぼう」

 えー――!

「何故ゆえにですか!」

 きゃつらは人間、魔族の敵なのですぞ! ちょっと何言ってるのか分かんないや。

「魔族と人間が共に手を取り合い、予とメイドの結婚を祝福するのだ」

「……」

 メイド以外の呼び方は……ないのだろうか。名前で呼ぶとか発想は……ないのだろうか。気付けば魔王様もずっと魔王様だぞ……。


 いまさらややこしい本名を名乗っても誰も覚えてくれないか……。じゃあ、メイドのままでもいいか。


「人間どもが魔族の幸せなど、祝福するでしょうか」

「嫌ならよい」

「その発言は怖いです」

 私が面倒な仕事が増えるので嫌だと渋っているように聞こえてしまいます。魔王様のために「くたびれ損の骨折り儲け」は日常茶飯事です。

「いやいや、そういう脅しではなく、嫌ならば来なければよいのだ。誘うだけ誘ってみて欲しいのだ。招待状を渡すだけとか」

 招待状……早く発注しないと間に合わないではないか――それに……、

「結婚式の招待状って……貰ったら断るのはタブーなんでしょ。予定があるからとか言って断る輩もいますが、そもそも、その予定をキャンセルするために早目に招待状を送るのですから」

 れっきとした冠婚葬祭なのですから――。


 勇者一行も……わざわざ敵の大将の結婚式なんぞに出席したいと思わないだろう。

 祝儀も包まなくてはならないし、祝儀袋に筆ペンで名前を書くのも一苦労だ。字が汚いのがバレてしまうのも……恥ずかしい。私も筆ペンが嫌いだ。ガントレットで筆ペンを握ってどう頑張っても綺麗な「止め」「跳ね」「払い」が描けないから。



 ところが。


「え、いいよ。いくいく」

「……本気か、勇者よ」

 返事が軽すぎるぞ。夜食で牛丼を食べに行くような誘いではないのだぞ――。

 招待状を渡して三秒も経っていない……。中身を読む前に返事なんかするんじゃないと言いたいぞ。この危機感無し男め――。


 私は魔法が使えない騎士だから四天王の一人、聡明のソーサラモナーと共に瞬間移動(テレポーテーション)で勇者一行が根城にしている人間界の宿屋へと来ていた。宿屋のフロントのお姉さんは魔族の私を顔パスで通してくれる。

 首から上が無い私のようなモンスターを顔パスしていると……いつかエライ目に遭うぞと忠告してやりたい。


「ご祝儀は三万円でいいだろ」

「……妥当だ」

 勇者の顔など二度と見たくなかった。次に会う時は生死を掛けたバトルが勃発すると思っていたのだが――。

 相も変わらずめっちゃチャラいぞ、この勇者は! またベッドに横たわってポテチのうすしお味を食べていやがる! いや、のり塩味を食べていやがる! 汚れた手をシーツで拭いているから、シーツにノリが付いている! 洗濯のりじゃなくて、のり塩の海苔――!


 すぐ横に魔王軍四天王が立っているのに、警戒心ゼロで漫画を読み続ける~。

 ひょっとすると……大物なのだろうか。コソコソしている私と対照的過ぎて嫌になる。


「それで挙式は、いつ、どこでするのだ」

 それが書いてあるのが招待状だと言いたいのだが、

「場所は魔王城の一階チャペル。ちょうど一週間後の土曜日だ」

「――魔王城内にチャペルがあるのか!」

 むしろそこで驚くなと言いたいぞ……。

「いいのか、宗教的に」

「なにも問題ない。ノープロブレムだ」

 大都市にあって魔王城に無い物はないと噂されるほど魔王城内には色々なものがあるのだ。屋上には畑やヘリポートもある。メイドカフェもあるぞと自慢したくなる。

「楽しみにしている」

「……」

 怪しい目つきだ。


「邪魔をしたな」

 扉を閉めようとした時だった。

「あ、そうだ顔無しよ」

「デュラハンだ! 魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハン! いい加減に覚えろ」

 ――って言うか、顔無しとは呼ぶな! みんなアレを想像してしまうから~!

「前日から魔王城へ行ってもいいか」

 前のりってやつか。……魔王城には幾つものゲストルームがある。勇者一行を全員個室で泊めてやっても、なんら問題はないのだが。

「当日では駄目なのか」

「だってえ、朝シャンとかしないといけないっしょ」

 クラっとする。

 魔王軍最強の騎士たる私ですら人間どもの城や街に長居はしたくないというのに……。

 ひょっとすると、枕が変わっても爆睡できるタイプ……ニュータイプか! 冷や汗が出る、ニュータイプなのに古すぎて。

「仕方がない。魔王城の部屋を用意しよう。だが約束しろ、魔王城内のモンスターには指一本触れないとな」

「ああ。そっちもだぞ」

「……ああ」

「ふっふっふ」

「? ふっふっふ」

 なにを企んでいるかは知らないが、この程度の勇者なら何万人押し寄せようが敵ではない。魔王様もいざとなったら無限の魔力でご自身の身を守ることくらいできるだろう。

「国王は呼ばないのか」

 人間の国王か。白髪白髭の年寄りだったはずだ。

「呼ばない。年寄りは話が長い」

「たしかに」

「トイレは近い」

「たしかに!」

「祝儀袋に平気で金を入れ忘れる」

「あるある。「入ってなかったよ」とは言い難いんだよなあ。お前とは気が合いそうだな顔無しよ」

「……」

 ちょっと話が合っただけだ。


 人間などとはいつまでたっても気などは合わぬわ。

 宿を出て外で一人待っていたソーサラモナーと人間界を後にした――。


いよいよクライマックスのスタートです! 読んでいただきありがとうございます!


ブクマ、感想、ポイント評価、面白かったらレビューなどもお待ちしております!

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