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力を示す者

 







「驚きましたか?まさかこんなところで同じ惑星、地球からの巡り合わせで、故郷の人間と出会うとは。私も大変驚いています。嗚呼、なんていう運命の悪戯」


 痩身の男が大袈裟にオペラの歌劇のようにリアクションする。


「………まさかオレの他にも転生者がいやがったとはな

 ………」


 オレはコイツの見たステータスを思い出す。今はもうロックがかかって見れない。それもそのはず、こいつ、わざわざオレに自分の情報を開示してきたのだ。


 そして見たコイツの能力値、魔法の数々、スキル云々、どれもヤベェもんばかりだった。


「ああ、しかし残念です。いくら前生では同じ地球の人間でも今生では、お互いまったく異なる種族。君は獣人、私は人間。しかもこの異世界では人間と獣人が覇権を争うという。これを悲劇と言わずにはいられるかっ?否、ないっ」


 男のひとり茶番劇団が続く。だが、オレは動けない。コイツ、ふざけてやがるが、まったく隙がない。


 正直、戦うのは滅茶苦茶に宜しくない相手だ。


 だがオレは少しでも時間を稼がなけりゃならない。ザイファたちが逃げる時間を。


「………おい。お前は何でこの世界に転生したんだ?オレは向こうで死んだらこっちにいつの間にか居たんだが」


 オレの問いにピタリと身振り手振りを止める痩身の男。姿勢を正し、メガネをくいっと持ち上げる。


「………そうですね。私も不慮の事故で亡くなりましたが、運良く"神"と出会い異世界転生を赦されましてね」


「神?お前は神様に会ったのか?オレは誰にも会ってないぞ」


「ふむ?どうやら君と私では転生の仕方に差異があるようですね。これは実に興味深い………ああ、ひとつ素晴らしい提案を思いつきました」


 男はメガネを光らせる。


「鑑定で知ったと思いますが、この世界での私の名はケイオス・グランバール。しがない人間であり、少しばかり腕に覚えがある魔術士です。少々副業で奴隷商の真似事もしておりますが、私は元々本業は科学者なのです」


「科学者?この世界に科学があるのか?」


「ありません。私が最初でしょう。私は知りたいのですよ。この異世界の摩訶不思議なすべてを。魔法とは何か。異世界人とは何か。魔物とは何か。神とは何か。この異世界の真理とは何か。知りたい。私は知りたい。解き明かしたい………そこで君に提案です。私と一緒に来ませんか?」


 オレは一瞬、首を傾げた。


 ん?何言ってんだこいつ?なんでそうなるんだ?


「あぁ、解っていますよ。この世界中では人間と獣人は争う種族。しかしそんなもの些細なこと。君は私と同じ異世界人、転生人。種族は違えど志しは同じく。人とは知的好奇心の塊り。君も知りたいでしょう?私と君の異世界の知識が有ればこの世界の謎が紐解かれる日も近いでしょう。どうですか?素晴らしいでしょう?」


 ドヤ顔の男。


「………お前、自分のことかしか考えてないやつだな。オレは魔法だの異世界の理だの神様だの、どうだっていいんだよ。オレは今のオレか気に入ってるからよ。それを好き勝手やって人の家に土足で荒らし回るお前らには心底ムカついてるし。付き合うつもりはさらさらねえな」


「………ふむ、そうですか。君はこの異世界を、この世界の一部として己れを受け入れてしまったようですね。残念ですが、仕方ありませんね。せっかくの同郷の人間、いや今は獣人でしたか。まあ、持って帰って研究材料にしましょうか」


 メガネの痩せ男、ケイオスは特に感慨もなく杖をかざす。


「さあ、いつまで寝ているのですか?起きなさい。ジャフ。ビビィ。仕事はまだ終わっていませんよ」


 ケイオスから濃い闇の魔力の波動が周辺に放たれる。


 すると崩れた家屋の瓦礫が爆散し、巨漢の男がのっそりと姿を現した。


「あ〜〜、まだ頭がくらくらしやがるぜ………こりゃ久しぶりに死んだからか………」


 炎が渦巻き、燃える渦中から女がむくりと立ち上がる。


「クソがっ………このアタシが死ぬなんていつ以来かしら?………最低に気分が悪いわ………」


 ………おいおい、嘘だろ?こいつら確かにオレが殺したはず。なんで生きてんだよ。そういや、痩せメガネの職業がネクロなんとかだったか?ゲームとか漫画でよくある死体を操る魔法使い。こいつ、ヤベェ魔法使いやがる。ちっ!鑑定したときもっとよく見ればよかったぜ。


「ジャフ、ビビィ。君たちが殺されるとは中々にこの獣人の少女はやるようですね。それとも君らの腕が鈍ったのでしょうか?」


「ぬぅっ……!ガ、ガハハ。だ、旦那。油断しただけだ。次は失敗はしねえ。チャンスをくれっ」


「………ケ、ケイオス様。お手を煩わせて申し訳ございませんっ。お許しをっ」


 痩せメガネの前にヨロヨロしながらも歩み寄り膝をつくふたり。


 震えている。よほどこの男が恐ろしいのだろうか。


「君らを元の物言わぬ死体に戻しても構わないのですが………まあ、今回は大目に見ましょう。代わりに私が片付けますから控えていなさい」


 メガネの奥の糸目を僅かに開き、物を見る冷淡な眼差しで指示する。


「り、了解した……」「は、はい……」


 かしずく二人の間を抜けて痩せメガネが歩く。


「待たせてすみませんね。いやはや人を扱うのは向こう側でも苦手でして」


「人?オレにはお前がタダのモノを扱ってるようにしか見えなかったがなぁ」


 メガネをくいっと上げて痩せメガネは杖をかざす。


「おやおや。心外ですねえ。私はモノは大事に扱いますよ。こんな風に。禍つたれ、黄泉の調べ。冥界の棺を開け。"ネクロフィールリボーン"」


 地面に魔法陣が刻まれドス黒い魔力と瘴気が渦巻く。真っ暗な闇の円型から巨大な何がズリルズリルと這い出し現れる。


 それは巨大な異形の骸骨。


 どう見てもあの有名なモンスター、ドラゴンのスケルトンだった。









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