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成人の儀2

 




 異世界でも星々の光はある。


 そして玲瓏と夜を照らす月もある。


 前世の地球と違うのは3つの大中小の満月が煌々と輝き、夜空を篝火のように浮かぶ。


 あの無数の星の中にかつての自分が住んでいた惑星もあるのだろうか?


 なんてセンチメタルなロマンチストなことを昔は考えたこともあったが今の自分にはせんなきことである。


 集落の広場には巨大な大木が何本もが四角く編み込まれたキャンプファイヤー的な火が焚かれ、その上には巨大な黒い猪が皮を剥がれ肉を剥き出して逆さまに串刺しにされこんがりと焼かれて香ばしい匂いを発していた。


 周囲には老若男女の人々が顔を彩色豊かに化粧して着飾り、酒を飲み料理を食べ談笑に花を咲かす。


 打楽器や弦楽器の独特な音楽が流れ、リズムに合わせて複数の派手な衣装の演者が軽やかに舞いながら踊る。


 皆頭には獣耳が生えており、お尻に尻尾が生えている。


 子供も大人もみんなだ。


 ここは人間の集落では無い。


 獣人と呼ばれる種族の村なのだ。


 その中でも特に希少な種族、人狼族の村。


 かつて獣人の中でも最強かつ美麗で、獣人族を纏め上げていた誇り高い一族。


 だが今はその種族もここにいるだけの人数になってしまったという。


 そう子供の頃にオレの婆ちゃん、この集落の族長に聞かされたことがある。


 オレは周りから漂うアルコールの匂いを嗅覚からシャットダウンしながら手元の果物から搾ったジュースが入った木の器をくぴりんこと煽り、今日仕留めた黒曜猪の焼肉にかぶりつく。


「ん〜、このスパイスが効いたピリ辛風味がまたヤッシーの実から搾った甘酸っぱいジュースによく合う〜モッチャモッチャ」


 今オレは祭りの主役兼主賓として広場の特等席に陣どり、胡座をかいて宴を謳歌していた。


「……まったく儂が苦労して用意した巨大黒曜猪をこうもあっさり仕留めちまうなんて……さすが儂の古き一族の血を引く孫娘だよ、ヴェネライラ」


 オレの隣に片膝立てて座るワイルドな灰色の鬣の左眼に傷が有る隻眼の筋肉の塊の褐色美女が酒樽から直接柄杓ですくい、ぐびぐび飲んでぷっはーっ!と酒臭い息を吐く。


「ちょっと婆ちゃんあんまり飲みすぎんなよ。オレ酒の匂いだけで酔っちゃうから」


「なぁにーっ?このめでたい席で酒を飲まずに何を飲むという?お前は腕は立つが相変わらず酒嫌いは治らんのだなぁ」


 そう言って筋骨隆々な隻眼美女がオレの肩に傷だらけの丸太みたいな筋肉質な太い腕を回し組み、その豊満すぎる馬鹿デカイ最早凶器と言っていいほどの双丘でオレの頭を挟み込み抱き締める。


 ちょちょ、ヤバイっ!婆ちゃんのオッパイ締めはマジシャレにならんっ!うぎゃーっ!!


「もがーっ!ぢぬーっ!窒息ずるうーっ!!」


「はっはっはっ!ヴェネライラ、お前は小さいなぁ。たくさん食ってもっと肉を付けろ!儂の血を引いてるんだ、将来はバインバインな美人になるぞっ!」


 前世のオレなら喜んでこの殺人爆乳でテクノブレイクしたが、今は可憐な獣人の少女。マイジュニアは遥か創世の彼方に旅立ってしまったのだ。


 まあ、ちょっとオレは前世からワケありで、今生の性別とは精神的に違うのだが。


 詳しいことはいずれ語るにしても今はこの筋肉なのかマシュマロなのかあるいは両方か未知なる物質なのか謎の強力なダブルリーサルウェポンから脱出しなければっ!うごごごっ!流石最年長歴代最高戦士であり現族長を務めるお方!オレの自力では到底及ばぬう!


 そうこの隻眼のグラマラスなワイルド褐色筋肉美女が今生のオレの婆ちゃん。そんでこの獣人の集落を統括する族長で一番偉い人。いや、婆ちゃんて見た目は二十代後半くらいの肉食系お姉さんなんだけど、人間換算すれば百歳以上いってるんだよね。


 これは種族の特性なんだけど獣人は寿命が結構長いのだ。人間でいえば二十歳ぐらいから見た目が不老状態になるらしい。人狼族に限らず他の獣人もそうみたいで見た目はみんな若いまま歳を重ねるそうなのだ。


 獣人が古来より戦闘民族でいつまでも全盛期の肉体を保持するのが理由らしい。あとは、まあ、あれだ。子孫繁栄するために見目美しく、若く、というのもある。


 ほんでオレはこの人の孫なのだ。本当に血が繋がってるのはオレの内緒にしてる隠しスキル『鑑定』で確認済みだ。


「……お前は本当に日に日にアズリアリに似てきたよ……目元の形から鼻先、笑う表情もそっくりだ……」


 婆ちゃんが片目を細め懐かしそうに、寂しそうに呟く。


「婆ちゃん?」


「!? あっあー!ちと飲み過ぎたかね?儂はちょいと席を外して酔った頭と身体を冷ましてくるよ。ザイファ、あとは頼んだよ」


 オレはわりかし本気で苦しくなったので、デカ乳をバチンバチンとスパンキングしてタップしながらこれは隠した他の『能力』をちょっとマジで使おうかなと考えてたら婆ちゃんが抱き締める力を弱めた。


「はい。族長」


 悪魔的に柔らかながら凄まじい乳圧の抱擁からオレを解放した婆ちゃんが席を立つと近くに控えていたザイファが婆ちゃんに頷く。


 その時婆ちゃんがすれ違いざまにザイファに何か耳元で囁いたと思ったらザイファは顔を真っ赤にして眼を見開いてオレを見る。


 そして婆ちゃんが酔いながらもしっかりとした足取りでデカイおっぱいをプルンプルンさせて広場から去る。


 ちなみに婆ちゃんは2メートル越えの獣人族がゴロゴロいるこの村でも背はかなり高い。ザイファよりも高いマッスル婆ちゃんだ。


「……ヴェネ。隣、いいか?」


「おう、いいぜ。座りな」


 ザイファが顔を赤くしてチラチラこちらを伺いながらオレの隣におずおずと座る。


 さっき婆ちゃんがちらっと言ったアズリアリとはオレのこの世界での母ちゃんだ。


 オレには母ちゃんはいない。父ちゃんもいない。


 なんでいないかというと、この話はちょいと胸糞悪くなる話になる。


 そんでもってオレの生い立ちに関することと、この世界における現状も語らねばならないのだ。







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